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年間CO2排出量が家庭部門に次ぐ多さ、鉄鋼業界の脱炭素化

年間CO2排出量が家庭部門に次ぐ多さ、鉄鋼業界の脱炭素化

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世界で進む脱炭素化の取り組み。なかでもCO2排出量の多い製鉄産業の脱炭素化を後押ししている企業があります。日本では馴染みのない人も多いと思いますが、鉄の原料となる鉄鉱石の分野では日本にとって最大のサプライヤーである鉱物資源メジャー「リオティント」です。
「鉄鉱石とは酸化鉄のこと。地面に埋まった鉱物はすべからく酸化しているため、酸素を除去(還元)させなければならないのですが、鉄鉱石の場合は石炭を蒸し焼きにして炭素濃度を高めたコークスと一緒に燃焼させることで酸素を一酸化炭素と結び付けて除去します。このときに大量のCO2が排出されてしまうのです」
こう解説するのはリオティント日本法人で鉄鉱石を担当する藤枝さん。
リオティントは鉄鉱石やアルミ、銅、ホウ酸塩にダイヤモンドなどさまざまな鉱物のサプライヤーとして鉱山開発や一部金属の精製、精錬まで手掛ける鉱物資源のトップ企業です。同社にとって製鉄会社は鉄鉱石を販売する顧客ですが、今、製鉄業界の脱炭素化に向けて共に動き出しているといいます。

「鉄鉱石の生産プロセスでもCO2は排出されます。リオティントから仕入れた鉄鉱石を製鉄会社が鉄鋼に精製するプロセス(リオティントにとってのスコープ3)では、リオティント全体の排出量(スコープ1、2)の約12倍以上のCO2が排出されます。その点でリオティントも無関係ではいられないのです」(藤枝さん)

日本の年間CO2排出量は約12億4000万トン(2018年度)。うち最も多くを占めるのは家庭部門の1億6600万トンだが、それにほぼ並んでいるのが鉄鋼業です。その排出量1億5900万トンは産業界で断トツの多さ。次点の化学工業の約1.5倍です。製鉄業界の脱炭素化は、2050年のカーボンニュートラル(実質CO2排出量ゼロ)を掲げる日本はもとより、世界の脱炭素化を強力に後押しする取り組みと言っていいでしょう。
実際、リオティントの取り組みはかたちになりつつあります。
「2020年12月にはCO2排出量の少ない鉄のバリューチェーンの実現に向けて技術開発を一緒になって進めるパートナーシップ覚書を日本製鉄と締結しました。同時期には中国鉄鋼最大手の中国宝武鉄工集団とも共同で研究所を設立し、2021年9月には韓国の製鉄最大手ポスコともパートナーシップを締結しました」(藤枝さん)
ご存知のとおり、中国は世界最大のCO2排出国。2位アメリカの2倍にも相当する年間95億トン(2018年)ものCO2を排出しています。その15%前後が粗鋼生産量で世界の半分以上を占める中国の製鉄業。リオティントが他の鉱物資源メジャーに先駆けて中国製鉄最大手とパートナーシップを結んだことは大きな話題を呼んだといいます。

アルミニウムの製錬におけるCO2排出

ただし、脱炭素化に向けた役割は、リオティントの鉄鉱石部門だけが担っているわけではありません。リオティント日本法人でアルミを担当する相さんは次のように話します。
「軽量でリサイクルしやすいアルミは、脱炭素化や持続可能社会の実現に向けて需要が増している金属のひとつです。なかでも当社は自前の水力発電所を有するカナダでの操業を中心に、グループ生産量の8割近くを再生可能エネルギーによって生産しています
近年、特にアルミ需要が増しているのは自動車業界。かつては多くのパーツで鉄が使用されていましたが、現在はエンジンブロック、シリンダーやホイールはもちろん、バンパー材やボンネット、ルーフなどがアルミに置き換わっています。車両の重量が10%減量するごとに燃費が約7%向上するためです。燃費が向上すれば、おのずとCO2排出量は削減できます。
北米の軽量自動車やトラックに使われている1台当たりのアルミ使用量は2015年時点で約180kgでしたが、2030年には約260kgへと4割以上増加するとも言われています。
「構造材については強度が求められるため鉄中心ですが、ボディ材のアルミ化も進んでおり、今後、電動化や安全・自動運転技術の進展に伴い車重の増加が想定される中、軽量化の必要性からより多くのアルミが使用される可能性があります」(相さん)

ただ、アルミは原料となるボーキサイトが地表近くに埋まっており酸化がより進んでいます。
そのため、ボーキサイトから鉄・シリコン分を取り除いて精製されたアルミナ(酸化アルミニウム)を大量の電力を用い、炭素電極を通じて電気分解することにより、炭素と酸素を結びつけ還元(酸素の除去)するのに、多くのエネルギーを要します。
この際に発生するCO2に加え、使用する電力を生み出す過程で鉄同様、大量のCO2を排出しています。

「中国の国営・民営の製錬会社が世界のアルミ供給の半分を担っていますが、その8割以上は石炭火力に依存しています。アルミ地金を1トン製錬するのに必要な電力は、日本の平均的な家庭の年間使用量の3倍強にも達する1万3000kWh強。大量の電力を24時間・365日使用するため、石炭・ガス火力等安定した発電に依存する必要性があるのです」(相さん)

リオティントはアルミ分野では製錬までを手掛けるアルミ地金メーカーです。オーストラリアなど4か所で操業する鉱山からボーキサイトを掘り出し、アルミナに精製し、アルミ地金製錬まで行っています。実は、この製錬プロセスでリオティントも多くのCO2を排出しているといいます。
「カナダには自前の水力発電所があり、グループで生産されるアルミの8割近くは既に低炭素化を実現していますが、オーストラリアの主力2製錬所は石炭火力による電力を利用しているのです。残り2割強に当たるこれら生産拠点において発生するCO2がアルミ部門における排出量を増加させ、アルミ部門の排出量はグループ全体の5割に達しています」(相さん)
リオティントはこの石炭火力を再生可能エネルギーに転換するなどしてCO2排出量の削減に努めていく計画です。このほか、米アルミ製錬大手のアルコアとは2018年に製錬工程から排出されるCO2をゼロにする特許技術「エリシス」の開発に向けて合弁会社を設立。炭素電極を使わずに還元する技術の商用化を目指しています。カナダでは、このエリシスの技術と水力発電を活用した「カーボンゼロ・アルミ」の試験生産を始めており、自社製品の脱炭素化を強く推し進めるアップル社などさまざまな企業で既に利用されています。

電化によって自動車業界の銅需要は3倍以上?脱炭素と銅の関係。

実は、アルミに加えて、もうひとつ脱炭素化のカギを握る鉱物があります。抗菌性が高く、腐食にも強いうえ、熱や電気の伝導体としても優れた特性を持つ銅です。
脱炭素化を進めるのに不可欠なのが“電化”です。象徴的なのはガソリン車から電気自動車(EV)への移行。電化によって化石燃料が不要となるため、大幅にCO2排出量を抑えることができます。この電化に必須なのが、電気伝導率が高く加工性に優れている銅。一般的なガソリン車では20kgほどの銅が使用されていますが、テスラのEV車では60~80kg。こうした自動車の電化だけでも銅需要は3倍以上に膨れ上がっているのです」とリオティント日本法人で銅を担当する池上さんは話します。

銅はその特性から電線、電化製品、パソコンなどでも多用されています。数百軒の家庭の電力需要を賄うことができる1メガワットの風力タービン1基には3トンもの銅が使用されています。
実は、リオティントはもともと銅鉱山の開発からスタートした企業。その歴史は古く、創業は1873年。「銅の会社」として知られた時期もありました。それだけに、同社が抱える鉱山の規模はとにかく巨大です。
「当社がモンゴルで操業するオルトゴイ鉱山は世界最大級の埋蔵量を誇る銅と金の鉱床として知られています。その銅の鉱体はアメリカ・ニューヨークのマンハッタン島に匹敵する大きさです。他の鉱山会社が保有する銅鉱山は十数年で掘りつくしてしまう規模のものが多いのですが、リオティントには100年持つと言われている銅鉱山もある」(池上さん)
リオティントは銅鉱山開発だけでなく、脱炭素化にも早くから着手してきました。アメリカ・ユタ州にあるケネコット銅鉱山では2019年に石炭火力発電の運転を停止しました。以降、風力と太陽光をもとにした再生可能エネルギー証明付きの電力を購入して操業を続けています。このほか、チリの鉱山でも100%再生可能エネルギーへの転換を進めています。電化に向けた需要が高まるなか、銅の生産過程で排出されるCO2の削減をゼロにする取り組みは着々と進んでいます。
こうした取り組みは、もはや各企業に課された努力義務ではありません。「脱炭素化は今や成長戦略のひとつ」とリオティント日本法人の堀江渉社長は話します。
「リオティントは2020年2月に『2030年までに2018年比でCO2排出量を15%削減する』と記したクライメート・チェンジ・レポート(気候変動に関するレポート)を公表しましたが、投資家らから内容が不十分と大きく指摘されて、2021年に15%削減を5年前倒すことを盛り込んだ改訂版を発表しました。今や企業価値を高めるうえで脱炭素化はクリアすべき必須課題です。それだけでなく、脱炭素化の取り組みは当社に新たなビジネス創出の機会をもたらしている。2020年12月に発表した日本製鉄との例など、パートナー企業との関係がより緊密になっているのが、その証拠です。今後は、これまでお付き合いのなかった日本の企業ともパートナーシップを組んで、脱炭素化を進めていきたいです」
ホウ酸塩の日本向け出荷を開始してから90年、鉄鉱石では60年の付き合いになるリオティントと日本。その鉄鉱石の日本向け出荷は昨年12月、累計20億トンの大台に達したといいます。長い年月を費やして繋がりを深めた日本企業とともに、今後、リオティントの脱炭素化の取り組みはさらに加速しそうです。

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