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剛力彩芽と学ぶジェンダー格差の問題。SDGs 慶応大大学院・蟹江教授「日本は世界でも“どん尻”」


この記事に該当する目標
5 ジェンダー平等を実現しよう
剛力彩芽と学ぶジェンダー格差の問題。SDGs 慶応大大学院・蟹江教授「日本は世界でも“どん尻”」

持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」を学べるニッポン放送の特別番組『SDGs MAGAZINE』の第12回が3月5日に放送された。今回のテーマはSDGsのゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」。女優、剛力彩芽さんが“ミスターSDGs”こと慶応大学大学院教授で同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表を務める蟹江憲史氏に、ジェンダー問題にまつわるさまざまな話を聞いた。

3月8日は「国際女性デー(International Women’s Day)」。20世紀初頭、欧米で行われた労働運動が起源とされ、1975年に国連が定めたもので、女性の権利と世界平和を目指して世界各地で記念行事や催しがこの日に開催されている。2021年のテーマは「リーダーシップを発揮する女性たち:コロナ禍の世界で平等な未来を実現する」となった。今回は、この「国際女性デー」に際してSDGsのゴール5「ジェンダー平等を実現しよう」を改めて考えるため、SDGs研究の第一人者である蟹江教授をゲストに迎え、ジェンダー問題の現在位置に迫った。

剛力 「まず思うのはこういうテーマがSDGsにある時点で、男女間の平等はまだまだ遠いということですよね」

蟹江 「そうですね。残念ながら、そういう国がまだまだ多いということです。意識は段々高まっているものの、日本は特に世界でも遅れているので、一番どん尻までいって、もう後がないから一気に頑張るしかないというところまで来ているのではないでしょうか。徹底的に壊すしかないという感じですね」

剛力 「これが達成されないことによる問題というのはなんでしょう」

蟹江 「女性が虐げられてしまって、社会的に自分の能力を十分に発揮できない状況は社会全体としてリソースが無駄になっているということになりますし、そもそも嫌な思いをする人がいるというのは良くない話ですよね」

ここで、ゴール5の文言(以下参照)を改めて見てみると、剛力さんはあることに気付く。

剛力 「すごくシンプルに思ったのは、ジェンダー平等と言いながら、ターゲットは女性に関することが多い印象ですが・・・

蟹江 「そうなんです。そこに気付くのはさすがです。ジェンダー平等というからには性的マイノリティーの方やLGBTの話がもっとあっていいと思うのですが、女性の話ばかりですよね。それほど女性が虐げられている、差別されているということです。だから、まずそこから手を着けましょうというのが、このゴール5です。そこから先に、同じように性的な多様性を認めるというものがあるし、逆に男の人が差別されるということもあり得る。だけど、やはりそれを加味した上でも女性の置かれた立場があまりにも酷すぎるということで、女性の話が多くを占めるということになっているのだと思います」

剛力 「このターゲットの中で特にこれは・・というのはありますか」

蟹江 「5.4には育児や介護、家事労働を認めて評価しようということが書かれています。ただ、認めて評価するのは大事ですけど・・・」

剛力 「認めるというより、一緒にやることが大事ですよね」

蟹江 「そうです。一緒にやりましょうということです。これは基本的な価値観であるとか、考え方がすごく出る話なのではないかと思います」

剛力 「難しいと言ってはあれですけど・・・」

蟹江 「学生を見ていると、すごく意識が高くて、トランスジェンダーとかLGBTの子は普通にいるけれども、それをあえて意識しないで自然のままに受け止めている。でも、社会はそうじゃないじゃないですか。仲間内ではそうかもしれないけど、キャンパスでもトイレは男女に分かれていたりとか、そこから外に一歩出るといろいろな区別、差別があったりする世の中なので、そうしたときに議論をすることが大切かもしれませんね」

剛力 「私も、男性、女性というより個人個人で見ているので、あまり意識したことはないかな

蟹江 「SDGsに書かれていることは、全般的に当たり前の人にとっては当たり前のことなんです。ただ、『こんなこと、書かなくても当たり前じゃん』というのができていない。そこを直すためにどうするかということを考えなければいけない。それを社会の全体に広めていくということですよね」

剛力 「意識の変え方ですね」

蟹江 「そして、ゴール5の話って他の話にも全部関わってくる話なんです。働き方にも関係してくるし、温暖化対策にも関係してくるし、街づくりにも関係してくる。ここを切り口にしてSDGsを考えていく。SDGs的にも広がりのある目標だと思います」

剛力 「貧困も、その一つ」

蟹江 「貧困は最たるものといっていいでしょうね。貧困のご家庭はシングルマザーの人が多かったりする。ジェンダーの問題をしっかりと扱うことによって、貧困問題も解決されていくポイントになるように思います」

こうしたジェンダー問題の基本を踏まえ、番組が注目したのが企業の具体的な動き。ソーシャルメディアを活用し、ジェンダー平等の推進に成功している企業として2017年に「女性活躍促進」のモデル企業として認定された石川県金沢市の加賀建設の取り組みが紹介された。

【加賀建設が取り組む女性活躍推進とは?】
https://sdgsmagazine.jp/2021/03/05/1190/

男性イメージの強い建設業だが、同社ではFacebookや電子掲示板といったICT(情報通信技術)を活用し、女性の活躍している姿を配信するなどして女性職員の数が2013年から18年までで5倍に増加したという。また、建設業における女性の平均就業率は14%台だが、同社は全従業員の約34%が女性となっている。また、建設作業現場のおける更衣室・男女別トイレの設置や、管理職への女性の積極登用、男女ローテーションでの社内清掃実施など女性活躍推進の取り組みを行い、19年には厚生労働省から女性活躍推進法に基づいて一定基準を満たし、女性の活躍促進に関する状況などが優良な企業を認定する「えるぼし認定」を受けている。

剛力 「ターゲットの5.bにもあるICTを活用している企業とのことですが、まずICTとは何なのでしょう」

蟹江 「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略で、パソコンとかスマホも含めて、私たちが毎日使っているものです。そういう技術によって簡単に情報にアクセスできるようになったことで、自宅からテレワークができたり、子育てをしながら情報を発信できたり、いろいろ便利なところがありますよね」

剛力 「そこで加賀建設さんが、モデル企業として認定された、と。建設業というと、男性のイメージが強いですが・・・」

蟹江 「建設業というと土木建築ですから、そういうイメージを持つべきではないと思いますが、一般的に土を掘ったりとか、大きな機械を動かしたりとかなので、何となくマッチョなイメージになっていると思うんです。でも、考えてみると建物や施設ってみんなが使うものじゃないですか。だから、女性の視点が入ったほうが本当は良いんです。われわれの先入観とか偏見によって、イメージがゆがめられてしまっているものの一つが建設業界なのではないかなと思います」

剛力 「どうしても力仕事というイメージがあります。ただ、そういうのが好きな人も男女問わずいますしね」

蟹江 「力仕事を女性がしたっていいわけです。そこに焦点を当ててFacebookなどで発信していると、女性の人材も集まってくると思うんです。また、石川県、金沢市は結構SDGsの先進県、先進市なんですよ。この中で、こういう企業が出てきているのはなるほどと思いました」

剛力 「そうなんですか。なぜ、石川県は先進国なんですか」

蟹江 「石川県とか富山県、福井県とか、あの辺りはなぜかよく分からないのですが、SDGsが盛んです。富山とか福井は、女性が仕事についている率も高い。眼鏡で有名な福井の鯖江市もSDGs未来都市というものに入っています。実は、その未来都市の中でジェンダーに焦点を当てているのは鯖江だけなんです。もっとみんな焦点を当ててほしいなと思いますけど、あの辺りって女性が仕事をしやすい雰囲気があるんじゃないかなという気がします」

「SDGs未来都市」とは自治体によるSDGsの目標達成に向けた取り組みの提案を公募し、優れた取り組みを提案する自治体を選定する制度。鯖江市は19年度に選ばれた31自治体の一つで、「女性が輝くめがねのまちさばえ~女性のエンパワーメントが地域をエンパワーメントする~」をテーマに、経済、社会、環境の3側面をつなぐ女性活躍の推進に関する統合的な取り組みが評価された。また、特に先導的な取り組みを「自治体SDGsモデル事業」として選定しており、鯖江は10事業の一つとしてそちらにも選定された。

また、番組が続いて紹介したのが「教育におけるジェンダー格差」。
【教育におけるジェンダー格差とは】
https://sdgsmagazine.jp/2021/03/05/1186/

文部科学省の学校基本調査によると、20 年に大学に在籍していた学生の人数は 女子は約 45%を占め、大学進学率の男女差は縮まってきているが 進学先の分野の割合をみると女子の多い「家政」「芸術」「人文科学」「保健」「教育」、 男子の多い「工学」「商船」「理学」「社会科学」というように、 男女比に大きなバラつきのある結果となった。女子の割合が低い「工学」分野では、「電気通信工学」や「機械工学」など 10%を下回る学部・学科もあり、理科や数学が得意な女の子が、それらを生かした仕事をしたいと思っても、 「周りがそれを勧めない」「希望に賛成してくれない」という状況の中で、 「具体的なキャリアのイメージがつかめない」可能性も示唆されている。また、18年に複数の大学医学部の入学試験で、女子や浪人生が不当に差別されていたという実態が明らかになったのは記憶に新しいところだ。

剛力 「確かに、工学などの分野には女性が少ないというイメージはありますね」

蟹江 「一方で、私は今まで小学校、中学校、高校とやってきた勉強を考えると、算数ができる子、理科ができる子って割と女の子が多かった気がするんです。頭の構造上、男が工学に強いというわけではないのではないかと思うんです。私は慶応大の前に東工大というところにいたのですが、やはりそこも理系の大学なので女子が少ない。でも、分野によっては女子に人気のあるところもあって、出口として女性も就職しやすいというところは割と女の子も多いというのが現状だと思いました。能力としては女の子も男の子も変わらないので、先入観とか偏見がなくなることで、いわゆる“リケジョ”といわれる理系の女の子がもっともっと増えてくるんじゃないかと思いますね」

剛力 「周りが勧めないというのもあると言いますが、家族に言われると確かに悩んでしまうものですよね」

蟹江 「そうですね。でも、そこを突破してきたのが今の世の中だと思うので、逆に女の子がそういう分野に少ないということはチャンスが多いとも言えるわけです。本当はそうではいけないのですが、逆に親を説得する上では、チャンスも多いからとか、そういう言い方もできるんじゃないかなと思います」

剛力 「それくらい熱い気持ちが大事ということですね。私は、ただただ数学が本当に苦手だったので、そこに進むのはすごいなと思います(笑)」

蟹江 「個性だと思うんです。それを伸ばしていくことが大事。男だけでは分からなかった発想が、女性と一緒になることで出てくることもある。僕がいる慶應大の藤沢キャンパスは多様性を大事にしていて、多様性って本当に予想もしなかったような化学反応を起こすものなんです。バーンと新しいものが生まれることもある。教育こそ、そうした化学反応を起こす多様性が大事なんじゃないかと思います」

蟹江教授は「ジェンダーというと難しいことと思うかもしれませんが、身近なことだと思うんです。男と女は同じように生活していくし、同じように仕事をしていくし、同じように家庭で暮らしていく。本当に常識的なことがこの話の原点だと思うので、常識に立ち返って行動すると、それだけで世の中が変わっていくということ。意外とやりやすいSDGsの目標なんじゃないかなと思います」と強調した。ジェンダー平等以前に、まだ女性の社会参加、教育などに格差があるのが日本をはじめとした今の先進国の状況。このゴール5に取り組むことが、SDGs全体の達成に大きく関わってくるのは間違いない事実といえそうだ。