“SDGs”と“企業”をもっと近づける!SDGs MAGAGINE

剛力彩芽と学ぶエネルギー問題「ゴール7達成に向けた現状と課題とは」

剛力彩芽と学ぶエネルギー問題「ゴール7達成に向けた現状と課題とは」

#RADIO
  • エネルギーをみんなにそしてクリーンに

持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」を学べるニッポン放送の特別番組『SDGs MAGAZINE』の第11回が2月5日に放送された。今回のテーマはSDGsのゴール7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」。女優、剛力彩芽さんが「国際エネルギー経済学会(IAEE)」のエグゼクティブヴァイスプレジデントを務める山下ゆかりさんに、エネルギー問題の現在とSDGsとの関係性を聞いた。

昨年末から続く寒波や大雪の影響で、全国的な電力需給が逼迫しているというニュースを目にした人も多いだろう。「この冬によく聞いた電力需給の逼迫という言葉は、改めてエネルギーのあり方を考えさせられるきっかけになっています。ただ、エネルギーというと漠然としていて分からない点も正直ありますよね」と剛力さん。そこで、今回の放送では有識者ゲストとしてエネルギー問題の専門家でありIAEEで要職に就く山下ゆかりさんを招き、ゴール7の達成にもつながるエネルギー問題について考えることとなった。

山下さんは大学院修了後、エネルギーと環境および中東の政治経済に関する総合的シンクタンク、一般財団法人日本エネルギー経済研究所に入所し、エネルギー需給の見通しや分析などに従事。その後、温暖化対策、省エネルギー政策立案などを担当し、東日本大震災直後の節電対策や省エネルギー政策の策定にも関与した人物だ。サウジアラビア、UAE、中国、インドなどと共同研究を推進するなど国際的にも活躍しており、内閣府、経済産業省の委員も歴任。現在はIAEEの理事などを務めている。

剛力 「まず、国際エネルギー経済学会というのはどのようなものなのでしょうか」

山下 「国際社会のエネルギーおよび関連する問題に関わるビジネス、政府、学術、その他の専門家のための独立した非営利のグローバル会員組織です。石油危機の頃に、アメリカでオイルビジネスをやっている企業を中心に理論的にエネルギー需給がどうなるのか、見通しを含めて石油が今こんなことになっている、これから先どうなっていくんだということをしっかりと経済学的に分析する学会があってもいいのではないか、ということで立ち上がりました。例えば、何か政策を打ったとして、その政策の効果がどうまわりまわって影響があるか、効果が本当に政策として出ているだろうか。そういったことを経済学的に分析したり、小さな組織の中でそれを実験してきちんと広げることができるだろうかなどといったことを研究したりしています」

剛力 「今回は、そんな山下さんにゴール7のターゲットにも掲げられている『誰もが使えるクリーンエネルギー』についてお話を伺っていきたいのですが、まず山下さんはSDGsの取り組みについて、どう捉えていますか」

山下 「実はSDGsの取り組みは2015年の国連サミットで定められたように、だいぶ前からあるもので、目標を達成しなければいけない年限(2030年)も近づいているわけです。ただ、今まで皆さん、あまり身近なものとしては捉えていなかったと思うんです。ところが、コロナの問題で世界中の人が病気、ウイルスによって苦しみを抱えていることにより、そもそも私たちが生き続けるためには、毎日の楽しい生活を続けるためにはどうすればいいのかを考えるようになった。こんなウイルスごときで、生活が制限されてしまって本当に大変だなと思っている。だからこそ、実は今がチャンスなんじゃないかなと思います。SDGsの中に掲げてられているように、普通に生きていくことができていない国があり、人がいるということに改めて気付くチャンスなんじゃないかなと。SDGsがコロナの影響で身近になっているのかもしれない・・・と思うんです」

剛力 「私も少し前からSDGsを勉強させていただく中で、よりコロナの影響でSDGsを考えられるタイミングが来ているのかなと確かに感じ始めています」

山下 「今までSDGというものは、例えば企業が何かの活動や投資を受けるために、こういうことを頑張っています、こんな環境にやさしいことを事業でやっています、とアピールするためのリストくらいにしか認識されていなかったように思います。それが、人類みんながこの地球の上で生き続けていくために必要なことなんですという捉え方に変わるきっかけにコロナ禍がなるのではないかと思いますね」

剛力 「会社・企業だけじゃなく、一人一人個人の問題という感覚になってきている」

山下 「そうですね。国民、消費者がその重要性に気付けば、きちんとした認識が広がっていくと思います」

ここで、改めてゴール7が掲げているターゲットについて見てみる。

山下 「ターゲットはどれも大事ですが、特に3番目。明日すぐ目標が達成できるわけではないので、みんなが参加して『倍の速さ』で実現していく必要があるというのは重要なことかなと思います。日本は、石油危機からの20年でエネルギー効率の良さに関して先進国と言われてきたのですが、それと同じだけのスピードでさらにエネルギー効率を良くするという目標を達成するのはなかなか難しいことです。日本は既に省エネがずいぶんできているので。では、アフリカでそれができますかというと、アフリカはまだこれからエネルギーを使いたいという人がたくさんいる段階で、そもそも最初からエネルギー効率のいい最先端の機器を入れられるのかということが問題になる。まだまだ難しいというのが現実だと思います」

ここで剛力さんが疑問として投げかけたのが、冒頭で触れた「電力需給の逼迫」について。この冬、寒波や大雪で暖房の利用が増え、全国各地で節電が求められる状況となった。エネルギー効率の良さでは「先進国」とされる日本で、なぜこのような事態が起こったのか。
剛力 「夏の節電はイメージありますけど、冬もとなると本当に状況が良くないんだと感じました。これはどういうことなのでしょうか」

山下 「今回、どこで電気が足りなくなったかというと、西日本のほうなんですね。なぜ、足りなくなったか。天気予報の長期予報では平年並みの気温と言われていたのが、予想以上に寒くなり、暖房や給湯で10年に1度くらいの記録的な最大電力のピークが来てしまったんです。発電設備は足りているけれども、瞬間的に上がった電力を供給するところでつらくなってしまった。それが電力を供給する側の事情です。もう一つはLNG(液化天然ガス)の在庫が足りなくなったことです。発電にはクリーンな燃料ということでガスをたくさん使うのですが、実は平年並みの気温を予想していたので、そこまでたくさん用意していなかった。ガスは日本にLNGとして到着して、電力会社が焚くのですが、そんなに長く貯めていられないものでもあるんです。ちょっと大変、至急もっと手当てしようというときに在庫が足りなくなってしまった。中国、韓国にも寒波が来たので、世界的にガス需要が増えたことで、ガスを供給するオーストラリアや船が通るパナマ運河で交通渋滞が起きていたという事情もあります。今はだいぶ落ち着いているようですが」

剛力 「なるほど。となると、これは今後も起こり得るということですか」

山下 「そうですね。需要が瞬間的に増えるような急激な変化が起きた場合とか、LNGを取引する国際的な市場で“事故”があったとか、この2つの事情が重なればまた起きる可能性はあります」

剛力 「それに対して、私たちができることは?」

山下 「普段からの心掛けとしては、無駄な電気は使わないというのはもちろんあります。東日本大震災の後、関東や東北でさまざまな節電施策が行われましたが、普段からそういうことを心掛けるというのが一つかなと思います。日本はエネルギーを海外から輸入していますから、常に危機感を持っている必要があると思います」

剛力 「当たり前のように使っていてはいけない、と」

山下 「“湯水のように使う”と言いますけど、日本にはお水ほどエネルギー資源があるわけではないということです」

こうした問題も踏まえて、しばしば取り沙汰されるのが電力部門をはじめとした「脱炭素化=カーボンニュートラル」だ。地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」では、温室効果ガスの排出量を今世紀後半に実質ゼロにすることなどを目標に掲げており、世界122の国と地域が2050年までの実質ゼロを目指している。
山下 「要するに、化石燃料は燃やして使うのですが、そうすると炭素が空気中に出てしまう。それが二酸化炭素(CO2)として空気中に残っていると温室効果ガスの一つとして温暖化が進み、温暖化が起きると気候変動が起きる。そこでCO2を減らすために脱炭素化しましょうと言われているわけです。今までは2050年に半分くらいまでに減らせばいいと言われていたのが、その後も化石燃料の使用量が減らないことで、産業革命以降の温度の上昇を2度以下に保とうとするならもっと早いスピードで減らさなければいけなくなっている。さらにこれを1.5度以下に保ちましょうとなると2050年で化石燃料のゼロにしなければいけない。ただ、全ての産業、あるいは飛行機を飛ばすなどといったところで化石燃料の使用をゼロにするのは今の技術ではできないので、逆にCO2を空気中から取り出してしまいこむとか、いろいろな技術を活用して結果的にプラスマイナスゼロにするというのがカーボンニュートラルという言葉の語源になります」

剛力 「それは、実現できるものなんですか」

山下 「今ある技術では難しいというのが、私の専門である計量経済で分析などした結論です。まだない技術もあてにしないと達成できないかもしれないというのが現実なんです」

剛力 「既に研究されているけれども実用化できないものもある」

山下 「そうですね。ビジネスとして成り立ち、普段使えるものとして技術が手元に来るには多くのバリアを超えていかなければなりません。SDGsのゴール7.1に記されているように『安価』で使えなければ、みんなが使えない。そこまで達成するには全ての人、専門家が関わって努力、協力していく必要があると思います。一番大事なのは普通の消費者、市民の皆さんも自分の身近な問題としてエネルギーの問題、SDGsについても考える、勉強していくことだと思います。理解していろいろなことをやるということではないでしょうか」

そうしたカーボンニュートラルの考え方につながる動きとして、番組で紹介されたのが「ユーグレナバイオディーゼル燃料」の話題だ。

JR四国バスと株式会社ユーグレナは、高知県で運行している『大栃線』(おおとちせん)にて、ユーグレナ社の次世代燃料「ユーグレナバイオディーゼル燃料」の使用を1月18日から開始。「ユーグレナバイオディーゼル燃料」とは微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)と使用済み食用油を原料にしたもので、バス自体の内燃機関を変更することなく使用できるのだという。バイオ燃料は、燃料の燃焼段階ではCO2を排出するが、原料となるユーグレナが成長過程で光合成によってCO2を吸収するため、燃料を使用した際のCO2の排出量が実質的にはプラスマイナスゼロとなり、カーボンニュートラルを実現するという仕組みとなっている。

剛力 「すごいですね」

山下 「私はユーグレナさんに話を聞きに行ったことがあるのですが、ユーグレナはもともと社長の出雲充さんが貧困国の万能な栄養食として目に留め、そのあと燃料にもできるということで取り組まれていると聞きました。ユーグレナが成長するときにCO2を吸収して、それが栄養となって彼らは成長するので、後でCO2を輩出しても都合ゼロになるということです。そこがバイオ燃料のいいところ、クリーンなエネルギーとして注目されているところなんです。商用化できたのは、すごいことだと思います。ただ、いくつか課題もあります。ユーグレナを育てるためには非常に大きな池が必要なのですが、エネルギー密度が小さいので、どうやって大量に使えるだけの供給量を確保するかというのが一つですね」

剛力 「まさにゴール7のターゲットにある『安定的』ということが課題ということですね」

山下 「だからといって、これを使わないということではなく、使える場所で有効利用する手立てとして研究している人はたくさんいます」

さらに、カーボンニュートラルの取り組みとして紹介されたのが未来の建物の形といえる『ZEB』だ。「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)」の略称で、読み方は「ゼブ」。快適な室内環境を実現しながら、 “創エネ”によって使う分のエネルギーをつくることで、建物で消費する年間の1次エネルギーの収支を正味(ネット)でゼロにすることを目指した建物を指す。環境省をはじめ、大手電機メーカーや大手建設会社、大手ビルメンテナンス企業なども参画(さんかく)して、この『ZEB』に取り組み始めている。

剛力 「具体的にどのようにして実現するのですか」


山下 「いろいろな方法があります。まずは徹底的な省エネルギーが必要です。われわれが何かするのではなく、センサーでここは人がいるなと思ったら電気をつけたり消したりするとか、空調もゾーニングして気持ちの良いものにするとか、地中熱を利用した冷暖房を取り入れるとか…。自然光や風の力を活用して心地よい空間をつくりながら、とにかくエネルギーを使わないということを最初にします。その上で、さらに太陽光パネルや太陽熱温水器を活用してエネルギーをつくる。その結果、ネットでゼロになるように持っていくということです」

剛力 「新しい建物には、そうしたものが取り入れられているということですね」

山下 「そうです。いろいろな企業が競って研究をして、そういったビルを実際に建てています。利用している人もそういうビルの価値が分かると、今後どんどん増えるきっかけになると思います」

エネルギー問題とSDGsとの関係性を、さまざまな具体的事象から紐解いた山下さんだが、最後にこう呼び掛けた。

「SDGsを身近なものから始めようというのは、とても大事なキーワードです。エネルギーを取り巻く環境はどんどん変わっていますが、今ほどエネルギーについてみんなが知る必要のある時代はなかったんじゃないかなと思います。私たちが日本でエネルギーを使って生活をしている中で、これからどうやって使い方を変えていかなければいけないのか、その結果世界全体のSDGsを達成する方向に向けて、どういう一歩が自分にはできるのかを考えることが、まず大事なのかなと思います」

そして、番組後半ではSDGsのゴール7達成へ新しいアプローチで取り組む企業が紹介された。

アバター画像

WRITTEN BYSDGs MAGAZINE

カテゴリーの新着記事

新着記事

Page Top