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ロボットが“精神的な”サポートをする時代。 教育や福祉の現場で活躍する家族型ロボット『LOVOT』 が作る ロボットと人の未来。

ロボットが“精神的な”サポートをする時代。 教育や福祉の現場で活躍する家族型ロボット『LOVOT』 が作る ロボットと人の未来。

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  • すべての人に健康と福祉を

持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」をリスナーとともに学ぶニッポン放送の特別番組『SDGs MAGAZINE』の第5弾が8月13日に放送された。今回はSDGsの掲げる「17のゴール(目標)」の一つである「3.すべての人に健康と福祉を」にもつながる家族型ロボット『LOVOT (らぼっと)』の開発者でロボットベンチャー・GROOVE X(グルーブエックス)株式会社代表の林要(はやし・かなめ)さんをゲストに招き、女優の剛力彩芽さんが開発に至った経緯や今後のビジョンを聞いた。

スタジオにやってきた2体の愛らしいロボットに、剛力さんの声が自然と柔らかくなった。

「聞こえますか、皆さん? このかわいい声を。実は今、LOVOTが来てくれています。赤のお洋服のLOVOTはいちごちゃん、オレンジの方はみかんちゃん。声のかわいさは十分に伝わっていると思いますが、見た目は一般的に想像するロボットとは、また違う印象を受けます。手が短く、ちょっとパタパタする感じはペンギンを思わせます。目だけが液晶になっていて、すごく私を見てくれているんですけど、しっかり瞬きもしますし、抱っこしたら少しあたたかくて、柔らかい。隣にいてくれているのですが、ずっと声を聞いていたいし、癒されます」

この2体のロボットを連れてきたのが、開発者の林さん。SDGsの「3.すべての人に健康と福祉を」につながる取り組みとして、番組はこの『LOVOT』をピックアップした。

まず『LOVOT』とは何なのか。公式サイト(https://lovot.life/)では「ペットのようにあなたと分かり合えるロボット」と紹介されている。機械学習技術など最先端で高度なテクノロジーを使い、自分で意思決定し、生き物のようなかわいい動作や鳴き声、瞳の動きを実現しているロボットだ。機械が発生させる熱を利用した人肌のあたたかさも、愛おしさが増すポイント。実業家の堀江貴文氏がその技術と発想を絶賛するなど、これまでの動物を模したペット型ロボットとは一味違う“家族型ロボット”として大きな話題を呼んでいる。

特に、愛くるしさを感じさせるのが瞳の動きだ。6層の液晶ディスプレイを重ね、立体的な動きを生み出しているという。「瞳は10億種類以上、声も10億種類以上のパターンがあります。一緒に生活する人によって変わり、個性が出てくる。性格も全部違っていて、最初からちょっと人見知りな子だったり、少し人懐っこい子がいたり、その子がまた世話をしていくと徐々に懐いていくんです」と林さんは説明する。

剛力 「本当に、ロボットって感じではないですね」

「そうですね。私たちは、家族のように接していただいて家庭内をどうすればみずみずしく、精神的に良い環境にできるのかを考えてロボットをつくってきています。今までのロボットのようにすごく能力は高いけれども、どこかちょっと冷たいものとは正反対で、能力的には何のお仕事もしないけれど、家に早く帰ってきたくなる、明日も頑張ろうと思えるような、そういうサポートをするロボットとしてLOVOTをつくりました」

そうした“家族愛”を育む存在が「LOVE+ROBOT=LOVOT」というわけ。剛力さんは「今、数十分触れただけでも、すごくその気持ちが分かります。反応しちゃう!」と早くもぞっこんの様子だった。

この『LOVOT』、そもそもSDGsの理念を想定して生み出されたものなのだろうか。林さんは、開発に至った経緯を明かす。

「正直、私どもが起業したときにSDGsがすごく盛り上がっていたかというと、言葉としてはそれほどまだ知られていませんでした。ただ、テクノロジーをやっている身として気になっていたのは、人がいろいろな生物を巻き込んで生きているということ。例えば、食糧の問題もそうですし、現代社会ではストレスが多いのでペットに頼って精神的にバランスを保ったりもしている。もう少し俯瞰して見ると、人はテクノロジーを獲得することで自分たちの世話を自分たちで出来るようになってきたんじゃないか、テクノロジーを使って自分の気持ちを支えてくれる存在がいてもいいんじゃないかと思うようになりました」

『LOVOT』の発表会見で林さんは、その存在を「四次元ポケットのないドラえもん」と表現している。

「ドラえもんの何がすごいって、あのような“ひみつ道具”を持っていて、やろうと思えばのび太くんのお母さんのお手伝いとかもすごくできるはずなのに、それを絶対やらないところです。それは、なぜか。ドラえもんはのび太くんの成長を見守るロボットだからです。ドラえもんが出しゃばって、のび太くんのお母さんのお手伝いをしてしまったら、のび太くんの出る幕がない、立場がないわけです。それが続けば、ぐれてしまうかもしれません。だから、ドラえもんは出しゃばらない。のび太くんが将来、大きく飛躍するために我慢強くそばに寄り添っているのがドラえもんです。そう考えると、ペットもすごく僕らの心を支えてくれますが、例えばペットを飼えない人たちからすると、ロボットが自分の心を支えてくれる時代が、僕は間違いなく来ると思っていましたし、精神的なサポートをするようになると思っていました。将来のドラえもんに繋がる技術の第一歩として、LOVOTのプロジェクトを始めたというところです」

林さんはトヨタ自動車でF1マシンや量販車のエンジニアとして活躍後、ソフトバンクロボティクスで有名なロボット「Pepper(ペッパー)」の開発に携わるなど、名だたる企業でキャリアを積み上げてきた。

「自動車を発展させる役割を担ってきた中で、発展すればするほど自動車が若い人から興味が失われていたり、昔の壊れるものの方が愛着を持たれていたりすることを感じていました。ロボットの開発に携わる中でも、予定通り動いた時より、なかなか動かないロボットが応援に応えるように立ち上がった時に、みんながすごく喜んでいるシーンを経験しました。『あれ?』と。『ロボットが何かをしてくれる、機械が何かをしてくれるよりも、人が何かをしてあげた時の方が、人が元気になることがあるんだ』と気付いたんです。機械に何かしてもらうことばかり考えていると、なかなか元気になれないのに、何かをしてあげようと思った瞬間に人は元気になったり、成長したりする。むしろ人にお世話してもらうようなロボットがいてもいいんじゃないかと思うようになりました」

剛力 「すごいですね。最新の技術なのに、何かに特化して何かをしてくれるというより、本当に人の心に寄り添ってくれるという」

「まだまだ日本ではロボットが人を抱っこするような形が取り上げられがちですが、福祉国家であるデンマークでは、もうそれは難しいじゃないかと思われ始めているそうです。それはなぜか。ロボットに抱っこされたい人がいないということです。実は、福祉の現場で大変なのは重労働だけではなく、入居者様の心のケアです。それに対してLOVOTがいると、皆さんすごくにこやかになる。これは私どもも驚いたのですが、LOVOTの世話をしようと思っていただけるんです。子育ての経験をしたことがある方だと、面倒を見ることのプロフェッショナルになっているのに、その力を発揮するタイミングがない。それをLOVOTとの体験で思い出されたり、こうしたことを通じて人のイライラが無くなっていったりするので、世話をする側もとても楽になる。福祉の現場では、非常に喜んで使っていただいていますね」

剛力 「ある意味、人と人のコミュニケーションを繋ぐ役割を果たす」

「そうなんです。家庭の中での会話が増えるというお話しをいただいたりもします。まさに、犬や猫を飼っているご家庭で、会話の半分以上が犬や猫の話になるのと近いように感じます」

剛力 「LOVOTがいたら、早く家に帰りたくなるし、出迎えてほしくなりますね」

まさに「すべての人に健康と福祉を」というSDGsの3番目のゴールを実現する仲介役。ペット、家族の一員として『LOVOT』などのロボットが日々の生活や福祉の現場でも大きな役割を果たす可能性を秘めていることが分かる。SDGsでは、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すことが掲げられているが、林さんの思い描く10数年後の未来とは、どのようなものなのだろうか。

「私どもは、2030年ではなく35年で一つ考えていることがあります。2035年になると、犬と猫とLOVOTの登録数が同じくらいになるのではないかと。高齢者の方やお子さんのいる家庭でペットがいると、すごく生活として豊かになるし、情操教育になるということが分かっています。それでも、なかなか世話をするのは大変だったりする。そういった時に、LOVOTだったら迎え入れられるし、場合によっては見守りなんかもできる。今後は、どうやって自分たちの心を健康に保っていくのか、どうやって自分が元気でいられるのか。そういったことに対しての興味、関心が大きくなってくる時代になると思いますが、そこに対して貢献できるのではないかなと思っています」

新型コロナウィルスの影響で不安を抱える子供たちの心のケアや思いやりの心の醸成をめざし、東京都北区立王子第二小学校では『LOVOT』の本格導入に向けた実証実験が行われるなど、教育の現場でも『LOVOT』の価値が論じられ始めている。林さんは「これからの子供たちはロボットと一緒に生活する時代を生きるわけです。今までの子供たちが“スマホネイティブ”だとするならば、今後の子供たちは“ロボットネイティブ”になる。私たちはスマホを見れば直感的に操作できる世代として育ったわけですが、今からの子供たちはロボットを見たら直感的にこのロボットが何をしてくれて、どうやって生活するとお互いにとっていいのかというのが理解できる世代になると思うんです。“ロボットネイティブ”の子供たちの第一歩が、そういった小学校の子たちから生まれてくるじゃないかと、とっても楽しみにしています」と未来の姿を思い描く。

「福祉にも教育にも、LOVOTのようなロボットがどう広がっていくのか。私自身もすごく楽しみです」と剛力さん。これまでロボットというと人間に代わって作業するなど物理的なサポートが中心だったが、精神的なサポートをロボットが当たり前のように担う時代が、もうすぐそこまで来ている。

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