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SDGsの目標「住み続けられるまちづくり」を復興支援に。 住む人たちと共に作り上げた「再生コミュニティ」とは―

SDGsの目標「住み続けられるまちづくり」を復興支援に。 住む人たちと共に作り上げた「再生コミュニティ」とは―

#SHOW CASE
  • 住み続けられるまちづくりを

SDGsの目標「11. 住み続けられるまちづくりを」とは何か。そのモデルとなりえる、東日本大震災復興再生事業例があります。RISTEX(科学技術振興機構 社会技術研究センター)が支援した宮城県岩沼市におけるプロジェクト「いのちを守る沿岸域の再生と安全・安心の拠点としてのコミュニティの実装」(2012~2015)です。
岩沼市は、震災時、沿岸部の6集落(相の釜、藤曽根、二の倉、長谷釜、蒲崎、新浜)が津波で壊滅。亡くなられた方は180名にものぼります。浸水域は市域の48%に及び、住宅の被害は、全壊から一部損壊まで5,428戸に及びました。震災直後、現地に入った研究開発責任者、石川幹子教授(中央大学研究開発機構、東京大学名誉教授)らは、被災した住民たちと数多くの対話を重ね、現地調査と科学的な研究を生かし、いち早く1,000名規模の集団移転を支援。いのちを守り、親しんだ土地に住み続けるためのコミュニティ再生を実現しました。

高台のない「津波に弱い地形」に住み続けるための可能性は、
先人たちの知恵と科学的な根拠が結びつくことで生まれた

プロジェクトの特長は、住む人たち自らが移転・再生を手掛けたことです。支援チームの石川教授たちは、現地でのワークショップから始め、家族や家を失い、喪失の中にいる被災者の方々と、お仕着せでない居住地再生に着手します。現地を歩き、おはじきと大きな地図で「新しいコミュニティの候補地」を決める作業には、村の寄り合いの力が発揮され、喪失の闇に灯る光にもなりました。
一方で、地形の歴史を含む科学的な検証に基づいて、支援チームも候補地を導き出し、結果、両者は同じ場所を選んだといいます。そこが、防災集団移転地「玉浦西」になりました。ここに再び住む意思を表明した住民は、被災6集落から約1,000名。「玉浦西まちづくり委員会」は、震災の翌年に防災集団移転促進事業が設定された時には、既にオリジナルの青写真を持っていたことになります。

防災よりも「減災」を選ぶユニークな発想、
古来の「微高地」を活かした「多重防御」でいのちを守る

玉浦西のまちづくりの基準は、津波被害の「減災」でした。地元で「高見」と呼ばれる微高地が津波を免れたことを参考に、海岸から、①「防潮堤」②「千年希望の丘」(=震災がれきを基礎に使ったもの)③「貞山堀の護岸」④「かさ上げ道路(玉浦希望ライン)」の多重防御で津波に備え、同時に避難路を多数整備、素早く避難できる工夫を施しています。さらに住宅も、神社に倣い床を上げ、津波が通り抜ける構造を採用したといいます。

玉浦西は、2012年に造成工事を開始、2015年春には、住民の移転がほぼ完了しました。
経験値の高いまちづくりの研究開発によって、津波に弱い平地を逆手に取り、慣れ親しんだ土地に、未来まで住み続けられるコミュニティが生まれました。ある女子高生は、「この地を離れた人も、いつかここに帰って来られるように」と言ったそうです。
環境の持続、経済の持続、コミュニティの持続を目指したプロジェクトを成功に導いたのは、何より、住む人たちと「一緒に考える」姿勢を持った社会科学的支援でした。
RISTEXの支援について石川教授は、「社会の役に立つ研究開発と、その実装までを含めて支援を受けられることは、とても得難くありがたい」と語っています。

SDGsの目標「11. 住み続けられるまちづくりを」は、2015年にできた国際的な防災の枠組「仙台防災枠組2015-2030」にしたがって、あらゆるレベルで災害のリスクの管理について定め、実施することが求められています。岩沼市のプロジェクトは、社会科学的支援によって未来へ持続する「人の営み」を守った、災害リスクガバナンスの優れたモデルケースと言えるでしょう。

RISTEX  https://www.jst.go.jp/ristex
中央大学研究開発機構 http://epd-ishikawa-lab.main.jp/prof_ishikawa.html

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