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剛力彩芽と学ぶ「スポーツとSDGs」参議院議員・朝日健太郎氏が語る“オリパラ”開催の社会的意義とは


この記事に該当する目標
3 すべての人に健康と福祉を 4 質の高い教育をみんなに 5 ジェンダー平等を実現しよう
剛力彩芽と学ぶ「スポーツとSDGs」参議院議員・朝日健太郎氏が語る“オリパラ”開催の社会的意義とは

持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」をリスナーとともに学ぶニッポン放送の特別番組『SDGs MAGAZINE』の第7弾が放送され、自由民主党所属の参議院議員で男子バレーボール、ビーチバレーの日本代表として活躍した朝日健太郎氏が、有識者ゲストとして出演。「スポーツとSDGs」をテーマに、女優、剛力彩芽さんがSDGs研究の第一人者として「ミスターSDGs」の愛称も持つ慶応義塾大学大学院政策メディア研究科の蟹江憲史教授とともに、スポーツの持つ社会的な役割や東京五輪・パラリンピック開催の意義などを聞いた。

◇◇◇

男子バレーボール日本代表選手として活躍し、2002 年に転向したビーチバレーでは08年北京五輪、12年ロンドン五輪に出場するなどアスリートとして華麗な経歴を持つ朝日氏。現役を引退した後の 16 年に東京都選挙区から出馬して参議院議員となり、現在は菅義偉内閣で国土交通大臣政務官として職務に励んでいる。そんな朝日氏に、まず剛力さんはスポーツの世界から政治の世界に挑戦することになった経緯や、その思いを聞いた。

剛力 「議員になられたきっかけは?」

朝日 「2012年に競技を引退して、5年近く青少年の育成などの社会活動に、全国の自治体さんと協力しながら取り組んでいました。ある時、政治の世界にと声を掛けていただき『自分のキャリアとして、この延長線上に政治があっても良いな』という思いが生まれ、チャレンジして当選させていただいて今に至るという形です。まだまだ4年の新人議員ですけど、スポーツ政策とか国土交通行政とかをやらせていただいています」

剛力 「楽しいですか」

朝日 「楽しいというか、やりがいがありますよね。地域の皆さんや子供たちに、どういった社会を引き継いでいくのかという観点でやらせてもらっています」

剛力 「日本代表として世界で活躍していたところと、通じるものはあるのでしょうか」

朝日 「人の前に立って表現するというのは、共通するものがありますね。あとはスポーツで培った胆力的なものはあります。フェアプレーで政治の世界でもやっていきたいなと思っています」

続けて、剛力さん、蟹江教授が「スポーツとSDGs」の関係性を紐解くため、元アスリートで現役議員の朝日氏に聞いたのが「スポーツがもたらすSDGsの可能性」についてだった。

朝日 「これまでは、日本のスポーツって体育的な、どちらかというと訓練という位置づけだったのが、より柔軟に捉えられるようになってきつつあります。一つの起点になるのが『2020の東京オリパラ』だったと思うのですが、スポーツがより健康で人生を豊かにしていくという観点は、今や世界共通のキーワードだと思います。(スポーツに関した基本理念を定め、スポーツに関する施策の基本となる事項を定める)スポーツ基本法が制度として定められてから、まだ10年たらず。まだまだ、日本のスポーツには可能性があると思いますし、SDGsの観点でもそれは言えると考えています」

蟹江 「今結構『スポーツとSDGs』というテーマは、いろいろなところが取り組もうとしています。例えばバスケットボール(Bリーグ)とSDGs。僕がアドバイザーをしている川崎ブレイブサンダースはSDGsに本格的に取り組もうとしていますし、サッカーは地域に密着しているので、地方創生とSDGsを一緒にやろうとか、いろいろと関係が出てきています。ビーチバレーだと海ですよね」

朝日 「そうですね。地球温暖化は今も大きな課題ですけど、選手時代に海岸線で活動したので、天候や海の変化を直に感じていました。清掃活動に始まり、リサイクルの啓発活動に協力させてもらうとか、振り返るとそういうのもSDGsに関係する活動だったなと思います」

蟹江 「海の生態系についてはSDGsのターゲットの14番(「海の豊かさを守ろう」)にあったりするので、まさにそこに該当します」

朝日 「SDGsは17の開発目標という形で整理されているじゃないですか。これ、すごく分かりやすいなと思っていて、先ほどバスケの例が紹介されましたが、われわれスポーツ界もいろいろなスポーツをやり、表現をする中で、感動や夢というものがまず考えられてきたんです。そこから、さらに一歩踏み込んで、どういった社会価値を生み出すのか。例えば17の目標を1つ取り上げて、われわれはこれにコミットして試合をします、子供たちに何かを伝えていきますというように、これからさらに進んでいくんじゃないかと思いますね」

剛力 「スポーツの発信力や影響力は強いですからね」

蟹江 「ファンの人たちにとっては、憧れの選手のやることは神様みたいなものですから」

朝日 「また、スポーツにはお金も必要です。たくさんの方にチケットを買って、見てもらうことももちろん大事なことですが、スポンサーとして応援してもらうことを考えたときに、スポーツにはこういう社会的な意味があるんだということをきちんとお伝えする意味でも、SDGsは重要になります。それが活動資金につながり、選手たちにもいい形で還元される。この好循環を特にわれわれは考えています」

剛力 「ビーチバレーをやられていると、海のゴミの問題にも目が向くのでは」

朝日 「“ビーチスポーツあるある”なんですが、砂浜を使わせていただいていて、より選手たちが積極的にそこを使っていくと、海辺がきれいになっていくんです。裸足でやるので、まずゴミが落ちていたら足の裏が痛いので拾います。海や浜辺がきれいになると、ゴミを捨てづらくなる。いい意味で抑止力になるんですね。そして、またきれいな浜辺には人もたくさん来てくれる。そうした好循環が生まれるんです」

ここまでは主に現役選手時代の経験を中心に、「スポーツとSDGs」の一般的な関係性を解き明かしていったが、次に剛力さんが問いかけたのは議員としても重要な課題となる来夏に延期された東京五輪・パラリンピックの開催について。新型コロナウイルスの影響や大会の簡素化など、問題は山積している。

剛力 「まず3月24日に1年程度の延期が決まり、そのあとに正式な日程が発表されて来年の7月23日に開幕することになりました」

朝日 「個人的なことを言えば、3月に延期が発表された時は、内心『えーっ』と思いました。突然でしたからね。ただ、あの時を思い返していただきたいのですが、コロナ禍がどんどん悪化していく中で、これから世の中どうなるのだろうと、その不安が覆い尽くしていた中での判断だったので、一スポーツファンとしては驚きましたけど、これはやむを得ないなという思いもありました。1年延期で何とかやってくれという思いと、1年で果たして・・・という複雑な思いもあります。しかし、アスリートに聞くと、瞬間は落ち込んだけど、しようがないと切り替えていく選手が多かったなと思いましたね。半年もたたないうちに、これはこれで一つの試練としてまた前にという声が多かったのが印象的でした。その中でキーワードは簡素化なのかなと思いますが、特に今関心があるのが、お客さんをどの程度入れるのかとか、あれだけ華やかなお祭り的な要素も強い『オリパラ』で、どういった感染予防をしながらやっていくのかということで議論を詰めている状態です。一方で世界中の方に伝えなければいけない大会ですので、あまりに殺風景すぎても寂しいですよね」

剛力 「国同士が戦っているけれども、お客さんが一つになって応援しているというのも見どころですからね」

朝日 「剛力さんに『頑張れ!』と言われれば、私も選手時代に金メダルを取れたかもしれない(笑)。それくらい、ファンの方の応援の声って本当に大きいですから。ホームの理もあるし、日本の選手、日本代表には頑張ってほしいなと思います。コロナをしっかり捉えながら、国民の皆さんにご理解をいただいて、コロナを乗り越えた証しとして東京オリンピック・パラリンピックを迎えようという気運を丁寧につくっていく必要があると思います」

剛力 「SDGsでは旧態依然とした生活様式の変化が求められていますが、その中でスポーツや五輪に求められているものは何だと思いますか」

朝日 「『オリパラ』は、世界を巻き込んだ大イベントです。その時代時代に合った目標があって、本来ならコロナがなければ、日本、東京が開催する意義はテクノロジーだったり、先進的な技術だったり、こういったところに主眼が置かれていました。しかし、コロナで目的が少し変わってきて、私が定義づけしているのは世界の協調です。どんどん格差や分断が世界に生まれていく中で、世界を一つにするスポーツの大会をアスリート同士が手を取り合うことで表現するオリンピックになっていくのではないかと思います。苦しんでいる方が多い中、日本が出すメッセージとしては、そういったことが非常に大事になってくると思いますね」

蟹江 「そうですね。やはり元気や勇気、スポーツは力をくれます。そういう効果も期待したいですよね」

朝日 「今年の夏の甲子園も中止になりましたが、春の選抜大会に出場する予定だった選手たちが夏に1試合だけ甲子園で試合を行い、一生懸命に何かに向かっていく姿でいろいろなことを教えてくれました。オリンピックでも、世界中のアスリートが何か目標に向かって戦う姿、一生懸命頑張る姿で、いろいろなものを教えてくれると思うんです」

剛力 「世界的に一つになるきっかけになるといいですね。ただ、パラリンピックの選手には重症化リスクの懸念もあります」

朝日 「そこは、われわれも懸念しているところで、ようやく治療薬も少しずつ認可されてきていて、ワクチンの開発も毎日報道されていますが、こうした中でこれはパラリンピックに限らないことですけど、重症化リスクのある人に優先的にワクチンや医薬品を備えて、リスクを下げていくのは徹底してやっていくべきことだと思いますね。それが、代表選手の安心感にもつながります」

蟹江 「格差をなくしていく、平等にしていくというのもSDGsの一つ(「3.すべての人に健康と福祉を」「5.ジェンダー平等を実現しよう「10.人や国の不平等をなくそう」など)ですし、もともと東京五輪はSDGsが重要な柱になっていたので、そこの原点を考えながらやってもらえるといいなと思います」

朝日 「蟹江先生の『オリパラ』とSDGsを絡めた話は良いですね。『オリパラ』の意義が非常に分かりやすく伝わります」

蟹江 「スポーツ選手もそうだし、迎える都市も持続可能でなければ、オリンピックは続いていかないじゃないですか」

朝日 「今はいろいろな街・都市が痛んでいます。東京の次はパリ、ロサンゼルスと決まっていますが、そこから先はまだ決まっていません。そういった意味では、われわれが果たす責任は大きいかなと思います」

東京五輪・パラリンピックを開催するに当たって、バリアフリー施策や障がい者スポーツの推進についても朝日氏は取り組んでいる。

朝日 「『オリパラ』という言葉が定着しましたが、オリンピックの歴史を見ても、オリンピックとパラリンピックを同時に開催するのは東京が初めてなんです。これまでは都市や場所が違ったり、分けて考えられていたりしました。東京は一緒にやっていこうというのが一つのメッセージで、それに伴って日本の社会の仕組みがバリアフリーに向けてすごく進展していっています。法律もできましたし、社会の皆さんもご理解も進みました。われわれは『心のバリアフリー』と呼んでいますが、車いすの人のために段差を解消しながら、一方で心の中の障害も取り除く。例えば学校教育に取り入れるなど、そんな『心のバリアフリー』にも取り組んでいます」

蟹江 「障がい者とそうでない人が一緒にスポーツをやる機会も増えていますね」

朝日 「ユニファイドスポーツ(知的障害のある人とない人でチームをつくり、スポーツを通じてお互いに相手の個性を理解し合い支え合う関係を築いていく取り組み)というのも出てきていますね。車いすバスケットボールも、必ずしも車いすを利用している人じゃなくても一緒にできます。あとはボッチャ。あれも健常者、障がい者関係なくできます。一度体験すると、当たり前のようにお互いの心が通じ合えます。また、ホストタウンという形で全国の自治体が選手を受け入れたりしているのですが、特に共生社会ホストタウンといって、パラリンピックの選手を全国の自治体で受け入れているんです。自治体さんにはなかなかお金がなかったりするので、しっかりと予算を付けて全国の街もよりバリアフリーが進むように政府でも進めています。オリンピック・パラリンピックは東京に限った話ではないと、ぜひ皆さんにお伝えしたいですね。パラリンピックという言葉は日本の方にだいぶ浸透していると思うのですが、やはりまだ公共の体育館を使いづらい、使わせてもらえないなどの問題もあります。更衣室やトイレなど、ここにしっかりとバリアフリーの考えを取り入れないと利用率は上がっていきません。これまでの日本の社会は車いすの方や障がいを持たれている方が自分から進んでスポーツをやってみようとは思えなかった。それが、ようやくできるのではないかというところまで今来ていると思います。そこから一緒にやろうと手を引いて、一回体験してもらえるフェーズに入ってきているのではないでしょうか」

また、五輪・パラリンピックはSDGsの11番目の目標「住み続けられるまちづくりを」にも大きく関係する。

朝日 「新国立競技場も、すったもんだがありまして、計画が一度白紙になったりしました。あの頃、私は政治家じゃなかったのですが、今はもう一回再開されてコストも抑えられて出来上がった。ただ、あれも百点満点じゃないと思っていて、後利用のことまでなかなかまだ考えられていないですよね。これから先、維持していくだけで年間数十億円のお金がかかりますから、これをどう解消していくのかは課題です」

蟹江 「そういうことを解消していかなくちゃいけないということで、(12年の開催都市である)ロンドンなんかはしっかり考えられていて、都市に及ぼすインパクトを測るという考え方はロンドンで始まったんです。SDGsもそうですが、やったことをしっかり測っていく、何が良くて何が悪かったのかということをしっかり見ていくことがすごく大事だと思いますし、後にちゃんとレガシーとして残ったものと、うまくいかなかったものを反省しながら進めていけると良いなと思いますね」

剛力 「すべての人が住みやすい過ごしやすいまちづくり・・・ですね。ほかには、スポーツでどのような取り組みが進んでいるのですか」

朝日 「スタジアム・アリーナ構想といって、体育館や競技場を中心に据えて街をつくっていくという計画、ガイドラインがあるのですが、まだそこまで実走はできていません。ただ、長崎・佐世保にジャパネットホールディングスさんがホテル付きのサッカースタジアムをつくっている(「長崎スタジアムシティプロジェクト))とか、少しずつそういうスポーツを通じた街づくりが進みつつあります。われわれも政府として応援していきたいですし、そういった事例の横展開をどうしていくのかを考えています。その点、欧米ではスタジアムにホテルも病院もあれば、ショッピングモールもある。スタジアムを街の中心に据える取り組みが進んでいますよね」

蟹江 「ぜひ、そこにSDGsの考えも入れていただいて、SDGsとスポーツと街づくりというものを推進してもらえると楽しくなると思います」

最後に朝日氏はSDGsが見据える10年後の社会について言及した。

「私自身が政治を志したきっかけとして、子育て世代として、次の世代に豊かな社会を引き継いでいくという政治信条があります。そう考えると、何を守らなければいけないのか、何をつくっていかなきゃいけないのかというのが導かれると思うんです。今日はスポーツの話をさせていただきましたが、いろいろな方がスポーツにアクセスできる街であったり、そのためにどういう整備をしなければいけないかであったり、一つの目的を出発点にするといろいろなことが考えられます。次の世代の子供たちが生き生きと過ごせるような、そんな社会をつくっていきたいですね」

朝日氏の話に、剛力さんは「今後、オリンピック・パラリンピックの見方も変わってきそうです。自分の伝え方も変わってくるでしょうし、私もダンスをやっていた身として、やっている人の気持ち、熱い思いみたいなものはすごくあります。まずは無事に開催できることを願いたいですし、応援したいし、見届けたい。日本がどうなっていくのか、微力ながら少しでも役に立てたら」と改めて思うところがあった様子だ。コロナ禍で開催自体に賛否の声もある東京五輪・パラリンピックだが、SDGsが掲げる持続可能な社会の実現へ、一歩を踏み出さないと何も始まらないのは確かなことといえる。

【プロフィール】
朝日 健太郎(あさひ・けんたろう)
1975年9月19日生まれ、45歳。熊本県出身。男子バレーボール日本代表選手として活躍後、2002 年にビーチバレーに転向。08年北京五輪では日本人初のトーナメント進出を果たし9位。12年ロンドン五輪にも出場し、同年に現役を引退した。その後は NPO 法人日本ビーチ文化振興協会理事長などを務め、スポーツ解説・講演活動やメディア出演を経て、16 年に東京都選挙区から出馬し、初当選。自民党所属の参議院議員として活動する。今年9 月 からは菅義偉内閣で国土交通大臣政務官に就任。災害対策、建設、国土保全などを担う。身長199センチ。家族は妻と1男1女。