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【書籍連載】「かっこいい」から人が動く?ソーシャルアクションの舞台裏とは(第2回)

【書籍連載】「かっこいい」から人が動く?ソーシャルアクションの舞台裏とは(第2回)

#SHOW CASE
  • 貧困をなくそう

株式会社サニーサイドアップグループおよび同社代表取締役を務める次原悦子氏の著書『2030年を生き抜く会社のSDGs』(青春出版社)から、SDGsの原点やこれからについて4回にわたる連載企画。今回はホワイトバンドプロジェクトの舞台裏についてお届けします。

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【書籍連載】『2030年を生き抜く会社のSDGs』から読み解く、SDGsの原点とこれから(第1回)

ホワイトバンド運動の動画を見て受けた衝撃

SDGsという言葉がまだなかった頃、私たちがはじめて会社として、自ら何かのアクションを起こしたのは、2005年の「ホワイトバンドプロジェクト」という貧困撲滅キャンペーンです。
その年の春、私はある衝撃的な動画を見ました。何気なくネットを見ていたら、イギリスBBCのウェブページで、キャメロン・ディアス、ブラッド・ピット、トム・ハンクスといったハリウッドスター、サッカー選手のデビッド・ベッカム、マイクロソフトのビル・ゲイツといった々錚(そうそう)たるセレブリティが、次々に指を鳴らしているのです。画面はモノクロ。彼らは全員白いTシャツを着て、白いリストバンド(ホワイトバンド)をしています。
それを見た私の第一印象は、「かっこいい!」でした。あまりのかっこよさに衝撃を受けた私は興味をひかれ、ウェブページをどんどん読み進んでいくと、私の知らなかった現実を知ることになりました。
世界では、3秒に1人の子どもたちが貧困のために亡くなっているというのです。3秒に1人……。がく然としました。動画で彼らが指を鳴らす間隔が3秒に1度なのは、それを意味していました。
ウェブページには、「これは〝Make Poverty History〟のキャンペーンフィルムである」というようなことが書かれていましたが、恥ずかしながら私は〝Poverty〟の意味を詳しくは知りませんでした。調べてみると、Povertyとは「貧困」のことでした。つまり、 Make Poverty History とは「貧困を過去のものにしよう」という意味でした。
彼らが腕につけていた白いリストバンドは、その意思表示でした。つまり、フィルムに登場していたセレブたちのように私たちも白いリストバンドをつけることで、「貧困をなくしたい」という意思を世の中に表明していこうという運動なのです。

280億円のチャリティ金は、1週間分の利息に消える

少し、時間をさかのぼります。
サニーサイドアップを創業した1985年、ロックミュージシャンであるボブ・ゲルドフの呼びかけによって、「ライヴ・エイド」というアフリカ難民救済のためのチャリティ・コンサートが、ロンドンとフィラデルフィアで同時開催されました。
「ライヴ・エイド」には、U2、クイーン、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、マドンナといった超一流アーティストたちが無料出演しました。日本でも中継されたので、ある世代以上の方の中にはご覧になった方もいらっしゃると思います。
見ていない方も、最近大ヒットした映画『ボヘミアン・ラプソディ』のクライマックス・シーンのライブと言われたら、わかりますよね。また、キャンペーンソングとしてマイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーが作詞・作曲した『ウィ・アー・ザ・ワールド(We Are The World)』という曲はご存知かもしれません。この曲は世界的に大ヒットしました(私もレコ―ドを買いました)。
「ライヴ・エイド」は20世紀でもっとも成功したチャリティ・コンサートと言われ、集まった寄付金は1億2,500万ドル(当時のドル円レートで、約280億円 )に達しました。
ところが、です。日本円にして280億円にもなるチャリティ金でしたが、それでも、アフリカ諸国が先進国に返済する債務の、たった1週間分の利息に過ぎませんでした。貧困を生んでいる仕組みは、寄付だけではどうにもならない、焼け石に水であることが、皮肉にもわかってしまったのです。
では、仕組みごと変えるにはどうすればいいのでしょうか? それは政治を変えることです。
「ホワイトバンドプロジェクト」は、まさにそれ。2005年7月にイギリスのグレンイーグルズで開かれようとしていたG8サミット(主要国首脳会議)に向け、貧困問題に対する「世論」を醸成することが目的の運動でした。

ホワイトバンド運動は、約11兆円分の効果を生んだ

私がホワイトバンド運動の動画に感銘を受けたとき、日本での「ホワイトバンドプロジェクト」は、いくつかのNGO・NPOで構成されている『「ほっとけない 世界のまずしさキャンペーン」実行委員会』が中心となって、キャンペーン展開がスタートしつつあるところでした。
しかし、圧倒的にお金がありません。新聞などに広告を打ったり、印刷物を作ったりする費用はもちろん、その活動資金を集めるために販売するホワイトバンドの制作や流通ノウハウ、なによりそれらを世間に知らしめるPRノウハウを、彼らは持ち合わせていませんでした。

私たちはそこをサポートしたのです。
その時点で、G8サミット開催まで数か月しかありませんでしたが、私たちはまず日本版のホワイトバンドのフィルムを作り、たくさんの文化人やアーティスト、アスリートに登場してもらいました。
そうしてG8サミット開催に間に合う形で日本でのホワイトバンドを発売。初回生産の 30万本は即完売しました。

PRは私たちの得意とするところなので、ホワイトバンドをつけている中田の写真を新聞に掲載してもらい、話題になりました。
テレビのニュースや雑誌などで「中田も賛同しているキャンペーン」として紹介されたことで、クリエイターやアーティストがキャンペーンに賛同してくださり、キャンペーン動画に参加してくれました。ホワイトバンドをつける著名人も増え、街にはホワイトバンドをつけて歩く人の姿も見られるようになりました。
日本でのホワイトバンドは、最終的に600万本近くにもなる、とてつもない本数を売り上げました。
キャンペーンの効果は如実に表れました。

2005年7月、イギリスのグレンイーグルズで行われたG8サミットでは、貧困問題を中心に話し合いが行われ、アフリカへのODA(政府開発援助)を、500億ドル(当時のドル円レートで、約5兆円)増額することが決定されます。また、同年9月に開催された国連ワールドサミットでは、小泉純一郎首相(当時)がアフリカへのODAを3年間で倍にすると表明。そしてさらには、世界銀行とIMF(国際通貨基金)が、貧困国への債務550億ドル(当時のドル円レートで、約6兆円)相当を、債務帳消し、あるいは削減することが決まりました。
つまり世界中で行われた「ホワイトバンドプロジェクト」は、世界の貧困に対する国民の関心を集めることで各国の政府にプレッシャーをかけ、貧しい国の人々のために1,050億ドル分、当時の日本円にして約11兆円分の恩恵をもたらす一つの大きな力となったというわけです。


出典・引用元/『2030年を生き抜く会社のSDGs』(青春出版社)

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