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手作りの漬物が買えなくなる?食品衛生法改正で販売が許可制に

手作りの漬物が買えなくなる?食品衛生法改正で販売が許可制に

#SHOW CASE
  • つくる責任つかう責任

手づくりの漬物を販売する農家などが6月から、営業許可無しでは今までのように製造販売ができなくなるのをご存じでしょうか。改正食品衛生法に伴う経過措置期間が5月31日に終了することで、大きな節目が目前に迫っています。

今回は、私たちが健康で豊かな生活を送るために欠かせない「食品」の安全や安心について考えてみましょう。

健康を守るための法律「食品衛生法」とは?

飲食による健康被害の発生を防止し、食品の安全性を確保するための法律を「食品衛生法」といいます。日本では今から77年前の1947年に制定されました。
制定以降、初の抜本的な改正が行われたのは2003年です。2001年に発生したBSE問題や食品偽装事件などが契機となって「食品安全基本法」が制定され、それに伴って食品衛生法も大幅に改正されました。

再び大きな見直しが実施されたのは、それから15年が経過した2018年です。厚生労働省は“食を取り巻く環境変化や国際化等に対応し、食品の安全を確保するため”として、次の7つの概要を示しています。

1.大規模又は広域におよぶ「食中毒」への対策を強化
2.「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理」を制度化
3.特定の食品による「健康被害情報の届出」を義務化
4.「食品用器具・容器包装」にポジティブリスト制度を導入
5.「営業許可制度」の見直しと「営業届出制度」の創設
6.食品等の「自主回収(リコール)情報」は行政への報告を義務化
7.「輸出入」食品の安全証明の充実

2つ目の概要に盛り込まれている「HACCP(ハサップ)」とは、Hazard(危害)Analysis(分析)Critical(重要)Control(管理・制御)Point(点)の頭文字を取った言葉で、食の安全性を確保するための衛生管理の方法のひとつです。諸外国では1990年頃から食品安全の基準に取り入れられるようになりました。
食のグローバル化が進むなか、日本でもすべての食品事業者に「HACCP」に沿った衛生管理の実施が義務付けられています。

具体的な実施項目としては、
「衛生管理計画書」を作成して従業員に周知徹底を図ること
必要に応じて洗浄・清掃・消毒や食品の取扱い等について具体的な方法を定めた手順書を作成すること
などです。いわば衛生管理のソフト面といえるでしょう。

漬物や干物の製造販売が“許可制”に

冒頭でふれましたが、日本では今回の食品衛生法の改正で許可業種の見直しがされました。新たに「営業許可」が必須となった業種には、漬物製造業や水産製品製造業、液卵製造業などがあります。
従業員が何人もいて、工場を持っているような製造業者はそもそも「営業許可」を取得済みのはずです。今岐路に立たされているのは、道の駅や直売所などに漬物を出品してきた個人経営の農家などです。

具体的には、梅干しやたくあん漬け、奈良漬けなどが挙げられ、水産製品製造業でいえば、あじの干物やしらす干しなどが対象となっています。

画像出典:愛知県 生活衛生課のリーフレット

新しい施設基準の導入で“設備の改修費用”が壁に?!

道の駅などの直売所で、生産者欄に個人名が書かれている商品を見たことはありませんか?自分の畑でとれた野菜で漬物を作って、道の駅で販売している生産者は、営業許可を得るために、いくつかの施設基準をクリアすることが必須となります。

例えば、手洗い設備です。取っ手に指が触れる構造は不可で、センサー式や足踏み式、レバー式など、洗浄後の手指の再汚染が防止できる構造でなくてはいけません。ほかにも、家の台所と兼用できなかったり、洗浄設備や保管設備などの施設基準も決められています。実は今、この設備改修費用がネックとなって、手づくり漬物の販売を断念する農家が増えるのではないかと懸念されています。

とはいえ、ひとたび食トラブルが起きてしまうと、多くの人々を巻き込むことになり、経済的損失も計り知れません。ここ数年は食品偽装や食中毒、異物混入など食関連のニュースを耳にすることが多くなった印象です。安全だと思って食べている食品にトラブルがあると、あっという間にSNS等で拡散され、大きな社会問題に発展する時代です。

厚生労働省によると、今回の法改正は、食中毒等のリスクや規格基準の有無、過去の食中毒の発生状況などを踏まえたものとされています。

食品安全の確保は世界各国でも

食に関する法律は各国によって異なります。
例えば、アメリカには食品の安全に関する法律「食品安全強化法(FSMA)」があります。食品事故が起こってからではなく、未然に防止するための「予防管理」への転換を目的として2011年に制定されました。
このFSMAは、アメリカで流通する農産物や食品を取り扱う事業者だけではなく、同国向けに輸出をする企業も対象となるので、日本の食品関連事業者も対応しなくてはいけない法律です。

食品安全において先駆的な立ち位置にあるといわれる欧州連合(EU)には、加盟国共通のルール「EU一般食品法規則」があります。近年は「食品安全文化」に関する項目が追加されました。この食品安全文化は、オーストラリアやニュージーランドでも提唱され、各国の食品事業において広まりつつある概念といわれています。

健康で豊かな生活を送るために

毎年6月7日は国連が定める「世界食品安全デー(World Food Safety Day)」です。世界保健機関(WHO)は毎年さまざまなテーマを掲げていますが、今年のテーマは、“食品の安全性:想定外に備える” です。食品に携わっている業種の人々だけではなく、私たち消費者一人ひとりも、毎日食べる食品が安全でおいしいものであるために、食品安全に関わる意識を高めたいものですね。


執筆/フリーライター こだま ゆき

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