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【話してみた】アート作品を壊す環境活動家、いま私たちは何を思うべきか

【話してみた】アート作品を壊す環境活動家、いま私たちは何を思うべきか

#TREND
  • 気候変動に具体的な対策を

環境活動家による抗議活動の一環で、アート作品への被害が続いています。以前からこうした抗議活動は定期的に実施されていましたが、特に話題を呼んだ一件として、2022年10月にゴッホの「ひまわり」にトマトスープがかけられた件が挙げられるでしょう。以降、モネやピカソ、クリムトなど、時代を超えた著名なアーティストの作品がターゲットとなっています。
日本国内のSNSでは、こうした環境活動家に対する拒否反応が多く見られます。「社会的制裁を与えるべきだ」「どこが環境活動なのか全く理解できない」など、過激な抗議活動はネガティブな感情の引き金となっているようです。読者のみなさんは、この件をどのように受け取られましたか?
驚くことに、ゴッホの「ひまわり」が被害にあった英国で抗議活動後に行われた世論調査では、環境保全を目的とした非暴力的な抗議活動に賛同をする人が66%という結果が出ています。アート作品をターゲットにした抗議活動は、正当なものとして広く受け止められているのです。
今回は、両国の環境活動家の捉え方の違い、そして抗議活動のあるべき形について、英国と日本の両方にバックグラウンドを持つアーティスト EARTH01とZ世代編集部が話し合ってみました。


Photo by 加藤雄太

バーンピアース/ EARTH01
2022年デビューしたハーフアイルランド、ハーフ日本人のアーティスト。東京生まれ、香港育ち、ロンドンの大学で人類学と生態学を専攻して、今は音楽とSDGsのつながりを冒険しています。12月17日に新しい曲 ‘HIT ME UP’ がリリースされたので、ぜひ楽しんで聞いてください!

「義務」としての環境活動

ー 今回のトマトスープの件、周りの人の反応はどうでしたか?

イギリスでは、もちろん悲観的な意見もありました。例えば、「こんなことをしても石油会社の採掘を止めることはできないだろうし、政府がお金を出すのも止められないだろう」とか。でも、反対に、「抗議活動として非常に効果があると思う」という意見も多く聞きました。良い悪いに関係なく、人々の話題になったのは事実なので、環境活動に注目を集めるための強力な戦略だと話す友人もいました。
ただ、もう少しポジティブな形で人々の話題に上がる環境活動も必要なのでは、と思っている人も多いようでしたね。イギリスでは今回のトマトスープの件を起こした「Just Stop Oil」という団体の運動以前にも、「Extinction Rebellion」という団体がすでに過激な運動を繰り返していて、市民からかなり多くの否定的な意見を集めてきました。道を通行止めにするとか、スプレーで落書きをするとか。

ー でも、数字を見ると、非暴力的な抗議活動に対して肯定的な人が50%を超えているようですね。イギリスは以前から環境活動が多かったから、比較的受け入れられやすいのですかね?

確かに、イギリスではこうした環境にまつわる抗議活動が深く根付いています。気候変動の始まりは1800年以降の工業化で、その原因は主にイギリスをはじめとした西洋の国々にあるといえますよね。だからこそ、イギリスの若者の中には罪悪感を感じたり、それを修復する義務があると感じたりしている気がします。

ー 確かに。少し話が逸れますが、イギリスでは「ポストコロニアリズム」という単語をいろいろな文脈でよく聞きます。過去の過ちを修繕していく、というのが欧州の人の意識には染み込んでいるようですね。日本では環境活動に対してそうした責任感はあまり共有されていないですね。

そうですね、ゴッホの「ひまわり」の件も、日本に暮らす人とは日常であまり話題にならなかったんです。COP27が開催されていた時も、一度もその話をすることがなくてびっくりしました。

日本で環境活動家になるのは難しい?

ー 日本は環境活動にあまり関心がないのでしょうか?

機会と環境が整っていないだけで、関心はあるんじゃないですかね。日本では、イギリスに比べて活動家になることがあまり一般的なことではないように思いますし、サステナブルな生活をすることも難しいと思います。特にロンドンと比べると、植物由来の代替品の少なさやリサイクルショップの少なさが目立ちます。ただ、最近下北沢ではヴィーガンのお店がトレンドのような形でうまく取り入れられて、若者の間で流行っていますよね。そうしたお店がアクセスしやすくなれば、サステナブルな生活をする人は増えるのではないでしょうか。
日本文化を振り返ってみても、金継ぎや風呂敷など、伝統的な生活様式の中に持続可能な暮らしの方法がたくさんありますし、神道のように自然を崇拝する宗教もありますよね。自然と向き合うポテンシャルは大いにあると思います。
ただ、半年前に日本に引っ越してから僕が感じたこととしては、日本に暮らす人はみな、個人的な考えを少し抑えているように思います。社会の中で、周りから避けられたくない、否定的にみられたくないという気持ちが強いような。環境活動家のように何かアクションを起こすというのは、議論を呼ぶような発言や少し人と違った行動をするわけですから、まさにその立場になるわけですよね。もちろん、そうした周りに合わせる文化も時代と共に変わってきたし、今後も変わっていくと思いますが。

ー 確かに、環境活動家のように声を上げる人は、価値観が違う人間として距離をおかれることも多いですよね。「じゃあ無人島にでも行って電気も使わず暮らしてろ」とかいう批判を見ると、環境活動家個人の問題じゃなくて、私たちも含めた社会全体の問題なのにと思ったりします。

そうした批判も、もちろん一理あると思いますけどね。You have to walk the talk (=言ったことはやれ)と言いますし、何かを主張するからにはそれに基づいて行動する必要があります。ただ、生活における全ての側面を根本的に変えるのは難しいことです。僕も、良くないとわかっていてもたまには安いブランドの靴を買ってしまったりする。でも、だからこそ私たちは皆、自分の役割を果たす必要があるといえるのではないでしょうか。一人ですべてをできるわけではありません。

ー 今後日本で環境活動を進めるには、過激なものよりも日本の文化や日本人の感覚に沿ったものがいいのでしょうか?

どちらともいえると思います。私たちには時間がないので、やはり危機感を持つ必要があります。急進的な環境保全にはトップダウンの変化が必要で、政府が積極的に気候政策を進めていく必要があります。しかし、それがクリエイティビティを伴って日本の芸術や伝統等と組み合わせられればなお良いと思っています。 

環境活動には、良い側面も悪い側面も

ー アーティストとしてアートが抗議活動のターゲットにされていることはどう感じていますか?

僕は、実は彼らがやったことは本当に美しいと思っています。タイムスタンプというか、歴史が刻まれたというか。「環境活動家により破壊されたゴッホの作品」というのは、アートに新たなレイヤーを加えています。アートは時代の中で常に更新されていくものだと思うので。ちょっと肯定的すぎるかもしれませんが、もし私が将来この作品を見たら、きっと今の時代の環境保全に対する緊急性を肌で感じることができるでしょう。

ー そもそも、正しい抗議方法ってあるんですかね。

全てのことには意味があると思っています。破壊行為や道路を止める行為は社会から否定的に捉えられがちですが、確実に社会変化への役割を担っています。ただ、こうした過激な活動が最終的な解決策だとは思っていません。正しい、正しくないはないと思うけれど、もっとポジティブな形の抗議活動が必要な時期が来ているのだと思います。

ー わたしは倫理的には、こうした過激な抗議活動もありだと思っています。実際に途上国で洪水が起きて人が家を失っている状況で、「どの抗議活動は許容範囲だろう」とかいっている場合じゃないと思うんです。

確かに、ポジティブに変えていかなきゃ、というのは楽観的すぎる考えかもしれませんね。平和的にポジティブにアプローチをしても、どうでもいいと思っている人たちは変わってくれないかもしれません。汚染し続ける企業、安い労働力で人々を雇い続ける企業、とか。正直なところ、それをどう変えていけば良いのかまだあまりよくわかりません。ただ、過激な抗議活動と平和的な抗議活動は白か黒かではなくてグラデーションの上にあるような気がします。

ー 様々なアプローチを探りながら、早急な変化を求めて活動を続ける必要がありそうですね。

イギリスのアート紙「frieze」は、「ひまわり」スープを投げた二人にインタビューをし、その主張に耳を傾ける記事を公開してます。
インタビューの中で彼らは、「パキスタンでは3300万人が洪水で家を失い、東アフリカでは3600万人が飢饉で苦しんでいます。にも関わらず、今回2人の若者が絵にスープを投げつけただけで、人々は今まで見られなかったほどに気候変動について活発に話すようになりました。…今、途上国に住む何百万もの人々は保護されておらず、将来の世代も、若い私たちの未来も保証されていません」と述べています。
環境活動家の抗議活動は、我々に大きな驚きや疑問をもたらすものかもしれません。しかしこの機会にこそ、環境活動がなぜこれほどまでの緊急性を要したのかを学び、このような過激な活動が続かなくても良いように一人一人がそれぞれの役割を果たす必要があるといえるでしょう。

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