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都市デザインの専門家・小林正美さんと考える目標11「住み続けられるまちづくりを」~後編 岡山県高梁市、パリ・・・具体例から探る「理想の再開発」

都市デザインの専門家・小林正美さんと考える目標11「住み続けられるまちづくりを」~後編 岡山県高梁市、パリ・・・具体例から探る「理想の再開発」

#RADIO
  • 住み続けられるまちづくりを

ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。パーソナリティを務める新内眞衣さんとともにSDGsを学ぶ同番組の5月21日放送では、前回に続き明治大学教授の小林正美さんをゲストに迎えて目標11「住み続けられるまちづくりを」について考えた。小林さんが実際に手掛けてきた岡山・高梁市の事例や、話題になっているパリの計画などから「理想の再開発」の姿に迫った。

岡山県高梁市の実例から

新内 「前回は目標11『住み続けられるまちづくりを』をテーマに、各地の再開発問題について、都市デザインに詳しい明治大学工学部の教授・小林正美さんにお話を伺いました。今週も引き続き、よろしくお願いします」

小林 「よろしくお願いします」

新内 「先週は都市の再開発問題や神宮外苑再開発についての考えてきたのですが、今週は小林先生が実際に手掛けてきた街づくりについてお伺いします」

東京・下北沢や岡山・高梁市、兵庫・姫路市の都市計画、再開発などを手掛けてきた小林さん。高梁市の事例では、「シャレットワークショップ」という手法で街づくり教育への継続的取り組みとして2013年に日本建築学会教育賞を受賞している。

小林 「私のいる大学の学生は関東圏の学生が多くて、あまり山に囲まれたところ、昔の城下町とかをほとんど知らないんです。そこで、岡山県の高梁では、学生たちと街づくりを一緒に考えるにはどうしたらいいかということで、毎年夏に必ず合宿に行って状況を調査したり、ここがまずいんじゃないのというような診断をしたりしました。このポイントをこう変えたら街がもっと良くなる、人がもっと歩くようになる、街並みが変わるという診断と解決法を提案する。それが『シャレットワークショップ』というやり方です。短期間に集中して相手の意見を聞き、どこが問題かを決めて、そこを集中的に刺激することで活性化する。人間の体でいうとツボですね。血流が悪いと思われるツボを相手の話を聞いて刺激すると、どうなるか。先のイメージ、ビジョンを考えて、具体的に『じゃあ、こうしましょう』と。それをずっと30年間やってきたら、すごくこの街は人気が出ました。駅の横に図書館をつくろうといって、実際にできたところにスターバックスも入ってきて・・・」

新内 「(写真を見ながら)駅と図書館が本当に一体化して、めちゃくちゃおしゃれですね。これができた時、住民の皆さんはすごく喜んだんじゃないですか」

小林 「それは、もう。高校生とか、すごく勉強するようになったと思うんですよ(笑)」

新内 「こんな街づくりを実現されていて、本当に素晴らしいなと思うんですけど、この街をつくるにあたって具体的にどういったとことを意識したのですか」

小林 「やっぱり、その街のDNAや歴史ですね。具体的にいうと、その街や近辺で取れる材料とか土の色とか、人間にも個性があるように、街にもその街にしかないもの、らしさというものがある。それは何だろうとみんなで探して、それを強力化して街づくりに反映する。潜在的なDNAを掘り起こして活発化させる。いわばお医者さんみたいなものですね」

新内 「本当に、その通りですね。ゼミの皆さんは3年しか関われないから、もっとやりたいと思う人もいっぱいいるんじゃないですか」

小林 「そうですね。自分は実際に設計事務所をやっているので、社会から何を求められていて、社会に何を返すのかということを考えて、しっかり実践的な教育をしないと、という思いがあります。デザインの手法も大事、歴史も大事、だけど机の上だけ教えていてもしようがない」

新内 「そこがすごいですよね。学生時代から本気の街づくりを経験できるというのは、なかなかないので」

小林 「それはそうですね。このシャレットワークショップのミソは最後、市長さんにプレゼンするところです。僕たちは何も触らないで、必ず実際に意思決定する人たちの前で学生たちに発表させます。それは緊張しますよ」

新内 「でも、そうやって経験をした生徒さんたちは、街づくりにおいて“心”も大事にしていくようになるのではないですか」

小林 「そうそう。デザイナーというのは、自分のやりたい造形を相手に押し付ける、相手の資金を使って自分の目的を果たしているんじゃないかと誤解されることが多いんですけど、やっぱり相手が何を望んでいて、限られた資金・環境でどういう答えが出せるか。それがある意味、プロの仕事だと思うんです」

夢のようなパリの再開発計画

続いて、新内さんが「世界に目を向けると」と切り出したのが「パリの再開発」について。自然にも市民にも優しい都市改革として、ソフトモビリティ(徒歩、自転車、キックボードなど環境を優先した移動手段)や緑化をキーワードに環境と共生する都市づくりを提案しており、具体的にはエッフェル塔周辺を巨大な庭に変えるプロジェクトやシャンゼリゼ通り一帯を緑化するプロジェクトなど、大胆な案が発表されている。

新内 「パリの再開発は大きな話題になっているそうですね。自然にも市民にも優しい都市改革を計画しているということなんですけど、こうしたパリの再開発は小林先生的に、より望んでいる存在といえるのではないでしょうか」

小林 「そうですね。このプロジェクトの“絵”を見ると、本当に夢のようなものになっています。具体的にここまで実現できるとは私は思わないけど、こういう夢のようなビジョンを書いて、みんなに共感してもらうことが大事ですよね。少しでもこれに近づけていこうと、みんなが思うことが大事だと思います」

新内 「ここまで大胆に緑化していくという再開発は、あまり見られないと思うのですが」

小林 「そうですね。パリはもともと意識が高くて『ヴェリブ』というレンタル自転車を他の街より早く始めて自動車を少なくする取り組みをやってきたんです。街のあちこちにステーションをつくって、夜はそれをトラックで運んで元に戻して。今は日本でも当たり前になってきましたけど、それをかなり早く始めたんです」

新内 「私も一度パリに行ったことがあって、この通りにも行きましたが、結構車通りが多いイメージでした。凱旋門のところなんて複雑で、一発であそこに行けないとも思います。それを整備して、車や人や自転車などが共存できる街になったら、すごく素敵だなと思います」

小林 「2007年にパリに1年くらい研究留学で滞在していたのですが、レンタカーを借りて、少し走ろうと思っても、さすがに凱旋門の周りのロータリーは一度入り込んだら抜け出せないと思ったので入りませんでした(笑)」

新内 「あれは本当に難しいですよね」

新内 「パリ以外にも気になる街はありますか」

小林 「今ちょっと人気が衰えてきたのですが、アメリカ西海岸のポートランドという街ですね。一つの街区がすごく小さくて、歩きやすい。私が10年くらい前に行ったときはトラムという路面電車が全部タダだった時代があって、若い人たちがあっちこっちから集まって来て、すごいなと思いましたね」

新内 「すごくウォーカブルな街ということですか」

小林 「そうですね。今、パリでは『15分都市』(車を使わず15分で仕事、学校、買い物などあらゆる機能にアクセスできる都市)というのを市長が打ち出しているんですけど、ポートランドはもっと早くから20分以内で全ての場所に行ける、という考えを打ち出していたんです。でも、今いろいろ東京を調べていますが、東京の界隈、下北沢とか谷中とか、ほとんど15分以内でどこにでも行ける。100年くらい前から日本はコンパクトシティみたいなものをやってきた。だから、君たち今さら何を言っているんだと、実は思うんです」

ニューヨークの“奇跡”

さらに、話題は再び前回の放送で掘り下げた再開発を巡る問題へ。小林さんは、その象徴的な事例としてニューヨークのセントラルパーク周辺で起こったムーブメントを紹介した。

小林 「ニューヨークは最初の街づくりが効率的過ぎて、全て同じブロックを南から北まで一気に計画したんです。そこで、ランドスケープデザインの神様といわれているフレデリック・ロー・オルムステッドという人がニューヨークの肺、CO2を吸ってO2を出すという巨大な森・林をつくらなきゃ駄目だということで設計したのがセントラルパーク。あれがなかったら、ニューヨークは本当に緑がない街なんですよね。そこの南側に2つのすごく高いタワーが建つという計画が発表されたことがあったんです。すると、意識の高い住民が集まって、みんなで黒い傘を持って2本の長い影になる長い部分に並んで、こんな影ができるんだというプレゼンテーションをしたら、計画が止まったという話もあります」

新内 「それはすごい!」

小林 「おしゃれですよね」

新内 「確かに、街づくりって住んでいる人や行き交う人にとって大事な問題ですし、再開発って知っているようで意外にさわりしか知らない部分もあったと思います。もっと問題意識を持っていきたいですね」

小林 「再開発というと全然違うイメージを持ってしまうこともある。街をリニューアルする、みんなで住みやすい街にするというところで話し合えばいいのだけど、儲けるための再開発は良くないということですかね」

新内 「小林先生が思う、『理想のまちづくり』とはどのようなものですか」

小林 「住みやすい街をみんなでつくっていく。そのためには安全性とか、駅に近いとか、個性的なお店があるとか、ヒューマンスケールであるとか、音楽とか食とか違う文化がかぶさっているとか、いろんなレイヤーがあると思うんです。一つは、家賃があまり高くなり過ぎると結局チェーンストアしか来なくなる。できるだけ、家賃が低い方が個性的なお店ができる。そういう街づくりをみんなでちゃんとやろうよ、と。今ある資源を出しながら、ちょこちょこと小さな投資で楽しい街をつくる方向に変わっていかないといけない。今はまだスクラップ&ビルドで巨額な投資をして、回収をして、事業者はどこかにいっちゃうというのが続いているので、そこに若い人たちが関心を持ってもらえたら良いですね」

そして、最後に番組恒例の質問。新内さんが「今私達にできること=未来への提言」を聞くと、小林さんは 「排除するのではなく、お互いの立場も分かりながら接点を探す。そういう対話をしながら、好ましいビジョンを共有、共感していく。そこの共通したイメージをつくれるかどうかがキーですよね」と問題解決につながる理想の姿を強調した。その言葉に、新内さんも「本当に、今ある資源を大切にして街づくりをしていくというのはとても大事なことですし、ずっと続く街づくりが大事だなと思いました」と共感し、深くうなずいていた。

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