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プールのあの水、一体どこへ。意外な活用法と山積みの課題とは。

プールのあの水、一体どこへ。意外な活用法と山積みの課題とは。

#SHOW CASE #TREND
  • 安全な水とトイレを世界中に

夏になり、本格的なプールシーズンが到来しました。多くの小中学校では3年ぶりにプールの授業が開始され、特に入学して初めてプールの授業を受ける子どもたちにとっては待ちに待ったプール開きとなったことでしょう。プールの独特の匂いをかぐと、夏が来たと実感される方も多いかもしれません。ところであの塩素消毒されたお水、その後どこに流れているのか、考えたことはありますか?今回はプールをとりまく環境問題についてとりあげます。

知ってる?下水処理の仕組み

プールの水に限らず、トイレやお風呂、食器を洗った際に排出される汚水は、下水道管を通って下水処理場に運ばれます。下水処理場では、まず大きなごみや砂を沈めて取り除き、次に細かいごみを沈めます。残った汚れは微生物の力で分解され、6~8時間かけてきれいにされます。その後、沈んだ微生物を取り除き、上澄みの水を塩素などの薬品で消毒し、そして更にきれいになった状態で川や海に流れます。ちなみに、それぞれの工程で貯まった泥や汚れは汚泥処理施設に運ばれ、水分を取り除いた後に焼却されます。私たちが普段清潔にトイレを使え、生活環境の中で汚水の異臭を感じることがないのは、このように下水処理が整備されているおかげなのです。

プールの水はどこへ

下水道が整備されている地域では、排水した水は下水処理場に運ばれますが、下水道を通さず河川にそのまま流出させる学校も少なくありません。その場合、プールの水から残留塩素が消失したことを確認して放流することが義務付けられていますが、正しく管理されないまま排水したために数百匹の川魚が大量死してしまったという悲しいニュースは毎年のように見かけます。過去には無責任な排水が水質汚染の条例に抵触したということで教頭らが書類送検されたケースもありました。高濃度の塩素で環境が汚染されたことは許されず非難されてしかるべき事ではありますが、排水作業や排水時の水質管理は現場任せということもあり、教職員の負担を考えると少し気の毒な印象も受けます。

学校プールが無くなる?

学校プールを維持するためには莫大な費用がかかります。一般的な25mプールに必要な水の量は約422,000リットル、家庭用の浴槽に使われる水の量の約4年分に相当します。水を貯めるだけで、上下水道合わせて約27万円の水道代がかるそうです。夏の期間中、学校プールの水の総入れ替えは1回、場合によっては2回行われていますので、それだけでも結構なコストになってしまいます。また、施設の老朽化などで改修工事を行うとなると、億単位の費用がかかるため、プールの建て替えについては自治体も頭を抱えています。

最近では民間のプールを活用するなど、校舎以外でプールの授業を行う学校も増えています。都内では2割以上の自治体で学校外のプールを使用しているということですので、財政の厳しい地方では都内以上に学校外でのプールの活用が広がっていくかもしれません。

いつもより早い夏、でもプールの水が足りない!

記録的な早さで梅雨明けを迎えた今年。ダムの渇水など水不足が各地で叫ばれる中、学校プールの水にも影響が出ています。

福岡県行橋市は近隣ダムの水不足を受け、市内の小中学校全17校で夏休み直前の7月20日までプールの授業を中止。また、岡山市でも取水制限のため市内の全小中学校と幼稚園に対し、プール休止を求める要請が出されています。今年は3年ぶりに多くの学校でプールの授業が再開されましたが、一部の地域では新型コロナウイルスの問題ではなく、水不足が原因で開催が延期されている状況です。プールを楽しみにしていた生徒たちも、まさかプールの水が空っぽだなんて想像していなかったでしょう。気候変動による異常気象の影響はこのようなところにも表れています。

最新技術!災害時はプールの水を飲料水に

ここ数年は、全国各地でプールの水を飲料水に変える技術が導入されています。南海トラフ地震の発生予測が高まっている中、和歌山県田辺市は2013年に市内の小中学校および県立高校に造水装置を配備しました。大規模災害時、最も必要なのは飲料水の確保です。政府の発表でも、防災時は1日あたり3リットルの飲料水を確保しておくことが明記されています。学校は指定避難所でもありますので、プールを緊急水源として活用できることはスピードの面でも大きなメリットがあります。

この他にも、福島県南相馬市では2024年に新たにオープンする市民プールに浄水装置を設置することを決定。災害時には1時間で約166人分の飲料水を確保することができるとのことです。東日本大震災で被害の大きかった仙台市では水道の復旧に約30日かかっています。これまで災害時に自衛隊の給水支援車に長い行列ができている映像を何度も見てきましたが、災害に備えて自治体等でこのような取り組みが進められていることを知ると、水のありがたさと共に、影で市民を支えてくれている自治体職員の方々への感謝の気持ちも沸いてきます。

プールの水から見えてきた、日本が抱える環境問題

昔は当たり前のように学校で授業が行われていたプールも、老朽化や環境の変化でその在り方が大きく見直されています。運用と維持にかかるコストや水不足だけではなく、熱中症や豪雨の影響で授業が行えないという事態も発生しています。水質汚染に気候変動。プールをとりまく環境問題は想像以上に深刻であり、そして他人事でもありません。未来の子どもたちが安全に水泳の授業を受けられるためも、節水など身近なところで協力していきたいですね。

企画・編集/井口
ライター/黒川

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