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植物と微生物の力で街に優しい明かりを灯す『ボタニカルライト』。その探求者に聞いた、発電の仕組みと可能性、思い描く未来。

植物と微生物の力で街に優しい明かりを灯す『ボタニカルライト』。その探求者に聞いた、発電の仕組みと可能性、思い描く未来。

#SHOW CASE
  • すべての人に健康と福祉を
  • エネルギーをみんなにそしてクリーンに

暗い場所に明るい光と安心感をもたらす外灯やイルミネーション。街に必要ではありますが、地球規模で深刻化しているエネルギー問題も気になるところ。そこで注目を集めているのが、植物や微生物によって発電する『ボタニカルライト』です。実物を見ると、植物の隣で明るく灯る電球の先にコンセントや電池は繋がっておらず、土中には電極が差し込まれているのみ。一体どうやって発電しているのでしょう? そこで、『ボタニカルライト』の開発に携わる「グリーンディスプレイ」の大塚淳一さんに、その仕組みや可能性について伺いました。

小学生の時の素朴な疑問が出発点

「小学生の頃、“光合成”という言葉を知り、『光を合成するってどういうこと?』と思ったのがそもそもの始まりです。その後、植物園の園長になり、観光客の誘致や育苗について日々考える中で、『植物が光合成によって化学エネルギーを生み出すなら、その逆も可能では?』と思い、それが『ボタニカルライト』に繋がっていきました」

入場者を待つ側から、「今までにない物を作り出したい」との思いから商業施設などで植栽を演出する会社「グリーンディスプレイ」の事業推進室に移った大塚さん。国内外の資料をあたる中で、アメリカやオランダで進んでいた田んぼや湿地帯に大規模に電極を入れて、発電する手法に行き着きました。しかし、装置としては素晴らしいものの、都会の商業施設がクライアントに多い今の会社の業態に落とし込むことは難しい――。一時は諦めたものの、たまたま展示会で電子基板設計などを行う「ニソール」との出会いがあり、夢は再び動きだします。

「『私たちは植物のある空間をたくさん持っているので、そこを使って一緒に実証実験を進めていきませんか?』とお願いしました。スタートから3年ほど経ちますが、さまざまな失敗を繰り返しながら、なんとか明るさを保ちつつ24時間普通に点灯する状態に持ってくることができました」

植物が電子を放出する発電菌を誘い込む

ここで、「ボタニカルライト」の仕組みを見ていきましょう。植物は光合成を行い、体内で糖やでんぷんなどの有機物を生成します。それらを自らの成長の過程で使いつつ、残りの4割ほどを土中に放出しています。その理由は、自分で動くことが出来ない植物が、それらを撒き餌にして必要な微生物をおびきよせているからだと言われています。集まる微生物の種類はさまざまで、なかには電気を発する通称「発電菌」と呼ばれるものもいます。

「身近なところだと、合併浄化槽や下水などで見られるシュワネラ菌やジオバクターといった嫌気性の微生物群です。そういった微生物群は、もともと海底火山の火口付近に生息していました。なぜそんな環境下で生きられるかというと、私たちが酸素を吸って二酸化炭素を吐く呼吸のように、養分を取り入れてマイナスの電荷を放出する鉄呼吸をしているからなんですね。『ボタニカルライト』では、そんな土中の電子を回収しているんです」

電荷(電気量をもった物体や粒子)は、電位が高い所(マグネシウム)から低い所(備長炭)に流れる際に発生します。そこで、特殊なマグネシウム板でできた電極を植物が植わった土にさし込み、発電菌が放出した電子を集めて、それを導線で備長炭へ流すことで電荷を発生させるのです。ここで使う電極の材料やコーティング材、どんな土に植えるか、どのような植物がより発電菌を集めるかなどは、多くの人の手を借りながら何十回、何百回と実証実験を繰り返し、最適解を導き出していきます。

「現在、3年土中に埋めた電極にほとんど腐食が見られず、このまま実験を続けても5年は大丈夫だろうと考えています。『ボタニカルライト』は電池としても商標登録しているので、直列つなぎにして、エネルギーをアップすることもできます。ひとつひとつの明かりはまだそれほど強くありませんが、先日、『ボタニカルライト』を2つ直列つなぎで使用する装置が出来上がり、それを使うことで35日かけてスマホ1台を充電できるエネルギーを土壌中から蓄えることが出来ました。35日ごとに有事が起きることはほぼないと考えると、街中の花壇などに『ボタニカルライト』を入れれば、明かり取りのエネルギーを得られるだけでなく、緊急時に充電出来る場所を街の至る所にセットすることができるのでは?と考えています。『ボタニカルライト』の発電を持続させるために一番大切なことは、植物を大切に育てることです。『ボタニカルライト』がきっかけで植物を身近に置きたくなったという方も多く、きっかけはどうあれ、植物に関心を持つ方が増えていることはとても嬉しいです」

明かり取りや防災、環境負荷の軽減にも?

環境を破壊することなくエネルギーを回収できる『ボタニカルライト』が、商店街の花壇やマンションの緑地帯など人目に付きやすい場所に採用されれば、実際に明かりやエネルギーを得られるだけでなく、地域住民ひとりひとりが今まで以上に防犯や防災を意識するようになるかもしれません。

「以前、世田谷区の小学校に特別授業で伺ったことがあるんです。座学の時は寝ていた子が、実際に『ボタニカルライト』に明かりが灯ったのを見た瞬間、目の色が変わったんですね。彼らには、『植物と電極を埋めれば、エネルギーを回収することができることを前提に、将来色々と考えて欲しい』と伝えました。今は電極に使う備長炭もなかなかの高級品になってしまいました。そこで、竹害で困っている里山で竹炭を作るなど、土地にあるものを活かしながら電極を作ることができれば、日本の環境保全活動にも繋がってゆくのではと考えています」

里山で電気柵などに利用すれば、猪や鹿から農作物を守り、獣害被害を抑えられるのでは、とも話す大塚さん。一方の電極に使うマグネシウム合金は、パソコンの骨組みなどに多く使われているため、都市部から出た廃棄物を再利用できれば、里山と都市部の困りごとの解決にも繋がっていくかもしれないと考えているそうです。

『ボタニカルライト』は、「グリーンインフラ産業展2024」の安藤ハザマのブースでも多くの関心が寄せられ、同日開催の「グリーンインフラ・ネットワーク・ジャパン全国大会 2024 ポスター展示」にて、『ボタニカルライト』を用いた緑化植物の検討を発表した東京農大の山下真奈さんが、学生部門で優秀賞を受賞したそうです。それでも、「ここがゴールとは思っていません。まだまだ現在進行形です」と大塚さん。新たなクリーンエネルギーが示す可能性は、今後も広がっていきそうです。


取材・執筆/山脇麻生

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