地域の安全を守る。秋田県が挑む「人とクマの新しい棲み分け」
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野生動物との共生をデジタルで支える秋田県の挑戦
近年、全国各地で相次ぐ野生動物の市街地への出没。中でもクマによる被害は深刻な社会問題となっている。
こうした中、秋田県は「安心して暮らせる、観光できる秋田県」の実現に向け、令和8年度のクマ対策関連事業費を前年比2倍超となる約6.2億円に大幅拡充した。
ドローンやAIといった最先端技術の導入や、位置情報を活用したスマートフォンアプリ「クマダスアプリ」のリリースなど、かつてない規模と先進的な手法で対策に乗り出している。本件は単なる安全対策にとどまらない。人とクマが適切に距離を保ちながら共生するための持続可能なモデルケースとして、いま全国から熱い視線が注がれている。
なぜ今、かつてない規模の対策が必要なのか


豊かな自然に恵まれた秋田県だが、同時に全国で最も深刻なクマ被害に直面している。令和7年度におけるクマの目撃件数は13,592件(※1)に上り、人身被害は67人と全国最多を記録した。
※1:出典:秋田県調べ
この未曾有の事態を重く見た秋田県は、「人の生活圏における人身被害ゼロ」を新たな目標として掲げた。
東北森林管理局や秋田県林業研究研修センターの調査によれば、令和8年度はブナの実が「豊作」の見通しであり、クマが餌を求めて人里へ下りてくるリスクは昨秋に比べて抑制されると予測されている。
しかし、県はこの好機に手を緩めるどころか、むしろ対策を一段と強化する姿勢を見せている。なぜこれほど手厚い対策が必要なのか。そこには2つの大きな理由がある。
1つは、「すでに味を覚えてしまった個体」の存在だ。豊作だからといって山に戻る保証はなく、一度でも人の生活圏にある農作物を味わったクマは、餌の有無にかかわらず人里へ執着を示す。こうした個体への個別の対応は引き続き不可欠だ。
そしてもう1つは、「豊作の翌年」に訪れる自然のサイクルだ。山に餌が満ちあふれる豊作の年は、クマの出産数や幼獣の生存率が大きく上がり、翌年以降に地域の個体数が増え、再び大規模な出没を引き起こす危険性を秘めているからだ。
このような深刻な課題を解決するために生まれたのが、テクノロジーを駆使した次世代型の鳥獣被害対策である。
従来、多くの自治体が行ってきた「誘引物の除去」や「WEB上での目撃マップ公開」といった基本対策に加え、秋田県ではデジタル技術を活用したアプローチにも着手している。
7月からはAIカメラ(センサー)を活用したクマの監視を開始しており、さらに9月以降にはドローンを活用した上空からの監視や、市街地へ接近するクマの早期発見・追い払いに向けた実証事業を予定している。


さらに注目すべきは、8月にリリースされたスマートフォン版「クマダスアプリ」である。
これまで県はWEBシステムやLINEを通じて情報を発信してきたが、広範囲に情報を届ける仕組みであることから、現在地に応じた情報をリアルタイムで受け取ることが難しいという課題があった。
そこでアプリ版ではスマートフォンの位置情報を活用し、ユーザーの現在地周辺(半径500m、1km、3km等)の目撃情報や痕跡情報をリアルタイムでプッシュ通知する機能を実現した。
また、子供や高齢の家族の外出先周辺の情報を保護者が受け取れる「ペアリング機能」も搭載しており、地域ぐるみの見守りツールとしての社会性が極めて高い。
観光客に対しても、アプリを通じた安全確認や、「音を出して鉢合わせを防ぐ」という基本対策の啓発を強化しており、旅行者が安心して滞在できる環境づくりを進めている。
「駆除」から「棲み分け」の実現へ
ここで注目すべき点は、秋田県がクマを「排除すべき敵」とするのではなく、「人とクマの棲み分け」を軸に据えていることだ。野生動物保護と地域住民の安全確保は、しばしばトレードオフの関係として語られがちである。
しかし、クマを人里に寄せ付けない「緩衝帯(藪の刈り払いなど)」の整備促進などは、捕獲に依存するのではなく、人間と動物のテリトリーに明確な境界線を引くアプローチである。これは、共生社会のあり方を問う上で非常に重要な視点だ。
また、「クマダスアプリ」を通じた県民参加型の情報提供(見える化)は、地域住民の意識改革を強力に後押ししている。見えない恐怖にただ怯えるのではなく、正確なデータと最新技術によってリスクを可視化・共有することで、住民一人ひとりが主体的に危険を回避する行動をとれるようになる。
危険性の高い目撃情報があった際には市町村から速やかに注意喚起が通知されるなど、行政と市民がシームレスに連携する被害の未然防止に向けたネットワークが完成しつつある。
行政の対策にただ頼るのではなく、「みんなで地域の安全を守っていく」という住民同士の結束や、地域全体の対応力を高める効果も期待できる。テクノロジーと市民の協力が生み出すこうした仕組みは、人口減少や環境の変化に直面する多くの地域にとって、野生動物と向き合うための先進的な手本となるはずだ。
持続可能な地域社会の未来へ向けて

秋田県が進めるAI・ドローンやアプリを活用したクマ対策は、従来の対策にデジタル技術を組み合わせることで、より効果的な対策のあり方を模索する取り組みである。
「クマダスアプリ」をはじめとしたデジタルツールの活用や、今後予定されているAI・ドローンの実証を通じて、クマの出没情報の把握や早期発見など、テクノロジーを活用した新たな対策の可能性を探っている。
こうした取り組みを積み重ねながら、人とクマの共存に向けた、秋田県ならではの対策の形を模索していく。






