“SDGs”と“企業”をもっと近づける!SDGs MAGAGINE

クワイエットデーって知ってる?埼玉県の動物園が実施した“静かな”取り組みとは

クワイエットデーって知ってる?埼玉県の動物園が実施した“静かな”取り組みとは

#SHOW CASE
  • 人や国の不平等をなくそう
  • 住み続けられるまちづくりを

「クワイエットアワー」や「クワイエットデー」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。光や音などに敏感な「感覚過敏」の症状がある方のために、施設の照明やBGMなどを抑えた時間を設ける試みのことです。
2017年にイギリスではじまったとされる「クワイエットアワー」ですが、最近は日本でも大型商業施設やレジャー施設などで実施され、徐々に広まりつつある新しい取り組みです。

今回は、埼玉県の動物園が先日実施した「クワイエットデー」をご紹介しながら、視覚や聴覚などが過敏で外出にストレスを感じてしまう症状「感覚過敏」について考えてみたいと思います。

そもそも「感覚過敏」って?

「感覚過敏」は症状や特性を表すもので、病名ではありません。その名の通り、特定の感覚を過敏に受け取ってしまう状態のことを指します。
感覚過敏には、同じ光でも眩しいと感じてしまう「視覚過敏」や、サイレンなどの大きな音や騒音が苦手な「聴覚過敏」のほか、香水や食べ物など特定のにおいで体調が悪くなってしまう「嗅覚過敏」や「味覚過敏」などがあります。人によっては視覚と聴覚など複数の感覚で起こることもあるようです。

埼玉県こども動物自然公園が「クワイエットデー」を初開催

そんな感覚過敏の症状がある方にも安心して動物園を楽しんでもらおうと、埼玉県東松山市にある埼玉県こども動物自然公園は12月15日、「クワイエットデー」を初めて開催しました。そこで、園長の田中理恵子さんにお話を伺ってきました。

まず最初に、クワイエットアワーやクワイエットデーについてご存知だったかをお聞きすると、こんな答えが返ってきました。
「以前海外旅行でショッピングモールを訪れた際に、たまたま照明を抑えたクワイエットアワーを体験したんです。そのとき初めて知って、なるほどそういうものがあるんだと関心したのを覚えています。」
今回開催した「クワイエットデー」は、県の障害福祉推進課から「動物園でクワイエットアワーを実施できませんか?」と提案があったことがきっかけだといいます。

実は同園では今年「ドリームナイト・アット・ザ・ズー」という、障がいのある子どもたちとその家族を動物園に招待して気兼ねなく楽しんでもらおうという国際的なイベントを開催しています。
「ドリームナイト・アット・ザ・ズーは、オランダのロッテルダム動物園がはじめた取り組みで、うちでもやりたいねとスタッフと話していたのですが、今年8月に初めて実施することができました。」(田中園長)

そのドリームナイト・アット・ザ・ズー実施の経験とあわせて、準備として応用できるものがいくつかあったこともあり、今回は、感覚過敏の症状がある方々が過ごしやすい空間を“数時間”設ける「クワイエット“アワー”」ではなく、“終日”設ける「クワイエット“デー”」を実施することにしたのだそうです。

いつもの動物園とココが違うクワイエットデー

クワイエットデー当日は、緊急放送を除く園内放送や屋内施設の館内放送を止め、屋内施設の照明が刺激にならないように調整しました。普段スタッフ同士で連絡用に使っているトランシーバーは、音がもれないようにイヤホン使用にするなどの対策も行われました。
また、クワイエットデー用の園内マップの作成・配布や、イヤーマフとサングラスの無料貸し出し、パニック症状などを起こした際に一人になれる「カームダウンスペース」を園内数ヶ所に設置しました。

その日は感覚過敏の方限定の開園ではなく、いつも通り誰でも来園できる日にしたこともポイントです。

「休園日を使って閉鎖的にやるより、一般の人に感覚過敏の方々の存在を知ってもらうことも重要なのでは?と考えて、通常営業日の平日を使って丸一日やることにしました。」(田中園長)

事前に告知をした公式SNS上では、思っていた以上に反響があったといいます。

「“素晴らしい取り組みだと思います!”とか、“もともと動物園ってそれでいいんじゃない?”とか、“自然の風や音を感じる場所だから、そもそもずっとこれでいいと思う” など好意的なコメントをたくさんいただきました」(田中園長)

“感覚過敏で苦労されている方の存在を知ってもらう”という、もうひとつの目的は少なからず果たされたのではないでしょうか。次回の具体的な日程は決まっていませんが、埼玉県こども動物自然公園では今後もクワイエットデーは実施していけたら、とのことでした。

さまざまな取り組みが全国各地でも

日本でもクワイエットアワーやクワイエットデーの試みが広がりつつあると冒頭でお伝えしましたが、最後にいくつか国内事例をご紹介しましょう。

神奈川県相模原市にある複合商業施設アリオ橋本全館では、2023年4月に午前中の1時間限定で館内BGMと館内放送をカットするクワイエットアワーを実施しました。同じく相模原市のテックランド相模原店では、毎月第2・第4火曜日にクワイエットアワーを定例実施中です。

プロサッカークラブの東京ヴェルディでは、2021シーズンから味の素スタジアムでのホームゲームにおいて、障がいのある人がリラックスして試合観戦を楽しめる「Green Heart Room」の運用を開始しています。

また、成田空港や羽田空港、関西国際空港など国内の主要空港内には「カームダウンスペース」が設置されています。外部の音を遮ることで気持ちを落ち着かせることのできる場所を、空港内という非日常空間で提供しています。

さまざまな感覚過敏で苦しんでいる人のためにアイディアを出し合い、社会的に手助けすることは「誰一人取り残さない」というSDGsの理念に通じることです。誰もが出かけやすい、優しい環境整備に向けて、クワイエットアワーやクワイエットデーなどの取り組みは今後もどんどん増えていきそうですね。


執筆 / フリーライター こだまゆき

アバター画像

WRITTEN BYSDGs MAGAZINE

カテゴリーの新着記事

新着記事

Page Top