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剛力彩芽と学ぶSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」・後編 絶滅危惧種を絶滅の危機から救うための取り組み

剛力彩芽と学ぶSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」・後編 絶滅危惧種を絶滅の危機から救うための取り組み

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  • 陸の豊かさも守ろう

女優の剛力彩芽さんと持続可能な開発目標「SDGs(エスディージーズ)」を学ぶニッポン放送の特別番組『SDGs MAGAZINE』。5月1日に放送された第14回はSDGsのゴール15「陸の豊かさも守ろう」がテーマとなった。番組の後半では、日本動物園水族館協会の専務理事を務める成島悦男先生がリモートで出演。絶滅危惧種の問題など、動物園の取り組みとSDGsの関係性について慶応大学大学院・蟹江憲史教授とともに深掘りした。
毎回、SDGsにまつわる人や企業の取り組みなどを紹介する番組後半では、目標15に深く関わる人物として日本動物園水族館協会の成島先生をお招きしました。

成島悦男先生 プロフィール
1949年、栃木県生まれの成島先生は東京農工大学農学部獣医学科を卒業後、上野動物園、多摩動物公園の動物病院で勤務。井の頭自然文化園園長を経て、現在は日本動物園水族館協会の専務理事、日本獣医生命科学大学客員教授、日本野生動物医学会評議員を務めている。「大人のための動物園ガイド」「小学館の図鑑NEO 動物」「原寸大どうぶつ館」「絶滅危惧種のふしぎ ぎりぎり いきもの事典」など動物関連の書籍や図鑑の監修。

SDGs 目標15「陸の豊かさも守ろう」・前編:コロナ禍にも通じる生物多様性の保全の現状
https://sdgsmagazine.jp/?p=1576

SDGs目標実現に向けた絶滅危惧種の現状

成島 「日本動物園水族館協会には、90の動物園、50の水族館が加盟しています。一つの動物園だけではできないことって、たくさんあるんですね。一つの動物園で動物を増やそうとしても、すぐに近親交配で行き詰まってしまいますが、個々の動物園の垣根を越えてやればできることもある。Aという動物園がBという動物園に送って繁殖したり、SDGsの目標実現のためにキャンペーンを張ったりすることもできます。そういうことを共成する仕事をするのが、この協会です。動物園は世界中にあり、世界動物園水族館協会というのも別にあるのですが、そことも連携していています」

同協会の重要な取り組みの一つが、絶滅危惧種に関するもの。目標15に定められている12のターゲットのうち、半数以上で「生物多様性と生態系の保全」が謳われているが、その4と5では絶滅危惧種の問題に踏み込んでいる。

<SDGs目標15のターゲット(抜粋)>

15.4 めぐみゆたかな山の生態系を守ろう

2030年までに持続可能な開発に不可欠な便益をもたらす山地生態系の能力を強化するため、生物多様性を含む山地生態系の保全を確実に行う。

15.5 多様な生物とその住処を保護し、絶滅の危機から救おう

自然生息地の劣化を抑制し、生物多様性の損失を阻止し、2020年までに絶滅危惧種を保護し、また絶滅防止するための緊急かつ意味のある対策を講じる。

生物多様性と生態系サービスに関する科学や伝統知識などの幅広い知見を収集・体系化し、中立的な立場から知見に基づく政策の実現を支援する政府間組織「IPBES」は、「約100万種類の動植物が数十年のうちに絶滅する」と警告をしており、そのペースは過去1000万年の平均より10倍から100倍といわれるIUCN(国際自然保護連合)による絶滅危機にある世界の野生生物の「レッドリスト」には、絶滅危惧種として3万種類以上の生物が登録されており、番組前半で蟹江教授が年間約4万種類の生物が絶滅していることを紹介したように、その現状は深刻。産業革命以後の人類の利便性追求が、食物連鎖の変化、生態系の変化につながり、問題の発端となっている。

剛力 「これを成島さんは目の当たりにされている」

成島 「そうですね。日本の動物で言えば、有名なのはトキ。私はトキに長くかかわっているのですが、トキも残念ながら日本では絶滅してしまいました。今、日本にいるトキは中国からいただいたトキを日本で増やし、それを佐渡で放している状態なんです。日本産の純粋なトキはもういないのですが、遺伝子を調べたところ中国産のトキと日本産のトキはそんなに違わない。同じ種類と考えていいという研究成果が出ていますので、オリジナルは違いますけど基本的には同じトキが飛んでいる。それが現状です。他にはニホンオオカミや二ホンカワウソも絶滅してしまっています。オオカミは牧場の牛や羊を襲うとか、狂犬病の危険があるとかで人間に嫌われ、殺されてしまったんです」

蟹江 「だから、人と動物の距離が近づきすぎるといけないということですね」

成島 「そうなんです。昔は節度を持って里山に“ゾーン”があって、われわれ人間も入らないようにしていた。山には神様がいて、むやみに入ってはならないということで、うまく野生動物と人間が住み分けていたわけです。しかし、今はどんどん中に入っていって、野生動物の住処を荒らしてしまっているということです」

剛力 「そんな状況を踏まえ、成島さんがSDGsについて思うことは」

成島 「きちんとした概念として表されているので、頭が整理されると思います。それ以前は、動物園や水族館の仕事として絶滅が危惧されている動物をなんとか飼育して、環境が戻ったらまた戻そうという取り組みをしてきたわけですが、それはSDGsの一つであり、動物園の大きな社会貢献の一つだと位置づけています」

蟹江 「目標15の『陸の生態系も守ろう』と関係してくるわけですけれど、実はそれだけではない。目標11『住み続けられるまちづくりを』とか、目標2『飢餓をゼロに』に関係する農業の在り方にも関わってくるものです。本当に、絶滅危惧種の保護は、いろいろなSDGsの目標に関係してくるんです。あと最近では番組前半でも触れたパンデミック。目標3『すべての人に健康と福祉を』にも、実は動物と人間の関係が関わっているんです」

日本動物園水族館協会の取り組み

剛力 「絶滅危惧種の飼育繁殖、野生復帰など、さまざまな形で生物多様性保全の取り組みを行われているとのことですが、具体的にはどういった活動をされているのですか」

成島 「環境省と協力して、日本産の希少動物を複数の動物園で守ろうという活動をしています。ツシマヤマネコとか、二ホンライチョウとか、アマミトゲネズミとか。チンパンジーやゴリラは、人気があって誰もが飛びつく問題なのですが、日本産の動物って、どうしても地味。ただ、われわれ日本人が長く一緒に暮らしてきた動物を守っていくということは大事なことです。日本人が守らなければ、誰も守ってくれないわけですから。それは、われわれ日本の動物園の大きな仕事かなと思っています。ツシマヤマネコだったら10くらいの動物園が飼育繁殖に取り組んでいます。横浜にズーラシアという動物園があるのですが、そこでも人工繁殖、人工授精を行っています。本来なら自然繁殖が一番良いのですが、数が少ないので、計画通りにはいかない。そこで、やむなくオスから精子を取って雌のお腹に入れ、それで子供を増やすという、科学の力も借りた取り組みを行っています」

剛力 「科学が進歩したからこそ、今度は私たちの手で動物を守る、復活させるということですね。私は横浜が地元なので、ズーラシアには行ったことがあります。すごくきれいで、生態系のリアルなところも分かる、いい動物園ですよね。日本動物園水族館協会の専務理事として、成島さんが昨今の動物園、水族館に感じることはありますか」

成島 「今、動物園では動物の福祉を良くしようということを大きな仕事、目標としています。環境教育とか野生生物の保存といっても、動物をちゃんと扱えて初めてそういうことが言えると思うんです。ですから、やはり今まではなるべく近くで動物を見ていただくことが主眼でしたけれども、これからは動物の習性に合わせ、できるだけ動物が快適に暮らせるような環境を整えていくことを目指す活動をしています。動物の暮らしに合わせた環境をつくってあげることが動物にとって幸せだし、われわれもそれを見て動物が環境と一緒になって進化してきたんだということが分かる。そうした展示をしていくことが、動物園の使命だと思います」

剛力 「確かに、動物が実際にどう生活しているかって、あまり知らないことですね」

成島 「相手を知るということが、その動物を好きになるきっかけになると思うんです。動物園では、例えばライオンなら草原にいるような環境に群れで飼うとか、それをお伝えすることによって、われわれが何らかの行動によってライオンの生活環境を悪くしているんだということに思いを馳せられるようにしていくことが動物園の大きな仕事だと考えています」

成島先生は以前、フランス・パリの動物園を視察。キリンが群れで暮らせる広大なスペースを確保していることなどに感銘を受けたという。一方で、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する「ワシントン条約」などにより、繁殖の難しさ、跡取り不足の問題も生じている側面を紹介。そうした取り決めに対応しながら、活動を進めていることを明かした。

成島 「ワシントン条約に基づいて日本の法律もできていますけど、希少動物を外国からむやみにお金で導入することは今、できません。お金があるからといって、アフリカからゾウを持ってくる、キリンを持ってくる、ゴリラを持ってくるというのはできないわけです。今、日本にいるゾウなり、ゴリラなりの中でうまく繁殖させていくしかない。数に限りがありますから、どうしても近親交配の傾向が出てきてしまいます。世界的に野生の動物には手をつけないで、飼育繁殖した個体をお互いにやり取りして何とか維持していくという方向になっています。十分に増えたら野生に戻すということです。以前のように、お金でどんどん持ってくるというのはできない状態です」

SDGsが掲げる17の目標全てに影響を及ぼす生物圏の課題

剛力 「その他にも、生物多様性保全の取り組みを行われているそうですが」

成島 「SDGsには17の目標がありますけど、それぞれが補完し合っていますよね。今日のテーマは『陸の豊かさも守ろう』とですが、それを支えるためにはいろいろなことができます。動物園でも、レストランで出しているストローを紙に変えるとか、地元の食材を使うとか、野生動物との関わりを考えてつくられ認証を得ているパームオイル意識的に使うとか、そういう形で生物多様性を守ることもやっています

蟹江 「すごく、いろいろつなげて考えられていますね。動物園でも地産地消を気にされている。パームオイルといえば、チョコレートの中にも使われているものなのですが、人間の食べ物にとどまらず、動物の視点からもつくり方が大事になっている。やはり、人間と動物、両方の視点を持っていると広がりが違いますね」

パームオイルは調理のほか、リップスティック、絵具、シャンプーなど多岐にわたって使われ、地球上で最も消費される植物油といわれている。このパームオイルを生むアブラヤシを植林するため、オランウータンの生息地である湿地林の原生植物が伐採されている現状が問題となっている。

成島 「ちゃんとしたパームオイルを使うことで、オランウータンが守られます。オランウータンを守るためには、どうつくられたパームオイルかを意識しながら使うと、思わぬところで保護にもつながるんです」

蟹江 「そして、そのことがパンデミックを防ぐことにもつながっていく。最近『ワンヘルス』という言葉が良く使われるのですが、動物の視点がある成島さんだからこそ、そうした感覚もすごく優れているなというふうに思いますね」

「ワンヘルス(One Health)」とは?
動物から人へ、人から動物へ伝播可能な感染症(人獣共通感染症)は、全感染症の約半数を占めており、医師及び獣医師ら人、動物、環境衛生に関わる者が分野横断的に連携して取り組むという考え方。世界的に広がってきている。

成島 「『ワンヘルス』については、日本獣医師会と日本医師会が覚書を交わし、一緒になって人の健康も動物の健康も、生態系の健康も守っていこうとしています。今までは動物の病気は獣医師さん、人間の病気は人のお医者さんに分けられてきましたけど、それだけでは本当の健康は守れないと気が付いたんですね。そこで『ワンヘルス』という言葉のもとに、関連している業種の人が協力をして、地球全体の健康を守ることが、ひいては人の健康を守ることになるということに気が付いたんです」

剛力 「本当に、このSDGsを学び始めた時って、まず“人”という感覚だったんですけど、『人のために』が『地球のために』に進んでいっている印象です。地球で生きているのは、みんな一緒ですからね」

蟹江 「人間も生態系の一部だということです」

成島 「今は繁栄している人類が絶滅危惧種になるということが近い将来、起こり得る。それを避けるためには、できることからエコな生活に今の暮らしの仕方を変えるということだと思います」

そして、最後に剛力さんは「個人的なことを聞いていいですか」と切り出し「絶対に行った方がいいという国内の動物園、水族館はありますか」と、誰もが気になる質問を投げ掛けた。成島先生は「いい質問ですが、なかなか私の立場からは言いにくいですね。映画『ローマの休日』で王女が『どの首都が一番良かったですか』という質問に『ローマです』と言いましたが、そういう意味で言うと」と、あくまで個人的な見解であることを強調しながら、成島先生が園長を務めた「井の頭自然文化園」を挙げた。

成島 「なぜかというと、ビオトープ(自然保護のあり方を示すドイツの言葉で、生物が自然な状態で生息している空間を意味する)があるんです。ビオトープは環境をつくって、そこに動物を呼び込むものなのですが、季節によって見られる動物が変わるんです。普通、動物園というと、外国などから動物を持ってきてお見せするのですが、ビオトープはそうではない。こんなふうに動物は暮らしているんだなと分かるものなんです。今は、都市化が進み、なかなか自然の中にこんな動物がいるんだということが分からなくなっています。ビオトープを見ると、こんなところにこういう動物がいるんだとかが分かるわけです。そうした、知ることのきっかけづくりをしている取り組みは非常に良いなと思って、『いきもの広場』と呼ばれるビオトープがある井の頭自然文化園を紹介しました。でも、他の動物園もみんな素敵ですよ」

蟹江 「生態系とか、森とか、木とかって、一番身近にある話ですよね。それが、われわれの健康であるとか、街の在り方であるとか、いろいろなことにつながっている。ぜひ身近なところからSDGsを考えることを、これをきっかけに始めてもらえればと思います」

剛力 「今回は目標15についてお話してきましたが、なかなか外に出づらい状況の中、外に久しぶりに出たときに夏の香り、春の香りとか、そうした自然の香りを感じたときの意識がすごく変わりそうな気がします。今までは、季節のことを思っただけだけど、これを守っていくためには自分が何をできるんだろう・・・みたいなことを考えるきっかけになりそうです。蟹江先生もおっしゃっていたように、身近なものをもっと気にしたいと思うようになりました。動物園も、これからどんどん環境が変わっていくのかなと思うと、すごく楽しみになりましたし、ただただかわいい動物に会いに行くだけではなく、動物はどんな状況で自然界の中でどういうふうに暮らしているのだとか、そうしたことを学ぶためにもあるんだなというのを改めて感じました。動物は大好きなので、もっと詳しくなりたいし、共存できる環境にしていきたいなって思います」

SDGsが掲げる17の目標全てに影響を及ぼすといっても過言ではないのが“生物圏”の問題。熱帯雨林などの環境破壊をはじめ、ともすると遠い世界のことのようにも思いがちだが、身近にある自然の息吹を意識して感じることが、今回のテーマを“自分事”として捉えるきっかけになりそうだ。

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