新内眞衣と学ぶニッポン放送『SDGs MAGAZINE』目標15「陸の豊かさも守ろう」につながる本田亮さんの環境漫画とは? #前編
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ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。パーソナリティを務める新内眞衣さんとともにSDGsを学ぶ同番組の3月19日放送では、環境漫画家の本田亮さんをゲストに招き、目標15「陸の豊かさも守ろう」につながる取り組みについて聞いた。
3月8日の「国際女性デー」に、ニッポン放送では“女性”という視点を通じて暮らしやすい少し先の未来について考える特別番組「My Stage」が放送され、新内さんがパーソナリティを務めた。番組の冒頭で、新内さんは同番組に触れ「長い時間お付き合いいただきありがとうございました。とても得たものが多かった5時間の放送になりました」と感謝。SDGsに関わる活動が、また新たな広がりを呼んでいることを感じさせた。
そして、今回の『SDGs MAGAZINE』では3月21日の「国際森林デー」にちなんで目標15「陸の豊かさも守ろう」に着目。ゲストに元CMプランナーで環境漫画家、カヌーイストなど気になる多くの肩書を持つ本田さんを招き、話を聞いた。
新内 「よろしくお願いします」
本田 「よろしくお願いします」
新内 「メガネをかけていらっしゃって、とても知的な雰囲気ですが、そんな本田さんのプロフィールから紹介させていただきます」
【本田 亮さんプロフィール】
1953年、東京生まれ。日大芸術学部写真学科を卒業後、電通にCMプランナーとして入社。「ピッカピカの1年生」「こだまでしょうか」など数多くのヒットCMを企画制作し、日本国内、世界各国のさまざまな広告賞を受賞。また、カヌーイストとしてサラリーマンによるカヌーチーム「転覆隊」を結成し、世界中の川を冒険。アウトドア雑誌に多くのエッセイを掲載している。環境漫画家としても活動し「エコノザウルスの環境マンガ展」を全国展開し、読売国際漫画大賞優秀賞を受賞。現在はフリーランスの作家アーティストとして活動。著書「ムズカシそうなSDGsのことがひと目でやさしくわかる本」の他、ジャンルを超えたクリエーティブで自然の素晴らしさを伝えている。
新内 「何やら、さまざまな肩書がありますが」
本田 「はい。正体不明とよく言われます。他にも“葉っぱアート写真家”というのがあります」
新内 「それは、どのような活動なんですか」
本田 「葉っぱを使って生き物をつくるという、そういうアート作品をやっているんです。子供たちのアークショップだとか、そういうものをちょっとやっています」
新内 「そんな本田さんに伺いたいことが2つありまして、お越しいただきました。本日は、まず3月21日の国際森林デーにちなんで、環境にまつわるお話からさせていただきたいなと思っています」
国際森林デーをきっかけに考える“森の力”
毎年3月21日に定められた国際森林デーとは、森林に対する意識を向上させるため2013年12月21日に国連が決議したもの。森林の減少が持続可能な森林経営や生物多様性の保全に陰を落としている現状や地球温暖化の進行による森林への影響を考える日として制定された。毎年、異なるテーマが掲げられ、2023年は「健やかな人は、健やかな森とともに」。健康に暮らすためには健全な森林が不可欠であり、貴重な天然資源を守れるかどうかは私たち次第−と国際連合食糧農業機関(FAO)は呼び掛けている。
新内 「このテーマについて、思うことはありますでしょうか」
本田 「僕は子供の頃、雑木林の中で育ったので、いろいろな甲虫を採ったり、花を採ったり、木に登ったり、そういう遊びの中から自然に対するベースができたのかなと思うんです。全ての自然があらゆる命の源になっているなと感じたことがいくつかあって、以前にカナダのバンクーバー島というところで海に潜った時に、海の中がものすごかったんですよ。ものすごく生物が豊富で、ものすごく大きい。ウニを採りに行こうとバケツを持って行ったら、バケツがウニ3個でいっぱいになっちゃったんですね。大きいから」
新内 「私たちが想像するウニの何倍くらいなんですか」
本田 「もう5倍くらいの大きさですね。あらゆる生物がそうやって大きいんです。バンクーバー島というのは広大な森がそばにあるのですが、この広大な森が海を育てている。森が育てているものは、森にいる生き物だけじゃなくて、もうあらゆる生き物を育てているんだなと、そのとき感じました」
新内 「すごい! そうなんですね」
一方で現在、地球全体では陸域生態系の75%に及ぶ領域が人の手によって著しく改変され、それによって生物の生息地が喪失し、水や大気の浄化作用や防災機能が著しく劣化しているとの報告がある。世界の森林面積は2010年から2020年にかけて年間平均470万ヘクタールのペースで減少しており、現在の森林面積は産業革命以前と比べて約68%にまで減っているという。今のペースでアマゾンの開発が進むと、地域の気候パターンが変化、干ばつが多発し、多額の農業被害を生じさせると考えられている。さらに、砂漠化は年間1200万ヘクタールのペースで進んでおり、約25%・100万種に絶滅の危険がある現代は「第6の大量絶滅期」と考えられている。
アマゾン川は地球の肝臓?!
「今後豊かな社会を構築・維持していくためには、その基盤となる自然生態系を壊さずに保存することが不可欠。ということで目標15『陸の豊かさも守ろう』があるんですが・・・」と新内さん。ここで、目標15「陸の豊かさも守ろう」の一つ一つのターゲットを改めて見ていく。
15.1
2020年までに、国際協定の下での義務に則って、森林、湿地、山地及び乾燥地をはじめとする陸域生態系と内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保する。
15.2
2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる。
15.3
2030年までに、砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復し、土地劣化に荷担しない世界の達成に尽力する。
15.4
2030年までに持続可能な開発に不可欠な便益をもたらす山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う。
15.5
自然生息地の劣化を抑制し、生物多様性の損失を阻止し、2020年までに絶滅危惧種を保護し、また絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる。
15.6
国際合意に基づき、遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分を推進するとともに、遺伝資源への適切なアクセスを推進する。
15.7
保護の対象となっている動植物種の密猟及び違法取引を撲滅するための緊急対策を講じるとともに、違法な野生生物製品の需要と供給の両面に対処する。
15.8
2020年までに、外来種の侵入を防止するとともに、これらの種による陸域・海洋生態系への影響を大幅に減少させるための対策を導入し、さらに優先種の駆除または根絶を行う。
15.9
2020年までに、生態系と生物多様性の価値を、国や地方の計画策定、開発プロセス及び貧困削減のための戦略及び会計に組み込む。
15.a
生物多様性と生態系の保全と持続的な利用のために、あらゆる資金源からの資金の動員及び大幅な増額を行う。
15.b
保全や再植林を含む持続可能な森林経営を推進するため、あらゆるレベルのあらゆる供給源から、持続可能な森林経営のための資金の調達と開発途上国への十分なインセンティブ付与のための相当量の資源を動員する。
15.c
持続的な生計機会を追求するために地域コミュニティの能力向上を図る等、保護種の密猟及び違法な取引に対処するための努力に対する世界的な支援を強化する。
新内 「本田さん自身、環境漫画家につながる活動として、カヌーで世界の川を下ったり、世界の山に登られたりしているとのことですが、現状について率直に思うことはありますでしょうか」
本田 「たとえばスイスに行くと、氷河がどんどん後退していって、ここから美しく見られますよというところに登っていっても、もう氷河がなかったりするんです。ずっと後ろの方にいってしまって。いろいろなところで森が開発されたり、氷河がなくなったり、海面上昇したりという現状を見ると、それは僕にとっては自分の体を傷つけられているような、ちょっと痛くて、あまり見たくないなと思ってしまうものですね」
新内 「目標15で特に大事だなと思うターゲットはありますか」
本田 「15,2に森林減少と植林を増やすというのがあるんですけど、それが全てのベースかなと思います。生物を救うのはもちろん重要なんだけど、まずは森を増やせば自然の生き物の力というのはそれなりにあるので。僕はアマゾンに行った時の話を時々するんですけど、アマゾンというのは基本的に“地球にとっての肝臓”だと思っているんです。アマゾン川を下っていって思ったのは、アマゾン川って味噌汁みたいということ」
新内 「色が、ですか」
本田 「そうです。色が絶対に澄むことはなくて、ずっと味噌汁のまま。濁ったままなんですね。川を下っている時に一回も石を見ていないなと思ったんです。全部左右が泥の川。それってすごく肝臓っぽいなと。肝臓って人間の体の毒素を分解してくれたりするわけでしょ。アマゾンって地球に溜まった毒素を分解してくれるんじゃないかと、ちょっと思い込んじゃったんですね。川の湿地帯がそういう役目をしているのと同じで、地球全体の毒素を分解しているのがアマゾンじゃないのかなって。アマゾンが開発されて森林が無くなると乾いてくるんです。これって人間でいうと肝硬変なんですよ。地球がどんどん肝硬変を起こしているんじゃないかな、というのは感覚的に感じました」
新内 「湿地帯がどんどん砂漠化しているということですか」
本田 「湿地帯が乾いてくるんです。最初、牧草地として使っているうちに乾いてくる。雨の量がだんだん減ってくるという、そういう流れになっています」
きっかけはパリダカ
本田さんが環境漫画家になるきっかけになったのが、1988年のパリ・ダカール・ラリーだという。
本田 「僕は環境問題について33年間くらい書いているんですけど、最初はサハラ砂漠を横断するラリーに参加した時。サハラ砂漠って基本的に真っ赤なんですけど、1カ月間くらい車で走っていたら、真っ赤なサハラ砂漠に白い砂漠地帯を見つけたんです。非常にびっくりして記念写真を撮ろうと寄ってみたら、それが全部貝殻だった。何で貝殻をみんなここに捨てるんだろうと思ったら、そこに湖があったんだと聞いて、ちょっと仰天したんです。そんなふうに砂漠化は進んでいるのかと。砂漠化ってとんでもないなと思ったのがきっかけで、それを何とか多くの人に伝えるにはどうしたらいいだろうと、そうだ漫画を描こうと思ったんです」
新内 「すごいですね。そこから漫画を描こうとなるんですね」
本田 「思った途端に個展の会場を予約したんです」
新内 「行動力がすごい。もともと漫画を描いていらっしゃったんですか」
本田 「いや、全く描いたことはなかったです」
新内 「えっ、それでどうやって・・・」
本田 「まず個展の会場に行って申し込んだ時に、ギャラリーの人が『環境漫画っていうのは面白いテーマですね。ぜひやりましょう』と。『で、どんな漫画ですか』と言うから、『まだ描いたことがないんです』と答えたらめちゃめちゃ怒られたという・・・」
新内 「不思議な人が現れたなと思われたのでは」
本田 「『会場は、描いた人が予約をするんです』と言われたけどね。必ず書きますから、とにかく1年後に会場を借りたいとお願いして、それから描き始めたんです。でも、最初の2ヶ月くらいは全然描けなかった」
新内 「予約はできたんですか」
本田 「予約はできました(笑)」
新内 「実際、環境漫画というのはどのようなものなのでしょうか」
本田 「環境問題というのは非常に難しくて、堅くて、ちょっと近づき難い。そのテーマをできるだけ優しく、かわいく、楽しく伝えるということで、基本的には全部一コマ漫画なんですけど、その一コマに環境問題が表現されていて、その中にユーモアとペーソスがあるという、そういうものです」
新内 「2007年からビッグコミックスピリッツで連載していた『エコノザウルス』というのがそれですか」
本田 「そうですね」
環境漫画家以外にも、カヌーイストとしても活動している本田さんだが、世界中の川を冒険した経験も、環境問題を考える上で大きなものになっている。
本田 「もう100以上の川に行きました。海外でいうとアマゾンだとか、ユーコン、アラスカのコバック、モンゴルのエグ川、ウガンダのナイル川とかですね。あと、カムチャッカのビストラヤ川だとか、いろいろなところに行きました」
新内 「川下りしているときは、どんな気持ちなのでしょう」
本田 「海外の場合は長期のロングツーリングなので、非常にリラックした感じです。日本の川の場合は短い区間でちょっとバトルになって、ひっくり返ったり、流されたりするんですけど、海外の場合は食料も全部積み込んで行って、何日間も楽しむという形になるので、広大な自然の中に飲み込まれていくような、非常に穏やかで、大きな気持ちになれますね。自然と一体化できるというか」
新内 「カヌーイストの憧れといわれるユーコン川だと、どれくらいの期間になるんですか」
本田 「僕は3週間でした。700キロくらい下りましたね」
新内 「3週間! 山はどのようなところに」
本田 「国内の山は結構登りましたけど、海外でいうとキリマンジャロとか、富士山より高い山だとキナバルと玉山(ぎょくざん、ユイシャン)くらいですかね」
新内 「それは、どの辺にある山ですか」
本田 「キナバルはマレーシアです。あの辺の地区の最高峰で4095メートル。玉山というのは台湾です」
人間は地球に甘えている!
新内 「本当にいろいろな自然を見てこられたと思うんですけど、本田さんが地球の自然に触れて感じていることは、どのようなことでしょうか」
本田 「すごく人間は地球に甘えているなと思いますね。海はこんなにでかいんだから何をしても大丈夫だろう、森にはこんなにいっぱい木があるんだから多少切っても大丈夫だろうとか、地球がほつれだしているのは甘えすぎてきたからだろうなと思うんです」
新内 「具体的に、私たちはどういったことをしていくのが良いと考えますか」
本田 「基本的にはモラルだとかマナーの問題が一つあるじゃないですか。節電しようだとか、ゴミを分別しようだとか。それってモラルだとかマナーの問題なので、当然当たり前にやらないといけないことだと思うんです。それにプラスアルファで積極的に貢献を何か一つするというのが僕は重要かなと思っています」
新内 「なるほど!」
本田 「たとえば自分が気になる問題って、それぞれ違うわけですよね。そういったことに対して、積極的に行動しているNPOだとかNGOを自分で選んで応援するというのが一つかなと思います」
現在の地球の自然環境について学びながら、環境を守るために大切なこと、私たちにできることは何か、どんな意識を持つべきかを本田さんと一緒に考えた今回の放送を、新内さんは「本当に耳が痛いなと思ったのは、地球に甘えているという言葉ですかね。まだ大丈夫だろう、まだ大丈夫だろうと思っていると、取り返しがつかなくなる。それからでは遅いというのは、すごく感じる部分がありました。いろいろニュースでもやっているはずなのに、まだどこか遠い世界のお話になっている気がしたので、ちゃんと感じていかなきゃいけないなと思いました」と振り返った。革新的なSDGsの伝達手段ともいえる“環境漫画”に取り組む本田さんの活動に、また新たな気づきを得た様子だ。
(後編へ続く)