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「新卒カード」無しからのスタート。日本のアスリートが“セカンドキャリア”に苦労する理由とは

「新卒カード」無しからのスタート。日本のアスリートが“セカンドキャリア”に苦労する理由とは

#SHOW CASE
  • 働きがいも経済成長も

秋になると、プロ野球のドラフト会議やメジャー移籍が話題になりますよね。プロ入りが決まり期待に満ちた表情を浮かべる学生、渡米への思いを語る選手の様子を多く目にします。しかし、その裏では次年度の契約を結んでもらえない、いわゆる「戦力外通告」を受ける選手も数多くいるのです。前クールに放送された『オールドルーキー』も戦力外となったサッカー選手のその後に焦点を当てたドラマでした。戦力外・引退選手には、その後どのような選択肢が残っているのでしょうか。
SDGsが目標8で掲げる「働きがいも経済成長も」内、「2030年までに、若い人たちや障害がある人たち、男性も女性も、働きがいのある人間らしい仕事をできるようにする。そして、同じ仕事に対しては、同じだけの給料が支払われるようにする。」といった課題にも通ずる、“どんな人にも平等に働きがいのある仕事ができる社会”の実現に向けて、今回はアスリートのセカンドキャリアについて考えていきます。

プロアスリートとして活躍できる時期は決して長くはない

セカンドキャリアが問題視される背景に、プロアスリートとしてのキャリアの短さが挙げられます。一般的なスポーツ選手の平均引退年齢は、野球は27~8歳、サッカーや相撲についても25、26歳ごろと言われており、一部のスポーツを除き、ほとんどのアスリートが一般のサラリーマンの定年とは比べものにならないほど、若く現役を退いていることがわかります。その中でプロ野球は、他の競技と比べて事業規模が大きいため、引退後の進路は野球関連が最も多いそう。しかし、解説者やコーチなどで活躍できるのは一部の有名選手ばかり。また現在では、日本野球機構(NPB)をはじめ、様々なセカンドキャリア支援が増えてきたにも関わらず、現実では、民間企業への転身はあまり進んでいません。選手はより早い時期からセカンドキャリアを視野に入れた準備が必要だという実態が見えてきます。

アスリートのセカンドキャリアにおける問題点

なぜ、日本のアスリートはセカンドキャリアに苦労をするのでしょうか。その理由としては、受け入れる側とアスリート側、それぞれに問題があるといわれています。受け入れ側である社会制度においては、未だ根強く残る日本の旧態依然とした企業体質の問題があります。学歴を重視した新卒の一括採用は現在でも多くの企業で実施されており、新卒のタイミングを逃すと、一般企業への就職へのハードルは高くなります。その人の個性にマッチした仕事を与える形ではなく、経験やスキルがない「若くて素直」な同じような人材を同じようにまとめて育てていく、という傾向は現在でも根深く残っています。また、中途採用は、同業他社間などが多く、キャリアが重視される傾向にあります。そういった背景から、アスリート自身が一般企業への転職は難しいと捉えてしまいがちです。「スポーツしかやってこなかった」と競技を続けてきたことを自ら否定するような言葉を口にしてしまい、社会との接点を広げられずにいるケースもあります。選手でなくなる喪失感は想像以上に大きいのでしょう。

セカンドキャリアの落とし穴。生活水準を落とせず破産へ

海外でも同じく引退後の新たな人生に苦労をするケースが極めて多いと言われています。競技漬けだった人生から一転、違う人生を始めなければならない上に、生活水準は落とせず、あっという間に破産する。イングランドでは、プロサッカー引退後の選手の40%が4年以内に破産。またその3分の1が1年以内に離婚という、セカンドキャリアの難しさが数字として表れています。キャリアも収入も失い、それまでの生活さえも送れない。アイデンティティを喪失してしまい、専門のセラピストでなければ解決できないほど深刻になるケースもあるといいます。

第2の人生を成功させたアスリートたち

そのような中でも、引退後も順調なキャリアを築き、成功を収めているアスリートも少なくありません。華々しい成績を残し、引退後は自らのブランドを立ち上げたマイケル・ジョーダンやアーノルド・パーマー。国内では、Jリーグ浦和レッズで活躍し、日本代表選手にも選ばれた鈴木啓太さんは実業家の道へ。腸内細菌と腸内環境の研究をベースにし、腸内細菌からコンディションを整える商品開発などを行う企業の代表取締役として活躍しています。

また、プロ野球球団のソフトバンクホークス株式会社は、アスリートのセカンドキャリアサポートを行う新会社「AcroBats(アクロバッツ)株式会社」を設立。イベントや講演会、スポーツ教室へのOBの斡旋・キャスティング、企業とのアドバイザリー契約などを事業軸としています。球団の子会社とした理由は、将来的に他球団やJリーグ、Bリーグなど異なるフィールドの人も巻き込み、セカンドキャリアの裾野を広げたいという意志の現れです。

アスリートに限らず、長い時間をかけて打ち込んだ環境から離れ、新しい場所でキャリアをスタートすることは、現代の日本ではハードルの高いことなのかもしれません。社会と繋がり、誰しもが働きがいや生きがいを持てるよう支援する取り組みも増えてきています。いつまでもチャレンジの精神は忘れないでいたいですね。

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