地域再生の成功モデル。「生きるを楽しむ」西粟倉村が目指す“上質な田舎”とは
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皆さんは西粟倉村(にしあわくらそん)という村をご存知ですか?
岡山県の最北東端に位置する西粟倉村は、面積の約95%が森林、その内の約83%を杉や檜などの人工林が占める、人口1400人ほどの小さな村です。かつて政府主導で行われた“平成の大合併”と言われる市町村合併を拒み、“自立した村づくり”を目指してきた西粟倉村は、「百年の森林(もり)構想」を軸とする林業六次化や、地域起業支援事業である「ローカルベンチャースクール」など独自の地域活性化施策に取り組んできました。
そんな西粟倉村は2017年、「持続可能な村づくり」を実現するため、仮想通貨技術を使って資金調達をする自治体ICOの導入に着手。これまでにない資金の流入と循環を促す手法を探る中で「SDGs」に可能性を見出し、2018年から村の新しいキャッチコピーを「生きるを楽しむ」としてSDGsに関する取り組みを本格化しました。若く発想力も豊かなローカルベンチャーを目指す人たちが多く集まる中、雄大な自然資源を生かした村おこしは全国でも高い評価を受け、「SDGs 未来都市」ならびに「自治体 SDGs モデル事業」にも選定されています。
“森づくり”から“村づくり”へ 百年の森林構想で上質な田舎を実現
そんな西粟倉村の「持続可能な村づくり」の基盤となっているのが、2008年に着想をし、翌年から開始した「百年の森林構想(以下、百森)」という“森づくり”のビジョンです。約50年前から大切に受け継がれてきた森林から、産業・仕事を生み出しつつ、次の50年も守り続け、立派な百年の森林に育てていこうというこの取り組みは、スタートから約10年が経過した今、西粟倉村の“村づくり”の基幹となり、そこから再生可能エネルギーや、間伐材を使った商品開発などの様々な産業が成長しつつあります。
さらにSDGsに関する取り組みを本格化した西粟倉村は、森林の再構築(Re Design)と森林の生み出す価値の最大化に向けた取り組みとして、「住み続けられる街づくりを」「つくる責任つかう責任」「陸の豊かさを守ろう」というSDGsにおける3つのゴールを設定した「百森2.0」を新たに掲げました。林業のみにとどまらず、山菜や木の実、自然薯の栽培など、より多様な視点で山林資源の活用を、西粟倉村内外から集まった仲間と取り組むことで、再生可能エネルギー、ローカルベンチャー、地域の教育・福祉などの発展につなげ、持続可能な村の創造を目指しています。
人と地域資源の組み合わせで価値を生み出すモノづくり「森の学校」
そんな西粟倉村では、具体的にどんな取り組みがなされているのでしょうか。行政と民間企業が二人三脚で村づくりを進める西粟倉村で、民間企業の取り組みの中心的存在となっているのが、“西粟倉村・森の学校(以下、森の学校)”です。
森の学校は、西粟倉村のブランディングを担い、森林資源から製品をつくり、木製品の製造販売、地場産品の企画・販売・マーケティングによって全国に西粟倉の木を流通させることを使命として生まれました。木材をそのまま市場に出荷せず、付加価値を付けることで収益は20~30倍にもなり、間伐が促進され、森が再生されます。現在は、木材加工、いちご生産、カフェ運営、自然体験プログラム等、地域の資源を価値にするものづくりの拠点として、非常に重要な役割を担っているそうです。
西粟倉村のローカルベンチャー支援「TAKIBI(たきび)プログラム」
2009年から始動をした「百森」と並び、西粟倉村が地域再生の成功モデルとして全国的に注目されるきっかけとなったもう一つの取り組みが、ローカルベンチャー支援です。今やローカルベンチャーが集まる村として全国から注目を集める西粟倉村が2015年から実施してきた「西粟倉ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」では、毎年プログラムを進化させながら起業家の発掘・支援・育成を展開してきました。さらに、「ローカルベンチャー」という言葉が全国的にも定着してきている中で、西粟倉村は、2021年春から「TAKIBI(たきび)プログラム」を新たにスタートしました。
地域外からビジネスアイデアを持ち込んでいたLVSとは異なり、「TAKIBIプログラム」では、村内である程度見込みがありそうな事業テーマを拾いあげ、インターンやプロボノの方々とブラッシュアップをしながら、磨いた事業テーマでプレイヤーを募集し、始動する起業プログラムです。この取り組みによって、村内の雇用が増加するだけでなく、結果的に若い人が就職したい。と思える企業が生まれ、Uターン人口の増加に繋がる見込みです。
政府主導で行われた大規模な市町村合併を拒み、独自の取り組みを通して、持続可能な村づくりを行ってきた人口1400人ほどの小さな村、西粟倉村。先人たちから受け継がれてきた森林が生み出す価値の最大化を目指し、そこから産業・仕事を生み出しつつ、次の50年も守り続け、立派な百年の森林に育てていこうという西粟倉村の取り組みが、節目となる50年後の2058年にどんな“上質な田舎”を生み出しているのか、目が離せませんね。
西粟倉村