“SDGs”と“企業”をもっと近づける!SDGs MAGAGINE

生ごみから新しいスイーツ? 渋谷を「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」にシフトする「渋谷肥料」プロジェクト

生ごみから新しいスイーツ? 渋谷を「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」にシフトする「渋谷肥料」プロジェクト

#SHOW CASE
  • つくる責任つかう責任

120,461t。
この数字、一体何を表しているかおわかりでしょうか。

これは、2020年度(2020年4月~2021年3月)の一年間で渋谷区で排出されたごみの総量を示した数値です。
1人1日当たりにすると837g。練馬区(486g/2016年度)や豊島区(522.5g/2018年度)など、他の地域と比べてもかなり多くのごみが排出されていることが分かります。
(出典:渋谷区公式サイト、練馬区公式ホームページ、豊島区公式ホームページ)

SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」内のターゲット5には、「2030年までに、廃棄物の発生防止、削減、再生利用及び再利用により、廃棄物の発生を大幅に削減する。」とありますが、現状の課題はまだまだ山積みです。

特に渋谷区は、ハロウィン後のごみ問題などの環境課題を多く抱えています。さまざまなアニメや映画などにも登場するような日本を代表する場所でもある一方、「ごみ」にまつわるイメージを持たれる方もかなり多いのではないでしょうか。

そんな渋谷を、「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」にシフトできないか?という問いからスタートした「渋谷肥料」プロジェクトが現在話題になっています。

渋谷のごみのおよそ7割は、店舗や会社、ビルなどから出る「事業ごみ」とされています。
「渋谷肥料」は、その中でも半数近くを占める「生ごみ」から肥料や堆肥を作り、栽培キットやスイーツ、雑貨といった商品開発に用いるなど、渋谷のごみから新たなサーキュラーエコノミー(循環型経済)のモデルを生み出すことに取り組んでいます。

「渋谷肥料」は「問い」をコンセプトに日々多様な人材が交流し、事業の新たな可能性を生みだす渋谷スクランブルスクエア15階の共創施設「SHIBUYA QWS」から生まれたプロジェクトのひとつです。
スタートのきっかけは、2019年のQWS開業前に実施された「渋谷が抱える課題を解決する」アイデアソン(アイデアとマラソンを掛け合わせた造語)でした。

国際的にも注目されている渋谷ですが、近年ニュースでも取り上げられているハロウィンのごみ問題をはじめとして、食品ロスや消費活動に伴う大量廃棄など、ごみにまつわる様々な課題が顕在化しています。

アイデアソンに参加した坪沼敬広さん(合同会社渋谷肥料 代表)は、当時ごみ拾いや環境に関するイベントなどの啓発活動が注目を集めていたことで、人々の取り組みを一過性のものに終わらせないためにも、ごみ問題に対するアプローチが人々の暮らしにより深く溶け込んでいく必要性を感じました。

そこで、渋谷のごみの中でも特に多いとされている事業系の生ごみから、私たちの暮らしで用いる商品を生み出すことで、「消費の終着点」として捉えがちな渋谷が「新しい循環の出発点」にシフトするサーキュラーエコノミーのコンセプトを考案しました。

プロジェクトによる渋谷の生ごみを堆肥化する様子。提供:渋谷肥料

QWSから生まれた「渋谷肥料」は、2020年に東京都が実施する「令和2年度 東京都におけるイノベーション・エコシステム形成促進支援事業」の「共同プロジェクト」として採択されました。そして同年10月から翌年3月までの期間中、「サーキュラーキット」「サーキュラーコスメ」「サーキュラースイーツ」の3つの取り組みを通じて新しいプロダクトをリリースしました。

ひとつ目の「サーキュラーキット」は、渋谷の飲食店などから出た事業系の生ごみを堆肥化し、植物のタネや土と組み合わせた栽培キットです。

B2B(Business to Business)向けの1号機は、食と農の民主化を目指すプランティオ株式会社が製品化に協力しています。

現在はテスト販売が終了し、キットを購入した不動産オーナーの方が自社ビルでベビーリーフなどを栽培しています。先日無事に収穫をして野菜たっぷりのサンドイッチづくりも楽しんだそうです。今後はB2B向け製品のアップデートを進めるほか、生花事業を展開する企業とB2C(Business to Customer)向けの栽培キットも開発しており、パートナー企業・団体の方々と一緒に渋谷から新しい植物体験を生み出したいと、坪沼さんは語ります。

サーキュラーキット1号機はプランティオ社の協力のもと「grow」のプランターなどを使用。提供:渋谷肥料

ふたつ目の「サーキュラーコスメ」は大都市における”地産地消”を体現したプロダクトです。

渋谷スクランブルスクエアをはじめとした大型複合施設から出た生ごみを、同じ施設内に設置した生ごみ処理機で堆肥化。渋谷のビルの屋上でハーブを栽培するために活用します。前述の「共同プロジェクト」では、栽培したハーブを用いてコスメではなく雑貨作りからスタートしました。ハーバルオイルをブレンドした手作り石鹸のワークショップを開催し、参加者の方が実際にプロダクトをつくる過程を体験したことで、循環型社会への関心が高まるなど様々な反応が見られたそうです。

また、手作り石鹸を持ち帰るためのオリジナルケースのデザインも、渋谷で活躍する株式会社design-farmが手がけるなど、渋谷の力を生かしたものづくりへのこだわりが随所に垣間見えます。現在は雑貨などの日用品にとどまらず、新しくハーブを用いたオリジナルのクラフトコーラ「渋谷コーラ」の開発も進めています。

手作り石鹸「cre-cle」
手作り石鹸「cre-cle」
渋谷コーラのプロトタイプ

最後の「サーキュラースイーツ」は、都会の生ごみの再利用と地方の農作物の6次化(生産だけでなく、製造・加工や販売も手がけること)を同時に実現するスイーツです。

元々渋谷スクランブルスクエアから出た生ごみは、日立セメント株式会社のバイオプラント(茨城県土浦市)でメタン発酵によりメタンガスと肥料の再資源化がされており、茨城大学農学部でその肥料がさつまいも(紅はるか)の栽培に用いられていました。

渋谷肥料は、このさつまいもを渋谷で仕入れて、「紅はるかのリ・マカロン」や「紅はるかのスイートボール」といった渋谷発の新しいスイーツをSHIBUYA QWSと共同で開発。渋谷のQWS CAFE HInTや新大久保のKimchi, Durian, Cardamom,,,(キムチ,ドリアン,カルダモン,,,)で期間限定の販売を実施しました。また取り組みに賛同した中目黒のLa vie a la Campagneも、独自に紅はるかを用いた「オレンジ風味の香るサツマイモのケーキ」を期間限定で販売しました。

リ・マカロンやスイートボールはQWSの佐野英美シェフがメニュー開発を手掛け、プロジェクトメンバーやQWSの関係者の方々と一緒に味や見た目の試行錯誤を重ねるなど、たくさんの人たちが力を合わせて生まれたスイーツになっています。

渋谷を「消費の終着点」から「新しい循環の出発点」にシフトできないか?という問いから未来を創り出す「渋谷肥料」。様々な人々が集い、新しいカルチャーを世界に発信していく渋谷だからこそ生まれたプロジェクトとも言えますね。今後の展開が楽しみです。

カテゴリーの新着記事

新着記事

Page Top