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脱炭素化で高まる“リサイクルの王様”アルミ需要

脱炭素化で高まる“リサイクルの王様”アルミ需要

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脱炭素化社会に向けて大きな役割を担っている金属があります。窓枠やスマートフォン、飲料缶などに広く利用されているアルミです。

アルミ分野でトップクラスを誇る金属資源メジャーリオティントの日本法人でアルミ事業に携わる相さんは次のように話します。
「自動車分野で近年、特に需要が伸びています。かつてはほとんどの部材で鉄が使用されていましたが、現在はエンジンブロックやホイールはもちろん、バンパー材やボンネット、ルーフなどでアルミが多く使用されています。軽量であり、かつリサイクルしやすいアルミへの転換が進んでいるのです。構造材については強度が要求されるため鉄が中心ですが、ボディ材のアルミ化も進んでおり、今後、電動化や安全・自動運転技術の発展に伴い車重の増加が想定される中、さらなる軽量化への要請からより多くのアルミが使用される可能性があります」
相さんによると、車両の重量が10%減量するごとに燃費が約7%向上するといいます。北米の軽量自動車やトラックに使われている1台あたりのアルミ使用量は2015年の180kgから2030年には260kgと4割以上増加すると予測されています。脱炭素化を後押しする金属としてアルミ需要が高まり続けているのです。

使用用途が高まる一方で、製錬のためのCO2排出量が課題

その一方で、アルミは「電気の缶詰」と称される特徴を持ちます。
「アルミの基本原料である赤土のようなボーキサイトは地表近くに存在し、その分、より酸化が進み、酸素との結びつきが強いため、酸素を取り除いて金属として還元するには大量のエネルギーを用いなければならないのです」(相さん)

アルミは原料であるボーキサイトで精製した白い粉状のアルミナ(酸化アルミニウム)から酸素を取り除いて作られます。大量の電力を用い、炭素電極を介してアルミナを電気分解することで、炭素とアルミナ中の酸素を結び付けCO2を発生させ、金属としてのアルミを還元します。この製錬過程におけるCO2排出に加え、電気分解に用いる電力源によっては、さらに大量のCO2が排出されます。1トンのアルミ地金を製錬するのに、平均的な家庭の年間電力使用量の3倍強にも達する1万3000kWh以上が必要となります。また、24時間・365日安定的な電力供給を必要とするため、アルミ製錬所は石炭・ガス火力や水力といった安定した電力により操業していますが、発電源によってCO2排出量には大きな違いが生じます。
「中国の国営・民営の製錬会社が世界のアルミ供給の半分を担っていますが、その8割以上は石炭火力による電力に依存しています。一方で、リオティントのマーケットシェアは10~15%前後ですが、全生産量の8割近くを水力発電による電力で生産しています」

製錬時の電力を再生可能エネルギーへ転換

リオティントはオーストラリア、ブラジル、ギニアに4つのボーキサイト鉱山、オーストラリア、カナダ、ブラジルに4つのアルミナ精製所、さらに全世界に14のアルミ製錬所を擁します。ボーキサイト採掘、アルミナ精製からアルミ製錬まで一貫して行う体制をつくり上げているのがリオティントの強みですが、それに加えて、脱炭素化に向けていち早く取り組みを始めた点も強みだといいます。

「リオティントは2007年のアルキャン社買収を通じ、カナダにおいてアルミナ精製所・アルミ製錬所と自社の水力発電設備を所有し、すべての電力を再生可能エネルギーで賄っています。また、現行技術では、アルミナからアルミを生産する過程でどうしてもCO2排出が避けられませんが、完全な脱炭素化に向けた技術開発も進めており、2024年には商用化の準備が整う見込みです」

リオティントは2018年に、米アルミ製錬最大手のアルコア社と、アルミ製錬工程からCO2排出をなくす特許技術「エリシス」の開発に向けた合弁会社を設立。2024年にこの技術の確立と商用化を実現すべく取り組みを行っています。その合弁会社にはカナダ政府やケベック州政府に加え、すべてのサプライヤーに対してクリーンエネルギーでの生産を求めた米アップル社も出資しています。一方、現行の製錬技術を用いる今も、リオティントがカナダにて生産するアルミのCO2排出量は業界平均の5分の1未満に抑えられています。

「また『責任あるアルミニウム』という考え方のもと、品質はもとより、ESG、透明性、トレーサビリティの確立にも早くから取り組んできました。2021年からはこうした取り組みに加えSTARTTMと呼ぶ包括的なトレーサビリティの仕組みを提供し、当社のアルミがどう生産・供給されているのか、アルミの“栄養成分表示”とも言えるESG関連指標をブロックチェーン技術を用い定性的・定量的に示すことが可能になっています。つまり鉱山から製錬所までの生産過程における炭素排出量や水の使用量、リサイクル比率といったESG関連のパフォーマンスが一目でわかる仕組みになっています」
一方、課題も小さくありません。中でもアジア向けのアルミ供給を担うオーストラリアのアルミ製錬所における炭素排出量の削減です。
「オーストラリアの主力2製錬所は石炭火力の電力により操業しており、それらのCO2排出量がアルミ部門の排出量を増大させ、同部門の排出量はリオティント全体の5割に達しています。再生可能エネルギー化を目指していますが、電力の安定供給の必要性を考えると変動の大きい太陽光・風力発電では課題が多く、新しいエネルギー開発や蓄電など、今後の技術革新に大きな期待がかかります」

原料調達から中間加工・輸送などを経て最終製品までカバーするサプライチェーン上のCO2排出量を見る場合、一般に「スコープ1~3」の分類があります。スコープ1は事業による直接排出量。採鉱やアルミナ精製、アルミ製錬過程において排出されるCO2です。スコープ2は事業のために使用されるエネルギーの生産過程における排出量。利用する電力の発電過程で排出されるCO2です。リオティントはまずスコープ1,2の削減に取り組んでいるものの、その課題は前述の通りですが、加えて、アルミ地金の販売・供給先が排出するCO2排出量、すなわちスコープ3の課題もあります。
「アルミのサプライチェーン全体の排出量を考えた場合、製錬過程における排出量が圧倒的に大きいですが、販売・供給したアルミがその後、どのような加工過程を経て最終製品になり、その過程で排出量がどのように変化するのかを認識せねば、スコープ3、あるいはサプライチェーン全体の排出量の把握や削減はできません。また、リオティントのような製錬メーカーだけが排出量削減を行えるものでもありません。スコープ3も含めたサプライチェーン全体でのCO2排出量を削減するためには、サプライチェーンに関わる当事者全社との協力やパートナーシップを通じた削減への取り組みが何よりも必要となります」
当然のことながら、こうした課題は業界全体のものであり、海外においてはリオティントとサプライチェーン各社とのパートナーシップを通じた取り組みの例も出て来ています。日本においてもそうしたパートナーシップを実現すべく様々な取り組みが行われており、責任あるアルミの実現に向けた成果は少しずつ実りつつあります。


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