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“図鑑先生”と巡るオトナのミュージアム体験! 五感を刺激するずかんミュージアム銀座を通して学ぶ編集部リポート 「生物多様性の保全」に向けて私たちができる取り組みを考える

“図鑑先生”と巡るオトナのミュージアム体験! 五感を刺激するずかんミュージアム銀座を通して学ぶ編集部リポート 「生物多様性の保全」に向けて私たちができる取り組みを考える

#SHOW CASE
  • 陸の豊かさも守ろう

SDGsが国際目標として国連サミットで2015年9月に採択されてから今年で6年になります。毎年6月に発表されるSDGs達成状況に関する「Sustainable Development Report 2021(持続可能な開発レポート)」によると、対象国165カ国の中で日本の達成度は、ランキング18位。しかし、目標15の「陸の豊かさも守ろう」に関する取り組みは進んではおらず、生物多様性や森林破壊に関係するターゲットは後退しています。またSDGsの取り組みや重要性は、教育の場を通して若者世代には広く定着しつつありますが、世代があがるにつれ、その認知度が低くなっているとも言われています。

剛力彩芽と学ぶSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」・前編 コロナ禍にも通じる生物多様性の保全の現状
剛力彩芽と学ぶSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」・後編 絶滅危惧種を絶滅の危機から救うための取り組み

そこで編集部では、“オトナもSDGsを学ぶ場”として7月にオープンしたばかりの体験型ミュージアム『ずかんミュージアム銀座』を選び、「小学館の図鑑NEO」監修者の成島悦雄先生に解説いただきながら体験してきました。成島先生は、目標15に定められているターゲットの多くを占める「生物多様性と生態系の保全」を重要課題の一つに掲げる日本動物園水族館協会の専務理事でもあり、編集部スタッフにとってはまさに”図鑑先生(博士)”です。

『ずかんミュージアム銀座』は、デジタルとリアルが融合した空間をめぐりながら、図鑑の中でしか見ることのできなかった生き物たちに出会える新スポット。2021年7月16日に開業以来、わずか1ヶ月で累計来館者数30,000人を突破する人気施設となっています。館内は、24時間という時間の経過や天候の変動など、地球上における環境の変化を表現。空間や時間の経過と共にリアルな“地球の自然”を体感し、学びにおいて「読んで知る」と同等に大切な「実体験をつくる」ことを目指した新感覚の体験型ミュージアムです。
来場者には、生き物を検知し記録をするナビゲーターアイテムとして「記録の石」が配布され、5つに分かれたゾーンを巡る際に生き物たちの生態を知る手助けをしてくれます。

また、1日を24分に凝縮した時間の流れを導入することで朝、昼、夕方、夜と時間帯によって同じ場所でも見え方が変わり、現れる生き物の変化も知ることができ、何度、訪れても新しい発見があります。

成島先生が解説する「生き物」が私たちに教えてくれること

​シアマン(フクロテナガザル)から学ぶターゲット15.5「自然生息地と生物多様性の損失の阻止、絶滅危惧種を保護」

「シアマン」(フクロテナガザル)は、のど袋が頭と同じくらいの大きさにまで膨らむことで大きな声を遠くまで届けることができるサルです。霊長類の中でも、ゴリラやオランウータンらと同じく比較的人間に近い知能の高いしっぽのない希少種。マレーシアとスマトラ島の熱帯雨林に生息しています。しかし、「今、東南アジアを含め森林にすむ動物たちが絶滅に瀕している」と成島先生は言います。その理由は、人間による森林伐採。パームオイルの原料であるパーム椰子(アブラヤシ)を植林するために原生林を伐採していることで彼らの住処が奪われた結果、絶滅危惧種になっているのです。

では、パームオイルを使うことをやめればいいのでしょうか。

「いえ、そうではないのです。日本に住んでいるとパーム椰子というと他国のことと思いがちですが、実は日本はパームオイルの消費大国。食品はもちろん、化粧品やシャンプーをはじめとする日用品など多岐にわたって使われています。つまり、地球上で最も消費される植物油であるパームオイルは、私たちにとってはなくてはならないものと言えるのです」

では、私たちはどうすればいいのでしょうか。

成島先生は、言います。
「パームオイルは、環境や人権に関する国際基準を満たすためのRSPO(持続可能なパームオイルのための円卓会議)認証制度があります。環境への影響に配慮した持続可能なパームオイル を生産するための活動の1つです。認証を受けた     製品を使うことで動物たちとの関わり方が変わってきます。近い将来、人類が絶滅危惧種になるということが起こり得るかもしれないのです。それを避けるためには、できることからエコな生活に今の暮らしの仕方を変えるということが私たちは大切だと思います」

​マーゲイから学ぶターゲット15.01「森や野原、川や湖の生態系を保全し、回復させよう」地球の健康を守る「ワンヘルス」の考え方とは  

南アメリカに生息する野生のネコであるマーゲイは、いわゆる食物連鎖の上位にいるのですが、東南アジア同様に森林伐採が起きているために、個体数を減らしています。国際自然保護連合(IUCN)が定期的に絶滅のおそれのある野生生物のリストをレッドリストとして発表しています。両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類のそれぞれ4分の1は絶滅危惧種になっています。成島先生によるとその中でも、特に水辺に生きる両生類が一番心配なのだそうです。「原因はね、人間の活動による汚水と同時にかつてあった湿地を乾かして人間が使えるように新しく土地にする造成。水辺に生きている両生類が人間の影響を一番受けています」

では、私たちができることはなんでしょう。

生態系を保全し地球の健康を守るためには、動物だけ人間だけを見ていてもだめで、「ワンヘルス」という医師および獣医師らが横断的に連携して取り組むという考え方が大切だといいます。つまり、「人の健康を守るためには、生態系にも目を配って取り組む。人も動物も生態系も同じように健康であることが大切なんです

現在この「ワンヘルス」の考えをもとに、持続可能な地球の健康を守るためにも生態系の健康も守ろうと、日本だけなく世界の医師と獣医師の間で連携して取り組む動きが進んでいます。

​ゲンジボタルから学ぶターゲット15.8「外来種の侵入防止と優先度の高い外来種の駆除」

ゲンジボタルは日本にしか生息しない大型のホタルで、幼虫期を水中ですごす昆虫です。国内で、ある生物を別の地域に移動させてしまうことは「国内由来の外来種問題」として課題になっています。成島先生によると、ゲンジボタルは清流に生息する貝である「カワニナ」しか食べないとのこと。川の変化によってカワニナが減少し、結果的にホタルもいなくなっているのだそうです。しかも、川は汚染問題だけでなく、人間による水路の管理も原因にあげられています。

「人間は、水害を防ごうと水の流れを変えてきました。そのために川の生態系が変化し、以前いたホタルも見られなくなってしまいました」

人間にとっては管理しやすいコンクリートの水路も、水生昆虫をはじめとする水に生きる生き物にとっては不向きな生活環境なのです。

では、どちらにとってもやさしい取り組みはないのでしょうか。

「最近、『ホタルのいないところを、ホタルの川にしよう』という本来いなかった場所にホタルを放す動きがありますが、逆にその行為は生態系を壊すことになります。生態系は時間をかけてそうなっていった結果なので、新しくホタルを放すことでおかしくなってしまいます」戻したかのようにように見えて、実はもっとおかしくしていることがあるようです。

では、私たちにできることはなんでしょう。

「メダカも、それぞれの場所でその地の生態系で生きていたのを、捕まえて家で飼い、飽きたからといってまた別の川に流してしまうと、慣れ親しんだものがいなくなってしまう。だからこそ、いなくなったからと簡単に新しく入れるのではなく、きちんと調査が必要です」と成島先生は言います。

人間にとって、災害対策や都市開発は大事かもしれませんが、持続可能な開発で生態系を守るための知識をつけることも大事なのです。

【ずかんミュージアム銀座を成島先生と巡った編集部スタッフの感想とまとめ】

館内で過ごす1時間は本当にあっという間。しかも森の中のように薄暗く涼しい空間なので、今の季節は気持ちよく、天候を気にせずに楽しむことができます。編集部スタッフは、先生の話を聞きながらも「記録の石」に生き物を記録させることに必死。そんなゲーム感覚でさらに学びを得ることもできてとても楽しかったです。
子どもの頃に読んだ図鑑の世界が目の前に現れた『ずかんミュージアム銀座』を体験することで、動物に興味を持ち、次に動物園や水族館に足を運ぶ「学びの循環サイクル」が生まれるといったような、オトナもSDGsを自分のこととして     考えるきっかけになれば嬉しいです。


【成島悦雄先生 プロフィール】
1949年、栃木県生まれの成島先生は東京農工大学農学部獣医学科を卒業後、上野動物園、多摩動物公園の動物病院で勤務。井の頭自然文化園園長を経て、現在は日本動物園水族館協会の専務理事、日本獣医生命科学大学客員教授、日本野生動物医学会評議員を務めている。「大人のための動物園ガイド」「小学館の図鑑NEO 動物」「原寸大どうぶつ館」「絶滅危惧種のふしぎ ぎりぎり いきもの事典」など動物関連の書籍や図鑑の監修。


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