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映画「優しい戦士たち」から考える。女性も戦場へ行くことが真の男女平等なのか

映画「優しい戦士たち」から考える。女性も戦場へ行くことが真の男女平等なのか

#TREND
  • ジェンダー平等を実現しよう

2014年から対立を続けるロシアとウクライナ。過去にソ連の一部であったリトアニアは、この紛争を受けて2015年に徴兵制度を復活させています。9ヶ月間の徴兵の対象となるのは、18~23歳の男性です。その中で、自ら志願兵となった5人の女性を追ったドキュメンタリー「優しい戦士たち リトアニア徴兵制復活」(2020年製作)が2022年7月に日本初公開となりました。

戦争は世界の女性たちにどういった影響を与えているのか。戦争で一番苦労をするのは徴兵される男性だけなのか。女性も戦場へ行くことが、男女平等なのか。国連や現地メディアが報じてきたジェンダー像を振り返りながら、映画に映し出された「女性志願兵」のあり方を考えていきます。

戦争が男性・女性・性的マイノリティにもたらす影響

戦争を記録した写真や映像を思い浮かべると、兵士は男性、子供や老人を連れて逃げるのは女性、といったイメージが浮かぶのではないでしょうか。現在では女性兵士も増えているものの、ウクライナでは18歳から60歳の男性が国外に出ることを禁じられるなど、戦争が男女に与える影響はそれぞれ大きく違っています。国連は今年5月から継続して今回のウクライナ侵攻によるジェンダー別の影響をまとめたレポートを出しています。
レポートでは、例えば、学校や病院の閉鎖による女性の無償ケア労働時間の増加が報告されています。女性の多くは仕事で収入を得る傍ら、介護や子育て、子供たちの教育、さらには避難民のケアなど地域のためのボランティア活動に関わっています。
こうしたケアの負担が大きい女性は、移動の難しい障害者や老人を連れて避難をすることが難しく、国外など距離のある避難を諦めることがあります。現地メディアによると、日常的な防空壕へのアクセスも難しく、夜中にサイレンが鳴った時には防空壕ではなく家の廊下に身を潜めるとインタビューで答えた母親もいます。

また、避難をしても、その先に安全なシェルターがあるとは限りません。女性は性暴力などの被害に遭う可能性が高く、安全な避難場所をみつけるのが困難な現在の状況は非常に危険です。生理用品、清潔な水へのアクセスの欠如から、月経時の衛生状況の不安を訴える人も多くいると報じられています。
しかし、こうした理由から避難所やシェルターは女性や子供を優先して受け入れることが多いため、男性が避難先を見つけにくいという影響もあることが同レポートでも報告されています。また、性的マイノリティの多くも、偏見から避難場所へのアクセスを断られることがあるそうです。

このように、戦争では既存のジェンダーやセクシャリティに基づく役割分業意識やステレオタイプがさまざまな形で顕在化し、男女それぞれに、また性的マイノリティにさまざまな課題をもたらしています。だからこそ、こうした分野の政策や支援においてもジェンダーの視点を持つことが全ての人の命と尊厳を守るために必要不可欠だと言えます。
しかし、戦争に出る人と残る人と、そもそもジェンダーで役割を分類することが当たり前となっている戦争の仕組み自体が変わっていくことはないのでしょうか。

ジェンダー像を強化する軍と徴兵制度

今回の戦争では、ウクライナで徴兵の可能性がある18歳から60歳の男性が出国禁止となりました。Pew Research Centerによる調査では、2019年時点で徴兵制度のある60カ国のうち女性も徴兵されるのは11カ国との結果が出ており、世界的にも徴兵は男性を対象としたものであることがわかります。

志願をすれば女性でも軍やそれに準ずる組織に入ることができる国は多くありますが、制度のもとで平等な扱いを受けられない国も多くあります。例えば日本の自衛隊は1993年に女性に全職域を開放しましたが、陸上自衛隊の有害物質を扱う特殊武器(化学)防護隊の現場部隊などにおいて女性の配置制限が残っていました。また、アメリカ軍でも、2015年まで主に陸軍と海兵隊で女性の戦闘への参加が幅広く制限されていました。

専門家の間では、このように男性のみが徴兵される制度や、戦闘や危険な業務から女性を排除するルールは、男性らしさ・女性らしさのイメージを生産するという考えも多く見られます。
例えば、軍隊を男性のスペースとして構築することで、女性は男性に守られるべき存在、さらには国家にまつわる重要な事柄に関わるにはふさわしくない存在だという女性のイメージが生まれます。男性は全くその反対で、理想的な男性像として強さや権力を持つ男性がイメージされるようになるという指摘があります。
しかし、こうした指摘を受け、軍における女性の制限を緩和している国は増えています。2014年には、NATO加盟国の約30%が女性の軍活動に一定の制限を設けていましたが、2016年にはその数は3.7%まで減っています。今回のロシアとウクライナの戦争においても、現地メディアによると、ウクライナからは約5万人の女性兵士が志願し、うち約1万人が前線で戦闘に参加していると報告されています。多くの女性兵が女性らしさのイメージを破り兵士として活躍をしているのです。

映画「優しい戦士たち リトアニア徴兵制復活」が映す女性志願兵の姿

こうした男性中心の軍隊に志願兵として入隊した女性を追ったドキュメンタリー映画があります。

「優しい戦士たち リトアニア徴兵制復活」。この映画では、2014年のウクライナ紛争を受けて徴兵制を復活させたリトアニアで、9ヶ月間の徴兵制度に志願兵として入隊した5人の女性を描いています。

彼女たちは男性がほとんどの軍隊の中で、もちろん男性と同じトレーニングをし、共に訓練に参加します。あるシーンでは、彼女達が『パブにいた俺は!…ジョッキを3つ割った!…女の子をナンパした!』と強く乱暴な男性をイメージさせるチャントを共に歌い仲間意識を高める様子が描かれています。男性中心の軍隊の中で、女性兵達は男性らしく振る舞うことで一人前の兵士として認められるかのような印象を受けます。
劇中に「男にチヤホヤされたいから軍隊に入ったと思われたくない。男と同じくらい何でもできる女…そう証明したくて入隊したわけじゃない。私がここにきた目的は技術と知識を学んで祖国を守れるようになるためだって分かってほしい」といった女性兵の言葉があります。本人たちが一番、男性と違った存在として比べられるのではなく、一兵士として認識されたいのではないでしょうか。
軍隊に参加する女性も、それ以外の女性も、女性であるということにより、一般的にイメージされる戦争の体験とはまた違った、あるいは増幅された試練の前に立たされているようです。

ウクライナのファーストレディ、オレナ・ゼレンスカ氏は自身のインスタグラム(@olenazelenska_official)で、全ての女性たちに向けて以下のようなメッセージを送っています。
素晴らしい同胞たちに敬意を表したい。武器を手に戦う女性たち、防衛に志願した女性たち、看護や救護、兵站活動に従事する女性たち。日常生活を維持するために薬局、商店、交通機関、公共サービスなどで普段通り仕事を続けている女性たち。子供たちの意識が戦争に向かないよう、ゲームやアニメで楽しませてくれる保育園へ毎日、平常心を失わずに連れて行く女性たち、爆撃の下で出産する人たち。

さまざまな形で戦争と戦う全ての女性に敬意を示しつつ、ジェンダーによる女性の苦しみがより正確に認識され、対策されることを願います。

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