世界三大資源メジャー「リオティント」のSDGsがビジネス創出のきっかけになるまで
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「リオティントは生産性向上の面では先行し、さまざまな成功を収めてきましたが、その成功にあぐらをかいて他社との差別化や優位性の追求には努めてこなかった」こう分析するのは2019年7月からリオティントジャパンの代表を務める堀江渉社長。
外資系企業出身社長の大改革
堀江社長は三井物産で5年半、石油のトレーディングを担当した後、オイルメジャーのBPに転職。日本法人では原油トレーディングやシンガポールでのアセットマネジメントを、ロンドン本社では経営企画に携わった後、米大手メーカーのGEで電力部門の日本代表を務めるなど、社会人人生の半分近くを外資系企業で過ごしてきました。
「私は大きなものが好きなんです。BPに転職したのも、原油のトレーディングで実績を残せば、もっと大きなアセットマネジメントを任せると誘われたから。その資源メジャーで17年働くなかで、次に関心を持ったのが、やはり“大きな”電力でした。BPの最後にガス&パワー部門の責任者を任されて電源開発を本格的にやりたいと思ったのです。その願いが叶ってGEでは日本の電力会社を主な取引先としながら10年働かせてもらいました」
原油、電力と渡り歩いた後、またも大きな鉱物資源メジャーのリオティントへ。ただし、鉱物に興味があったわけではなかったそう。
「その事業規模の大きさには驚きました。当社は西オーストラリア州のピルバラ地区に鉄鉱石の鉱山を16か所保有していますが、その年間生産量は3億トン。輸送用の鉄道網の敷設なども含めて投下した資金と時間を考えるととてつもない規模です。必ずしも投資金額では比較できませんが、オイルメジャーでもピルバラの鉱山に匹敵する事業資産を有する企業はそうありません」
ピルバラの鉄鉱石鉱山はリオティント・グループの中核を担う資産です。鉱山以外にも4か所の港湾ターミナルを擁し、輸送用の鉄道網や関連インフラの総延長は1700kmにも及びます。その鉄道網には、2019年に世界初となる無人長距離貨物列車運行網、オートホールを導入。生産性と安全性の向上を実現しましたが、「成長には繋がっていない」というのが堀江社長の見方です。
「開発段階から生産まで何年もかかるような開発プロジェクトなら、どんな企業でも慎重になるもの。リオティントのような特に大きなプロジェクトばかりを手掛ける企業ならばなおさらです。ただ、慎重になりすぎて、保守的になってしまったきらいがある。新しいことをやろうというカルチャーがないと感じました。業績はずっと横ばい。企業価値は上がっていても明確な成長はしていない。既存の資産が生み出すお金をただ回しているように見えました」
「ペナルティを避けるため」から「成長戦略の一つ」へ
堀江社長に託されたのはリオティントジャパンを通じたグループの変革でした。
「最初にやったのは全社員との1対1の面談。一人ひとりが考える、会社として変えるべき箇所をヒアリングしたうえで、国別の戦略、カントリー・ストラテジーの改善に取り組みました。そうして出来上がったのが、脱炭素化とサーキュラー・エコノミー(循環型経済)、DX(デジタル・オートメーション化)、ニューマテリアル(新素材)の創出という4本の柱。いずれも日本が有する技術を生かすことで実現できると考えました」
なかでも脱炭素化は、グループ内で日本が先駆けて柱に据えたテーマだったそう。リオティントは早くから脱炭素化に取り組んでいましたが、実際には「ペナルティが課せられるのを避けるための取り組みにすぎなかった」というのです。
「2020年2月にグループが公表したクライメート・チェンジ・レポート(気候変動に関するレポート)は、投資家らから内容が不十分と大きく指摘されました。2030年までに2018年比でCO2排出量を15%削減するとしていましたが、その程度か?と批判されたのです」
目標設定の見直しを迫られたリオティントは2021年、改訂版を公表。5年前倒してCO2排出量を2025年までに15%削減、2030年までに50%削減することを掲げた意欲的なレポートとなりました。
「以前は、脱炭素化はESG(環境・社会・ガバナンス)の観点から企業が取り組むべき課題のひとつにすぎませんでしたが、今は成長戦略のひとつ。脱炭素化に向けた取り組みは、リオティントに新たなビジネス創出の機会をもたらしているのです」
2020年12月には鉄鉱石の採掘から製鉄までの鉄のバリューチェーン全体での脱炭素化に向けた共同技術開発を目的とした覚書を日本製鉄と締結。2021年8月には、オーストラリアのアルミナ(アルミニウムの原料)精製工場に水素の試験製造プラントを建設して水素活用について検討することを目的に、住友商事とパートナーシップを結びました。天然ガスを水素で代替して、アルミナ精製工程における完全な脱炭素化を目指すプロジェクトです。リオティントジャパン発の取り組みは、着実にグループ全体に好影響をもたらし始めています。
ただし、いまだ課題は山積しているといいます。1つには、グループ全体の歩調が整っていない点です。
「象徴的だったのは、2020年にオーストラリアの鉄鉱石鉱山の拡張の際に先住民族アボリジニの遺跡を破壊してしまった事故です。リオティントは20年近く前に生住民組織と協約を締結し、ロイヤリティ制度や先住民族の雇用促進などを盛り込んだ枠組みを業界に先駆けてつくった企業でしたが、その後は本当の意味での信頼関係の構築を実現できていなかった。地域貢献も名ばかりで、先住民族とのコミュニケーションもしっかりできていなかったのです。社会の一員として、その地域に根差して操業するという当たり前の理念がグループに根付いていなかった。この事故をきっかけにCEOが交代してグループは変わりつつありますが、いまだ道半ばです」
リオティントジャパンは2011年の東日本大震災以降、サプライヤーとしてパートナー関係にある建機大手のコマツと東北大学に奨学金制度を創設。この10年で約330人の学生を支援するなど、社会貢献活動にも力を入れてきました。しかし、日本においては、リオティントの活動はおろか、社名の認知度が低いのが現状。この点は、リオティントジャパンが抱える課題と捉えているそうです。
「実は、長い間、日本で商売しているんだよっていうことを知ってもらいたい。リオティントは90年前に日本向けにホウ酸塩の供給を開始し、主軸の鉄鉱石は60年前から供給している。2021年12月にはオーストラリアのピルバラから日本向けに輸出される鉄鉱石が累計20億トンを達成しましたが、古くから付き合いのある商社や製鉄会社などにしかリオティントの実績は知られていない。こうした認知度の低さは、脱炭素化、循環型経済、DX、ニューマテリアルの4つの柱を推進するうえで弊害となりかねません。新たなパートナーの創出のためにも日本における発信力の強化が不可欠です」
日本法人を含めて、リオティント・グループは変革の時を迎えようとしています。