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【渋谷区×wacca】ひとり親の共助サービスwaccaの事例から考える、SDGsを目指した子育て支援の新しい形とは

【渋谷区×wacca】ひとり親の共助サービスwaccaの事例から考える、SDGsを目指した子育て支援の新しい形とは

#SHOW CASE
  • 貧困をなくそう
  • 人や国の不平等をなくそう
  • パートナーシップで目標を達成しよう

今、公的支援である公助と、自分自身で備え守る自助のほかに、地域や周りの人たちと協力し助け合う“共助”に注目が集まっているのをご存じでしょうか?

渋谷区で推進しているInnovation for New Normal from Shibuyaプロジェクトでは、区としてスタートアップの支援を行っています。第一回目の募集の中から採択されたひとり親のためのコミュニティサービス『wacca』(https://wacca.link/communities/hitorioya)では、サービスに登録しているひとり親や、サポーター同士で情報提供や寄付を募ることで、ひとり親の必要とする支援を互いに行える共助サービスを提供しています。これまでは行政の支援を頼るしかなかったひとり親の支援を、当事者同士ができる範囲で助け合うという選択肢が増えることで、SDGsの持続可能な開発目標に近づける仕組み作りができるようになっています。

今回は、渋谷区の国際戦略推進担当の田坂さんと産業観光課の谷川さん、『wacca』を運営する株式会社くらしのテクノロジーズ代表取締役の岩岡さんに対談していただき、SDGsを目指す新しい子育て支援の形についてお話を伺いました。

実証実験の場を提供するという支援の形

――渋谷区が立ち上げた、Innovation for New Normal from Shibuyaというプロジェクトについて教えてください。

田坂さん:僕が今いる渋谷区の国際戦略推進担当という部署は、今年の1月に立ち上がった部署なのですが、渋谷区のグローバル課といっしょに渋谷区でスタートアップを盛り上げていこうという話が出て、Innovation for New Normal from Shibuyaというプロジェクトが始まりました。
プロジェクトを進めるにあたり、まず初めに、「そもそもスタートアップが何に困っているのか?」「区が何を提供したらいいか?」のアンケートをとることにしました。すると、「実証実験がしたい」という回答がとても多かったんです。
渋谷区って投資家もたくさんいるし、アクセラレーションプログラムもたくさんあるので、行政ができることは資金支援くらいかなと僕らの中では思っていたんですが、意外にもそうじゃなかった。
たしかに、スタートアップって今までなかった分野を切り開いて新しいサービスを作ることが多いですよね。なので、そのサービスの効果を試せるような、実証実験ができる場を区が提供できたらいいなと思いました。

――今回が第一回目で、120社応募があった中から12社が採択されたと伺いました。今回、waccaさんを採択した理由はなんだったのでしょうか。

田坂さん:まず、採択までのフローとして、審査企業の方が応募書類の内容やコメントを見て、その上で面接をさせていただいています。その面接で伺ったお話をもって渋谷区内で出資可能かを相談して採択となります。
waccaさんを採択したのは、ひとり親をサポートすることを目的としたサービス内容が社会課題に寄り添っているということが最も大きなポイントでした。それに加えて、waccaさんから渋谷区への要望事項が、「ひとり親の方へ広報活動していきたい」というもので、これなら実証実験が現実的に可能であると感じ、今回の採択に至りました。

助け合いの輪っかをつくる“共助”という考え方

――waccaとはどのようなサービスなのでしょうか?

岩岡さん:waccaはひとり親同士が集まって、お互いに助け合うコミュニティサービスです。サービスの特徴は、ひとり親と、サービスに寄付をしてくださっているサポーターの方との間で、お金と情報の支援ができる点です。
例えばお金なら、“経済補償”という意味合いで、病気や諸事情で働けずお金に悩んでるひとり親の方に、ひとり親同士、できる範囲内でお金の寄付をすることができます。情報では、悩みや相談事を投稿すると、登録しているメンバーからだけでなく、waccaに登録しているお医者さんなどから専門家目線で意見をもらえるようになっています。

――サービスを立ち上げたきっかけはなんでしょうか?

岩岡さん:きっかけは自分に子供ができたことでした。自分自身、子育てをしていく中で、子育て世代が利用できるインフラができればいいなと感じていました。
実際に、国の社会保障の仕組みはあれども、ひとり親や家庭の事情などで子育てに不安を抱えて生きている人たちはたくさんいます。公助と自助の間に、“共助”の概念をインターネット上に作りたかったんです。

――最近、初の経済的支援ができたと伺いました。

岩岡さん:今回、支援を求められた方は、広島在住で2名のお子様がいらっしゃる方でした。この方は正社員で働かれており、普段の生活はそこまで問題がなかったのですが、子宮全摘出の手術を受けた際に休職され、お給料が減ってしまったためお金のサポートをしてほしい、という依頼をされていました。
今回の支援では、waccaメンバー二十数名の方が、それぞれできる範囲内で寄付をしてくださいました。サポーターの方からも寄付金を頂戴しているので、そのうちの一部を支援金として相談者の方へお渡ししました。結果的に、4万5千円の支援をすることができました。
サービスの仕組みとして、お金を支援してもらった方から、支援者の方に感謝のコメントが届くのですが、「今回は自分が助けてもらったけど、今度は自分が助ける側に回りたい」というコメントがあって。それはまさにwaccaが実現したかった助け合いとかやさしさの循環ができたのかなと思い、嬉しかったですね。

――ただ単純に助けるだけじゃなく、自分が助ける側にまわる、自分でもできることがあると思えるのがwaccaのいいところですね。

子育て支援をする自治体の課題とは

――渋谷区のひとり親のサポート施策は多岐にわたると思いますが、現場の課題感はどのようなものがあるのでしょうか?

谷川さん:これは渋谷区に限らず、ひとり親のサポートは、どこの自治体も独自の施策を十分に展開しきれていないところがほとんどです。国や都の手当で受給条件に該当しているひとり親世帯は自治体で把握できても、フルタイムで働いている人は手当の対象外なので、全体像を把握しづらいという現実もあります。
現時点で渋谷区がwaccaのサービスを周知できているのは、手当を受給している約1000世帯だけなので、それ以外の人にどうやって周知するかが今の課題です。

――渋谷区でひとり親って大変そうなイメージがありますが、特に大変なことってどんなことでしょうか。

谷川さん:実は渋谷区って、子どもの教育とか医療にはかなり力を入れていて、予防接種の助成の範囲がかなり広く全国トップレベルだったり、出産時にもらえるサポートグッズも充実しているので引っ越してきた人が驚くくらいなんです。
それでも、やはり、何かの事情で収入がなくなったときのサポートは不十分なのが現状です。例えば、親が一時的に病気にかかると、治療費はもちろん、入院の間、誰が子どもをみる?というのはおそらく誰もが直面する問題。区内は家賃が高く、そういったときに生活費が負担となってしまうというのが課題の一つでもありますね。

すべての人に健康と福祉を。子育て支援のSDGsを目指す

――今後waccaに期待することはなんでしょうか?

田坂さん:スタートアップ支援をするにあたっての課題の一つが、区がスタートアップを支援しても法人税が入らない、というのがあります。例えば、東京都がスタートアップ企業を支援した場合は、支援を受けた企業の業績が上がればそのぶん都の税収に入るんだけど、区は企業を支援しても直接的な区民への還元ができないんです。
そのため、渋谷区として、waccaというサービス自体が区民への直接的な支援になるようにしなければなりません。waccaは行政サービスではありませんが、その一部を担ってくれるレベルまで成長できるように支援していく予定です。
渋谷区のInnovation for New Normal from Shibuyaプロジェクトでは、waccaの他にもいくつかの子育て支援に関するサービスの実証実験を進めています。SDGsにある「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」という目標に近づくためにも、今後もひとり親や、子育てしている親同士が自発的に助け合っていける環境づくりに力を入れていきたいと考えています。

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