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都市デザインの専門家・小林正美さんと考える目標11「住み続けられるまちづくりを」~前編 再開発の基礎知識、そして神宮外苑再開発問題のポイントとは

都市デザインの専門家・小林正美さんと考える目標11「住み続けられるまちづくりを」~前編 再開発の基礎知識、そして神宮外苑再開発問題のポイントとは

#RADIO
  • 住み続けられるまちづくりを

ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。パーソナリティを務める新内眞衣さんとともにSDGsを学ぶ同番組の5月14日放送では、明治大学教授の小林正美さんをゲストに迎え、目標11「住み続けられるまちづくりを」について考えた。東京都心各地で多く見られる再開発。高層ビルの必要性や神宮外苑地区の再開発など、今話題のトピックを深掘りする。

そもそも再開発って何?

新内 「早速、本日のゲストをお呼びしましょう! 明治大学理工学部教授の小林正美さんです。よろしくお願いします」

小林 「よろしくお願いします」

新内 「今日も1限から4限まで授業をしっかりしてきたということで、へとへとの中、本当にありがとうございます」

小林 「はい、大丈夫です」

【小林正美さん プロフィール】

東京生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。
東京大学院修士課程修了の後、東京都庁舎や国立代々木競技場を手掛けた「世界のタンゲ」こと丹下健三・都市建築設計研究所に勤務。米ハーバード大学への留学を経て、明治大学理工学部へ。
専門は建築設計および都市デザイン論。「シャレットワークショップ」の手法により全国各地でまちづくり活動に参加。下北沢地区、岡山県高梁市、兵庫県姫路市などの都市デザインを手掛け、日本建築学会賞やグッドデザイン・地域づくりデザイン賞を受賞。
自身の設計事務所・アルキメディア設計研究所所長の他、東京都台東区景観審議会会長なども務める。

新内 「まずは、どういったきっかけで都市デザインに興味をお持ちになったのか伺いたいのですか」

小林 「私は基本的に空間のデザインをする建築設計を目指して大学勉強したのですが、単体の建物だけ設計していても街並みはきれいにならないし、私の恩師が『街並みの美学『』という本を書き、景観のことを割と早めに主張した芦原義信先生で、すごく影響を受けました。それで最終的には丹下健三先生の事務所に入り、単体の建築のデザインよりは都市デザインとか大きなところから、公共スペースとか、人々の生活とかそういうことを考えるのが意味のあることかと思って、そちらの方に段々と進んできました」

新内 「本当にいろいろと聞きたいことがたくさんあるのですが、東京都都市整備局のホームページによると令和4年10月の段階での再開発地区は284地区もあると書かれています。そもそも再開発というものは、どういったタイミングで行われるものなのでしょうか」

小林 「なかなか複雑な話なんですけども、まず一つは戦後建てられた建物がかなり年を取って、老朽化して使いにくいということがビルのオーナーたちが思うことですね。実際はコンクリートをちゃんとメンテナンスすれば100年以上もって、ヨーロッパのようにそれをリノベーションして雰囲気の良い街として使い続けることはできるんです。でも、それだとビルのオーナーとしては建設費を新たにかけて手を入れなきゃいけない。一般的に再開発というのは容積率(延べ床面積÷敷地面積×100)を上げて、余剰の面積をつくり、それを売ったり、貸したりして、建設費をそこから捻出するというのが基本的な仕組みなんです。建設費も今高いですし、東京都ではいわゆる特区に指定して、その特区内はもっとすごいボリュームのものを立てていいという規制緩和がなされ、湾岸を含めて超高層のタワーマンションとかオフィスができる一つの原因になっているんです。そして、オフィス過剰の問題は確かにありまして、それまではシンガポールとか他の都市と競争するために、非常に大きな床面積、プレートと言いますけど、すごく太いオフィスが一番競争力があると言われて計画されてきたのですが、いざコロナになってみると、もう週の半分くらいしか通勤しなかったり、フリーアクセスのオフィスになったり、もうこんなに面積いらないんじゃないのとなってきた。賃料はすごく高いわけで、これからはこんなにつくって大丈夫なのかということは今、かなり言われています」

新内 「いろいろな深い話がありそうですが、そもそもこういった再開発って、どう行われていくのでしょう」

小林 「再開発というと民間事業者がメインになってきますが、公共事業として地域を変えていくものもありますね。あるいは両方一緒になった第3セクターというのもあります」

オフィス過剰の2023年問題

新内 「都心では超高層ビルが林立していて、中にはテナントが半数しか決まっていないというビルもあると聞きます」

小林 「そうですね。『2023年問題』といわれるのですが、例えばシンガポールでなぜあんなにオフィスが成り立つのかというと、タックスフリーまではいかないけど、税金を緩和する、法人税を取らないでいいとか、そうやって違う戦略でテナントを入れているんです」

そんな中、小林さんが“価値”を見出すのが「ウォーカブルな街」だという。

小林 「例えば谷中、根津、千駄木の谷根千、神楽坂、下北沢、吉祥寺のような人気の街には、駅に近いとか、商店街があるとか、15分以内にどこにでも行けるとか、安全だという魅力があり、それが東京の一番の魅力だと海外でも言われているんです。最終的には“ウォーカブルな街”には世界的に価値があり、国交省も促進しているんです。ヒューマンスケールで住んでいて楽しい街ですね」

新内 「私もよく散歩とか行くので、確かにウォーカブルな街、歩いていて楽しいとか歩きやすい街、散歩しやすいところって開けたところだなと感じますね」

小林 「私は豪徳寺に住んで(再開発に携わった)下北沢に歩いて通いましたけど、今まで気が付かなかった街、こんなものがあるんだとか、発見があることで、精神的にもリフレッシュするし、パリとかポートランドとかも歩いて20分以内で全ての用事が足りる。そういう街に住みたいと、みんな言い出しているんですね」

神宮外苑地区再開発の問題点とは

再開発を考える上で、最近最も話題になっているのが、東京・新宿区などにまたがる神宮外苑地区の再開発だ。神宮球場や秩父宮ラグビー場の建て替えを含む3月に着工された再開発事業で、イチョウ並木など多数の樹木伐採や超高層ビルの建設を疑問視する声が上がり、反対運動は大きなうねりとなっている。

新内 「そもそも、こちらの現状はどうなっていて、どこが問題とされているのでしょうか」

小林 「これもなかなか難しい問題ですけど、先ほど言った容積率をアップすることで再開発が成り立つというのと、空中権というのですが、ある建物の敷地では私の敷地でこれくらいの高さしか立てないから、余りの容積を売っても良いですよという制度があるんですね。例えば、東京駅の周りに高層ビルが建ちましたけど、東京駅は自分の駅の空中権を売って建設費を賄うという仕組みを使いました。今回は明治神宮が運営している野球場、ラグビー場、これは耐震的に問題なのだと思いますけど、それを立て替えるために自分の空中権を事業者に売って、青山通り沿いに超高層のオフィスなどが立って、こちらはそれを立て替えるという座組になったんです」

実は、これが成立する要因となったのが東京五輪。もともとの条例による高さ制限は15メートルだったが、建築家ザハ・ハディドさんによる新国立競技場のデザイン案を踏まえて一部の高さ制限が80メートルに引き上げられたのだ。

小林 「このことは、ほとんど都民には知らされていなかった。決まってしまったことで、この辺がかなり高層になる最初の仕組みができてしまったんですね。その後、いろいろと計画があったんでしょうけど、それが逐一報告もされないままどんどん進んで、いきなり木が1000本切られるとか、そんなところだけがボンと出てきた。壊したらスワローズが2、3年使えなくなるので、野球場を使いながら建て替えなければいけない

新内 「球場が使えなくなりますからね」

小林 「だから、どうしてもまずラグビー場を北側に建てて、余ったところに野球場を移して、という場所の交換をすることになったんです。その時に野球場が大きすぎて、イチョウ並木のあるところにまで迫ってきてしまって、西側のイチョウ並木が死んでしまうのではないかといわれているんです」

重要なのは専門的な解決法

こうした再開発における事業者と反対派の対立は、一度起こるとなかなか収まることなく、大きな問題になっていくことが多い。その“落としどころ”をどう見つければいいのか。小林さんは、こう続ける。

小林 「僕は、専門家がちゃんと入った上での、もっと専門的な解決法があると思うんです。いろいろな都市の問題は、これからもあると思います。専門家が、ちゃんとそこを丁寧に解説して、どこが問題なのか、技術的に変えられるんだったら双方の調和というか、適応するところを探す。それをしていかないといけない。オール・オア・ナッシングではできないですよね。そういう話の調整とかをもっとしていかないと、みんなのための街はできないと思いますね」

新内 「私自身にとっても、神宮球場はライブをしたこともある思い出の場所です。ちょうどいい代替案というか折衷案があるといいなと思います」

小林 「今言われたのはすごく大事なポイントで、再開発で一番失われるのは記憶なんですよ。そこで生活している人とか、それが突然消えてしまう。スクラップ・アンド・ビルドというのですが、それを日本は戦後ずっとやってきた。しかし、もう今やSDGsの時代になっています。そんなに大きな建物はいらないじゃないですか。ある意味、ヨーロッパ型の今ある資源をちゃんと使いながら、みんなでのんびり暮らそうよ、と。それでいいじゃないですか」

新内 「本当にいい案が出ることを祈るばかりですね」

小林 「単に対立しているだけでは解決しないんですよね。そこに代替案、こうしたらいいんじゃないのという議論をする。これからの若い世代には、そういう街づくりをしてもらいたいと思っています」

新内 「より良い再開発をってことですね」

小林 「そうですね」

今回は「街づくり」「再開発」について考える回となったが、新内さんは「先生もおっしゃっていた技術的な解決方法というのは、本当に大事になってくると思いました。対話はもちろん必要ですけど、いろいろな面から実現可能なものに向かっていくというのも、すごく大事だと思います。いい形で話がまとまることを私たちは祈りますし、そういうことに向けて行動していけたらなと思います」と力を込めた。専門家の言葉に、「対立」の新たな解決策を見た様子だった。

(後編に続く)

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