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【書籍連載】世界を救うのは「愛」ではなく「アドボカシー(政策提言)」と「啓発」だった?(第3回)

【書籍連載】世界を救うのは「愛」ではなく「アドボカシー(政策提言)」と「啓発」だった?(第3回)

#SHOW CASE
  • 貧困をなくそう

株式会社サニーサイドアップグループおよび同社代表取締役を務める次原悦子氏の著書『2030年を生き抜く会社のSDGs』(青春出版社)から、SDGsの原点やこれからについて4回にわたる連載企画。今回は「アドボカシー(政策提言)」と「啓発」についてお届けします。

前回の記事はこちらから
【書籍連載】『2030年を生き抜く会社のSDGs』から読み解く、SDGsの原点とこれから(第1回)

【書籍連載】「かっこいい」から人が動く?ソーシャルアクションの舞台裏とは(第2回)

「アドボカシー(政策提言)」と「啓発」こそ、世界を救う

ホワイトバンドプロジェクトが政策決定に影響を与えたのは明らかでした。このように、個人またはグループが、国の政策を変えさせようと訴える、政府に圧力を加えることをアドボカシー(advocacy/政策提言)と呼びます。
アドボカシーは、寄付やボランティアなどとは異なる社会の動かし方です。
私たちが死ぬほどがんばって働き、財を成したり会社を大きくしたりしても、11兆円分のお金なんてひねり出せるわけがありません。世界中に寄付を募ったとしても、11兆円なんてとてもとても。世界的な大成功を収めたという「ライヴ・エイド」ですら、280億円だったのですから。

ホワイトバンドプロジェクトが果たした役割は、いわば「啓発」と呼ぶべきものです。貧困の問題について何も知らなかった私が、ホワイトバンドの動画を見て「知る」ことになったように、何が問題なのかを広く知らせる。それが啓発です。
「白いシリコンのバンドを着けたから、何なんだ?」と言われればまさにその通りなのですが、それを着けることによって、問題を知ることになる。問題を知れば、気持ちが変わる、行動が変わる。それが啓発の効果です。

たとえば、恋人と外を歩いていて喉が渇いてきたと。「コンビニでも行こうか」と言おうとしたとき、恋人のバッグの中からマイボトルが出てきた。「ああ、この人はちゃんと地球のことを考えている意識の高い人だな」と思いますよね。それにキュンとしたり、じゃあ自分もマイボトルを使おうかな…と思ったりするかもしれません。それと同じ。
こうして、影響を受けて行動する人の数がものすごく多くなれば、やがて政策を決める人たちが無視できない「世論のうねり」が形成され、政策決定にまで影響を与えるでしょう。それが政策提言、アドボカシーです。

キャンペーンによって人の気持ちが変われば行動が変わり、その行動が変わることによって、世の中の仕組みが動く。ああ世の中って本当に変わるんだなというのを、「ホワイトバンドプロジェクト」にたずさわることによって私は大いに実感したのでした。

「社会に良いこと」=「自分の身をすべて削って奉仕すること」ではない

ホワイトバンドプロジェクトのキャンペーンは、サニーサイドアップとしては完全に赤字でした。当初は私たち社員の実働分の最低の賃金や交通費だけは実費としていただくつもりでしたが、ホワイトバンドの製作原価(工場に支払う分)と流通費だけをいただき、それ以外はすべて、貧困をなくすための活動費に回したからです。

キャンペーンにのめり込み、600万人の方々にホワイトバンドをつけていただきましたが、バッシングの最中、私たちはそこで利益を取るどころか、マックスで何億円という借金を抱え、自転車操業していたのが現実でした。
そうせざるをえなかった背景には、当時の日本の空気が大きく影響していました。「チャリティ=寄付」のイメージが強かったため、社会貢献や善い行いに「自己犠牲の精神」を求めてくる人が多かったのです。

ここで一つ、強調させてください。
企業がSDGsへの取り組みを行う場合、「自己犠牲」を掲げるべきではないと思います。
自己犠牲はサステナブル(持続可能)ではないからです。
SDGsとも親和性が高い社会貢献的な活動、あるいはソーシャルグッドな活動は、1 回限りで終わっては意味がありません。継続できなければ、社会の大きな仕組みを変えることができないからです。

ある問題に対してずっと本気で取り組む、応援するためには、その事業がサステナブル (持続可能)でなければなりません。100メートルダッシュのような筋肉の使い方で、フルマラソンは走りきれませんよね。自分の身を削らなければできないような活動は、サステナブルとは言えないでしょう。

自腹を切る寄付やボランティア、財をなげうつような自己犠牲の精神はもちろん素晴らしいことだと思いますが、それには限界があります。ですから、企業がSDGsへの取り組みを念頭に置いてソーシャルグッドな活動をする際には、きちんとビジネスベースに乗せるべきではないでしょうか。

適切な利益を確保し、連携をとって一緒に進める会社があれば、どちらかが負担をかぶることなく双方がウィンウィンになるような、つまりビジネスとしてちゃんと成立するようなスキームを心がける。誰かの犠牲のもとに成り立っているものは、それが見た目にいかに素晴らしいソーシャルアクションであったとしても、長続きはしないものです。ただ残念ながら、日本では企業の社会貢献の文脈で「ビジネス」という言葉を使うと、儲け主義のように受け取られて嫌われることがあります。

また世の中には、「あなたたち企業は儲かってるんだから、寄付しなさいよ。それが企業の責任でしょう」というふうに言ってくる方もいらっしゃいます。

しかし、それは筋違いだと思います。まず儲かっている会社であれば、法人税を払います。これも立派な社会貢献です。寄付と同じ価値があります。私は、サステナブルな社会貢献は、まっとうなビジネスでなければならないと思います。

SDGsを意識したビジネスを手掛ける際には、このことをまず念頭に置くべきでしょう。大事なのは持続可能、サステナブルであること。だからそのためには、ちゃんと利益を確保してください。それがソーシャルビジネスというものです。
繰り返しますが、寄付やボランティアも大事です。今すぐに現金を必要とするケースは世の中に多々ありますし、それ自体を否定はしません。
でも現実的に、普通の企業が「世界で困ったことが起こっているから、何億円寄付します」なんてこと、できないですよね。しかし、その効果に匹敵するアクションはビジネスベースでも可能だと私たちは信じています。

「啓発」こそが、人々の意識を変えていく

直接的な寄付よりも啓発キャンペーンのほうが効果が高い。それは「ライヴ・エイド(約280億円の効果)と「ホワイトバンドプロジェクト」(約11兆円分の効果)に、如実に表れていました。後者は、投資用語で言うところのレバレッジ(少ない元手で大きな投資効果をあげること)を彿彷(ほうふつ)とさせます。

近年、啓発キャンペーンとしてもっとも成功したのは、2014年にアメリカではじまり、日本にも波及した「アイス・バケット・チャレンジ」ではないでしょうか。これは、筋(きん)萎縮性側索硬化症(ALS)の研究を支援するためのキャンペーンです。

「アイス・バケット・チャレンジ」のルールは、以下のようなものです。
ルール1:バケツに入った氷水を頭からかぶり、チャレンジを受けてもらいたい人物を指名。その動画をSNSで公開する。
ルール2:指名された者はチャレンジを受けるか、100ドルをALS協会に寄付する。あるいはその両方を行うことを、24時間以内に決断する。

一説によれば、世界での参加者は2,800万人以上、シェアされた動画は240万本以上にのぼったとのことです。フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグがマイクロソフト元会長のビル・ゲイツを指名したり、日本でもソフトバンクの孫正義さんはじめ多くの経営者、著名人、文化人などが参加したりして話題になりました。

ALS協会によれば、このキャンペーンによって過去に例のない莫大な金額の寄付が集まったそうですが、大事なことは寄付金額そのものではありません。
ALSという病気について、みんなの関心を集めたということです。
「アイス・バケット・チャレンジ」にも、「ホワイトバンドプロジェクト」と似た批判がありました。曰く、単に著名人の見世物的なパフォーマンスにすぎず、ALS治療のための直接的な貢献は果たしていないのではないか、と。

しかしこのキャンペーンの第一目的が「啓発」なのであれば、その役割は十分に果たしたと言えるでしょう。著名人のパフォーマンスだろうがなんだろうが、「あんな人も参加したらしい!」ということがニュースで大々的に取り上げられ、動画がネットでバズることによって、ALSという病気を知らなかった人が関心を持ち、知るようになりました。それが「アイス・バケット・チャレンジ」最大の功績です。

何か解決すべき大きな問題があっても、多くの人に知られていなければ、問題はいつまでたっても解決しません。知らなければ人は動きませんし、人が動かなければ世の中の仕組みは変わりません。私がホワイトバンドの動画を見て初めて貧困のなんたるかを知り、動いたことはその典型です。

「このビデオ、かっこいい!」「中田が腕に白いバンドを巻いている。これって何?」。そうやって、みんなにネットで検索してもらう。それでいいのです。そういうきっかけがなかったら、誰も世の中の問題に見向きもしません。関心を「0」から「1」に持っていくこと、それは十分に意味のあることなのです。


出典・引用元/『2030年を生き抜く会社のSDGs』(青春出版社)

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