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4社に1社が海外の生産拠点を日本国内に切り替えへ。その理由とは。

4社に1社が海外の生産拠点を日本国内に切り替えへ。その理由とは。

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入学式のシーズンを迎えた4月。昨年に続き今年も、新入生の制服がギリギリのタイミングになっても納品されていない、というニュースが各地で報じられました。原因は、昨年から続くロシアによるウクライナ侵攻で、生地の原料である石油の価格が高騰したこと。さらに生地を作る中国の工場も、ゼロコロナ政策の影響を受けていることなどが挙げられます。このような課題を解決するべく、近年アパレルの分野だけではなく様々な業界において、「工場の国内回帰」を検討する企業が増え始めています。今回は、加速する「国内回帰」についてサステナビリティの観点から考えていきましょう。

工場の海外移転はどうして進んだのか?

そもそも工場の海外移転にはどのような背景があったのでしょうか。平成24(2012)年12月に内閣府政策統括官(経済財政分析担当)から発表された「厳しい調整の中で活路を求める日本企業」という白書を紐解いてみましょう。
まず、海外移転の流れが起こったことについては、主に、人口減少への危機感が大きいと見ているようです。白書には、「今後の国内市場の縮小と海外市場の拡大という不可逆的な世界経済の構造変化」と述べられています。具体的には、「企業は、人口減少が進み、長期にわたって低成長が続く我が国に留まっていては、将来展望を描くことができないため、国内よりリスクは大きいが、高い成長が見込める海外市場に活路を見出そうとする。」「我が国の人口減少に伴う労働供給制約を考えると、国内で輸出財の生産を拡大させることには限界があり、中長期的には、海外生産移転が重要になる」としています。
一方で、「国際競争力を維持するために、日本企業が絶えずコスト削減に努めても、それが円高によって打ち消されてしまっている。」と、当時の経済状況に対する懸念も記載されていました。さらに、白書の中では、海外生産移転によって国内の生産や雇用が減少、国内産業の技術水準が停滞し、低下する現象を「空洞化」と定義しています。
また、中国との尖閣諸島を巡る問題に対して「2011年は、繊維、木材・パルプ、ゴム・皮革などの軽工業のシェア(対世界)が高い。<中略> 技術的に他国で代替しやすい業種であることを考えると、地政学的リスクを回避するという観点からも、生産拠点の再配置が検討される可能性がある。<中略> 中国国内市場向けでない製品については、生産拠点をASEAN地域内に分散してシフトすることが選択の1つとして考えられる。」といった地理的なリスクについても考えられていました。

進む工場の「国内回帰」の現状とは?

10年ほど前から、「空洞化」や為替変動などの課題を抱えていた工場の海外移転ですが、2023年の帝国データバンクによる調査結果では、海外調達等を行っている企業の約4社に1社が「国内回帰」または「国産回帰」を実施もしくは検討をしているという結果が見られました。特に建設業、アパレル、卸売業では、全体(40.0%)を7.0ポイント上回り、変更の実施割合が高くなっていることが分かります。
主な要因としては、
・円安による海外の人件費高騰や輸送費の変動
・コロナ禍やウクライナ問題を経験しての地政学リスク回避
が挙げられます。
安定的な供給体制の強化をする上で、国内での生産は大きなメリットとなります。例えば、ダイキンの十河政則社長は2022年9月の中間連結決算の記者会見で「事業継続計画(BCP)という観点から回帰を進める」と発表し、中国で生産する家庭用エアコンについて、一部の国内回帰を進めています。また、塩野義製薬は、手術用抗菌剤の原料の生産を岩手県で始めているそうです。これまで、医薬品原料は中国の生産シェアが高く供給リスクが指摘されてきたことから、安定的に調達するための戦略の一つとして実施しているそうです。その他、電子、食品、化粧品、日用品といった身近な業界も国内での大型設備投資をする企業が目立ってきています。

メリットだけではない?国内回帰の課題

上記のように多くの業界で推し進められている国内回帰ですが、その裏にはいくつかの解決しなければいけない課題やデメリットも存在しています。
早稲田大学大学院客員教授であり、サプライチェーンマネジメント関連の著書も執筆している野村総合研究所の藤野直明さんによると、「問題は、工場の製造ラインの設計技術者、つまり生産技術のエンジニアが激減していることである。工場の新設が少なかったため、生産技術者が過剰に存在し、コストを圧迫していると考えられたことで、人員の圧縮が続いてきた。専門部署の規模は、この20年間で約1/3に縮小している」と話しています。実際に、経済産業省によると、「生産工程の職業」の有効求人倍率は、2015年が1.10であるのに対し、2021年は1.55と、人材・労働力の確保が難しくなっている状況。また、日本では海外と比べ、土地が狭い上に、工場立地法により様々な条件が設定されているため、建設へのハードルが高くなっているのも現状です。

解決の鍵は「スマートファクトリー」

国内回帰に向けた動きは、大手企業を中心に進んでいるものの、上記のような課題・デメリットも踏まえると、中小企業が海外の拠点を手放すことは大きな決断が必要となります。
しかし、この解決策として、近年注目を集めているのが工場の「スマートファクトリー化」です。スマートファクトリーとは、持続可能な国内生産を実現するために、設計から製造、保守までのビジネスプロセス全体の変革の両面を見る「DX」を行った工場のことをいいます。
村田製作所は国内の製造業に従事する人を対象に、スマートファクトリー化に関する調査を実施しました。スマートファクトリー化に携わる人の86%が「成果を感じている」と回答。国内での事例では、花王がフローティングリニア技術を活用し、加飾成形技術と、効率的な少量多品種生産が可能なダイナミックセル生産技術を開発しました。これにより、複雑な同時多品種生産が可能になったそうです。また、「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイでは、ニット製造機「ホールガーメント」を活用することで、ほぼ無人での製造を可能に。スマートファクトリーの推進のため、各種エンジニアの募集も積極的に行っています。

製造業とともに人材不足が長年の課題である農業や水産業などの第一次産業でも、スマート化により人手不足の解消や、農作物の品質向上にまでつなげている事例が増えています。
農業用ドローンやカゴメ株式会社によるAIを活用したトマトの収穫予測システムなど、製造業においての「スマート化」が、持続可能な国内回帰の流れをより後押しすることを期待したいですね。

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