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新内眞衣と学ぶニッポン放送『SDGs MAGAZINE』 モーリー・ロバートソンさんと考えるG7広島サミットと目標16「平和と公正をすべての人に」 #後編


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16 平和と公正をすべての人に
新内眞衣と学ぶニッポン放送『SDGs MAGAZINE』 モーリー・ロバートソンさんと考えるG7広島サミットと目標16「平和と公正をすべての人に」 #後編

ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。6月4日の放送では前回に続き、パーソナリティを務める新内眞衣さんが、国際政治ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんとともに、広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)と目標16「平和と公正をすべての人に」について考えた。

広島でサミットが開かれた意義

前回は、目標16「平和と公正をすべての人に」をテーマに、G7広島サミットについて国際政治ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさんに話を聞いた。今回も引き続き、モーリーさんの回。広島でサミットが開かれた意味、意義について深掘りした。

新内 「先週は、モーリーさんの生い立ちやG7広島サミットの入り口の部分についてお話を伺いましたが、そもそも広島でサミットが行われた意義はどのようなところにあると思いますか」

モーリー 「これは原爆の実相(実際の有り様)という言葉がよく使われるのですが、本当にあるがままに先進国の首脳には向き合ってもらいたいという考えです。被爆者が何人亡くなったという統計ではなく、もちろんデータは大事だし、それだけの人が亡くなったという深刻さを理解することも大事なのですが、現在も存命の方の声を聞いてもらったりだとか、当時から残っているさまざまな写真であるとか、遺留品とかを見てもらったり、感じてもらうということが今回のサミットの目的にあったと思います。現職のアメリカ大統領が原爆資料館に40分滞在し、被爆者と向き合って対話をした。これは戦後初めてのことだったと思います」

新内 「広島での開催がなぜ決まったんですか」

モーリー 「岸田総理が広島出身であるということで、とても努力されたんだと思います。広島という場所に首脳に来てもらって、本当に何が起こったのかを感じ取ってもらい、肉声を聞いてもらい、それをそれぞれの国に持ち帰ってもらう。各国のメディア、プレスがそれを報じる。そうすると、広島が悲劇のあった場所というピリオドとして止まってしまうのではなく、いわゆるカンマ、そこから次のフレーズ=平和というものにつながる。大変なことがあったけど、痛ましいことがあったけど、地球の平和がここから始まった、というキーワードに『広島』という言葉の意味が変わるんです」

新内 「期待していたものと比べて結果はどうでしたか」

モーリー 「これは見方や人の立場によって、さまざまな感想が出てきています、一番批判的に見るならば、現職のアメリカの大統領が被爆者と向き合った、慰霊碑に献花をしたところまでは良いが、謝罪の言葉がなかった、アメリカが人類に対して原爆の投下という罪を犯した、その罪滅ぼしをしたいといった強めの言葉がなかった。ここからアメリカはすべての核兵器を放棄し、ロシアにも呼び掛ける。そういう非常に純粋な平和の理想を求める方、特に非常に高齢になられた被爆者の中には、そのように強い、とにかく戦争事を止めて欲しいという願いを口にされる方もいます。この観点からすると、成果はとても足りなかったと。別の見立てをするなら、世界中に平和が訪れ、すべての核兵器が一気に廃絶されるというのが200点満点のゴール設定だとすると、今回のサミットは70、80点で100点にもいっていないじゃないかという批判にも聞こえるんですね。私は、今回のバイデン大統領の広島訪問をきっかけに、『これは恐ろしいこと』『なんてことをしてしまったんだ』と、これからのアメリカの世論、歴史認識をが全く変わるものになると思います。

新内 「それぐらい衝撃的なものですもんね」

モーリー 「そういう資料にG7の首脳が向き合ったというのは、やはり政治的にもリスクなんです。そうやって『戦争は嫌だ』『核を減らそう』というと、一方的にこっちが減らすのか、北朝鮮が持ったままなのか、中国もロシアも増やしているぞ、それは自分の国がただ弱くなり、相手の国に降参しましたというようなものじゃないか、という意見も出てきます。G7の国々はみんな民主国家ですから、選挙で負けるかもしれないというリスクを冒すことになる。それでも、不都合だけど、みんな見た方がいいよという流れを生んだのが広島サミットだったと思います」

「広島ビジョン」の意味

世界の平和に向けた前進と前向きに評価する声がある一方、発出された「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」について、具体的な核削減への道を示せていないものであるとの否定的な見方もある。

新内 「サミットを受けて『核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン』が発出されましたが、これによって核兵器がさらに減っていく可能性はあるのでしょうか」

モーリー 「それは可能性を感じています。G7は軍事的ではないツールを持っている。それは経済です。経済によって核物質をちゃんと管理しない国には、それなりの部分的な経済制裁を科していく。たとえばロシアのウクライナ侵略に対して強めの経済制裁をしています。だけど、今のグローバル経済で全封鎖は無理なんです。インドが確か1年くらいでロシアからの原油の輸入量を10倍に増やした。インドはインドの理論で、戦争の問題はあるかもしれないけど、うちだって貧困の問題がある。経済制裁に加わると、貧しくて飢える人が出てくるので、むしろロシアに他の国が買ってくれなくなった石油を安く売りますよと言われると、チャンスだと買うわけですよね。自国の国益を最優先して。だけど、その抜け穴は徐々にふさがりつつあり、インドのモディ首相も広島を訪れ、ゼレンスキー大統領と内容は公開されていないですけど話をした。ということは、恐らく何らかの取引があり、インドも協力してくださいよ、そうすれば何か見返りがありますよ、と。そういう話をできるのが経済。その経済のツールの主導権をG7の首脳が持っているということは、世界に影響力をもたらしますので、たとえばインドと中国が反対していたとしても、あまり実質的にロシアの後押しができない。そういう意味では効果はあったと思います」

小倉桂子さんの存在と語り継ぐべき思い

新内 「本当に意味のある、意義のある会議だったとは思うんですけど、これからどんどん被爆者や戦争当事者の生の声を聞ける機会は少なくなっていくと思います。そんな中、モーリーさんは被爆者である小倉桂子さんと対談をされたんですよね」

1937年生まれの小倉桂子さんは、8歳の時に爆心地から2.4キロの牛田町で被爆。1981年に「平和のためのヒロシマ通訳者グループ」を設立し、ニューヨークの世界被爆者会議などで英語による被爆体験の証言を行うなどの取り組みを行っている。

モーリー 「取材という形でお話をさせていただきました。小倉さんは、実際にバイデン大統領を含むG7首脳に英語で話をされたんです。小倉さんは本当に素晴らしい活動をされていて、高齢になられてから英語を勉強して“語り部”になったんです」

新内 「すごいですね」

モーリー 「ものすごい決意のある方です。小倉さんのような方が陰に日に努力をした結果が広島サミットだと僕は思っています。本当に、その人たちに僕は尊敬と感謝の念を持っていますね。実は、数年前に小倉さんが一般のアメリカ人を含む観光客に英語で話をされている現場を取材したことがありまして、その時にアメリカ人のティーンエイジャーの娘さんが話を聞いて涙をいっぱいに流していたんです。その時に『あっ、そうか。これが、この子にとってこの情報とのファーストコンタクトだったんだ』と思いました。確かに、アメリカの教科書で原爆のことはやらない。だから、ボロボロ泣いているのを見て、小倉さんはすごいことをしていると思いました」

新内 「そんな小倉さんとの対談も踏まえて、核を使わない世界にするためにはどういったことが重要になってくるとモーリーさんは思いますか」

モーリー 「保有国の人たちが一体何が現実なのかを知るということですね。核保有国であり、民主主義の国では、今回のG7広島サミットをきっかけに、みんな今後核の恐ろしさを知ることとなり、歴史の教科書は正しく修正されていくのだと思います。嘘はついていないけど、みて見て見ぬふりをしてきた歴史と正面から向き合おうということです。次いで独裁国、民主主義ではない国の人たちが核の真実、被爆の実相と向き合うことがあれば、選挙こそできなくても、国民からあまり変な戦争をやらないでくれという声は上がると思います」

新内 「無関心が一番怖い。でも、知る機会がどんどん減っていく現実もある。情報のアンテナを立てて、私たちもその情報を選択していかなくてはいけないんだなとすごく思います」

今こそ、広島県人として

モーリー 「それに対して悲観的な観測ではあるのですが、もうちょっと述べておく必要を感じています。ネットの時代には偽情報とか、歴史を修正する動きというのもあるんです。私は最悪の場合、広島の原爆って実は焼夷弾でしかなかったとか、あんなもの落ちていないとか、それは日本人としても広島県人としても信じられないことなんだけど、ネットではそういうことがまかり通ってしまうことがある。それでクリックが取れるから。それに対しても対策を打たないといけない。存命の語り部たちからバトンを受け取った私たちが、きっちりと日々発信していくことが大事なんです。それから、特に私は広島出身者として、広島の人たちには一つ使命があると思っています。しばらくカタカナで『ヒロシマ』という記号があったんです。これは原発に反対する運動の中でも時々神輿に担がれてきたため、『ヒロシマ』という言葉を大きな声で言いたくないというトラウマのようなものがある。それが今、時を超えて『ヒロシマ』という記号は『平和』という言葉とイコールになったと思います。広島の人たちには、自分たちに起きたこと、ここまで復興したこと、今元気で幸せであること、これを全世界に発信して世界中からお客さんをウェルカムしていただきたいんです」

新内 「そしてSDGsには『平和と公正をすべての人に』という16番目の目標があります。この辺りをモーリーさんはどう思いますか」

モーリー 「私は、私なりの高らかな理想を持っています。それは、世界の主要な国が全部民主主義に移る必要があるということです。独裁が許される限り、たとえば核兵器であるとか、戦争をする、武器を使用するという決定が少数のグループ、あるいは一人の人間に委ねられる。どうしても戦争で問題を解決しようというきっかけを与えてしまうんですね。ところが、その上にいる決定機関が、合議制、選挙で選ばれれば、4、5年で問題のある人は国民によって任を解かれる。言論の自由があったら、何でそんなことをやっているんだという声も上がります。巧妙に忖度をさせて、テレビも新聞も、何だか分からないけど、言うべきことを言わないようにはできますよ。でも、それにだって限界があるわけです。民主主義が大前提にあると、大きな戦争は起こりにくくなり、核抑止、核廃絶にもつながる。今のG7は中国やロシアの資源、労働力の安さにあまりにも依存している。つまり、お金欲しさにみんな分かっているのにプーチン体制、習近平体制を野放しにしている。その方が、自分が儲かるから。このずるさに人間が向き合い、多少ものの値段が高くなっても、不便になってもいいから、民主主義をちゃんとやれ、でなきゃ商取引をしない、くらいの意志を見せたら案外効果があると思います」

そして、最後に恒例の質問。新内さんは「今私達にできること=未来への提言」をモーリーさんに尋ねた。

モーリー 「広島サミットでは、ゼレンスキー大統領が来てくれました。そして、ゼレンスキーさんの向こうには今、避難している人も含めて、ウクライナの人たちが広島で何が起きたのか直接向き合ったんです。戦争で苦しんでいるウクライナの人が戦争と向き合って、広島と向き合った。では、広島の人たちは今苦しんでいるウクライナの人たちと同じくらい向き合えるだろうか。これが橋渡しになると思います。不都合なことや目を背けたくなることもあるけれど、日本全体がウクライナのことを感じて、それに向き合うことで平和が訪れ、みんながハッピーになる。実は一人一人がそれに対してできることもあるんです。たとえば投票に行くこと!」

新内 「なるほど。本当にいろいろな情報を見て投票に行って、少しでも力になればいいなと感じた日でもありました」

モーリー 「その1票は200、300万分の1ではなく、その1票で動くんです。1人の訪問者が広島に来て、その真実を家族や友達に語ったら、持ち帰った国で輪が広がっていきます。投票の1票も同じ。イメージしていただきたいのは波紋です。投票した人の力が、グッと世界を変えていくんです」

2週続けてモーリーさんにお話を聞いた新内さんは「本当に百聞は一見に如かず。こうした話を聞いて、ニュースを見て、実際に広島に行ってみるとか、長崎にも資料館があるので長崎に行ってみるとか、本当に行動していくのが正解なんじゃないかなと思います」と背筋を伸ばした。