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首都直下地震に対応する「被災者台帳による生活再建支援システム」とは


この記事に該当する目標
11 住み続けられるまちづくりを
首都直下地震に対応する「被災者台帳による生活再建支援システム」とは

阪神淡路大震災や東日本大震災は言うまでもなく、各地で頻繁に起きる大雨による洪水・土砂災害など、自然災害が深刻な被害をもたらすことが年々増えています。
国連が掲げるSDGsの17の目標のうち、包摂的で安全かつ、被災してもいちはやく復興・回復できる持続可能な都市づくりを目指す「11.住み続けられるまちづくりを」。この目標は、今や日本の最重要課題の一つです。2015年に宮城県で行われた国際的な防災会議で策定された「仙台防災枠組2015-2030」でも、災害リスクの理解やリスク軽減への投資と並んで、災害準備の強化と回復・復旧・復興に向けた「より良い復興」を優先行動として定めています。

――1日も早い復興に有効?「首都直下地震に対応できる被災者台帳を用いた生活再建支援システムの実装(H24-25)」

首都直下地震は、今後30年間に70%の確率で発生すると言われ、その被災者は2500万人に上ると予想されています(※)。地震自体の回避は不可能でも、被災後の迅速な被災者の救済、支援、そして1日も早い復興に有効なシステムを準備することは可能です。
そこで注目を集めているのが、RISTEX(国立研究開発法人科学技術振興機構 社会技術研究開発センター)が2010年度に採択した研究開発成果実装支援プログラムのプロジェクト「首都直下地震に対応できる被災者台帳を用いた生活再建支援システムの実装(H24-25)」(田村 圭子 新潟大学危機管理本部危機管理室 教授)。災害に見舞われた地域の復興において、迅速かつ正確に、公平に、支援が行われるための研究開発です。
※「内閣府 災害情報のページ」より
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/hokenkyousai/jishin.html
※RISTEXとは
SDGsの切り札となる「問題解決のための科学」。 社会問題に科学で挑む研究者たちをサポートするRISTEX
https://sdgsmagazine.jp/2021/03/10/1228/

――被災レベルを誰でも調査・共有できるシステムで素早く被害状況を把握、データベースとICTの活用で、公正で積極的な災害復興支援を実現

プロジェクトの柱は、「り災証明書」。家屋などに受けた被害の度合いの調査に基づいて行政から発行される「支援レベルの認定書」として機能しているものです。災害発生直後の応急期を過ぎ、生活を再建する段階で「り災証明書」を取得することは、“支援を受けるためのスタートボタン”とも言えます。
その発行に不可欠なのが「被災状況の調査」だそうです。この調査を効率化するための工夫がプロジェクトの肝。そして、その結果を「被災者台帳」としてデータベース化し、すべての被災者に“公平で迅速かつ効果的な復興支援を行う基盤”として活用することが重要になってくるようです。

調査現場の中であがったアイデアは「フローチャートの整備」。建築の知識がない人や外部からの応援人員であっても、共通の調査用ツールを使うことで、素早くブレのない家屋被害認定調査ができるというものです。改良されたデジタル版では、共通のアプリ搭載のタブレットの携行により、調査結果や進行状況を現場から本部へリアルタイムで送れるようになったそうです。

そして、この調査結果を集約し「住民情報」「家屋情報」と容易に参照できるようにし、支援の過程が記録できる「被災者台帳」を構築することで、「誰が、どの家で、どのレベルで被災したか」を、迅速かつ正確に掴み、り災証明書を効率的に発行できるシステムとして開発しています。
研究は高度で複合的ですが、その狙いはシンプルで、被災者を「速く、平等に、効率よく救うこと」です。このシステムにより、自発的に支援を要請できずにいた被災者にも、行政側からのアプローチが可能になり、きめ細かく取りこぼさない支援を実現できます。

プロジェクトは、多くの地域で起きた多様な災害現場への実装によって精度を増し、2014年にはグッドデザイン賞を受賞しました。また、クラウドの活用やドローンの導入など、ICTの新技術の導入によって、より高度なシステムにパワーアップ。現在では、東京都の54自治体をはじめ、全国204自治体で導入されています。
https://www.jst.go.jp/seika/bt89-90.html

「研究と実装」と聞くとどこか遠い話に聞こえてしまいがちですが、「住み続けられるまちづくり」の実現のために、わたしたちの生活を陰で支えているのですね。