【ベストセラーも禁書に】米国の学校から本が消える?禁書運動が深刻化。
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禁書「banded book」という単語を聞いたことがありますか?有名な禁書といえば、ナチス・ドイツの独裁者ヒトラーの自伝『我が闘争』。長年にわたって、ドイツ国内では「禁書」として扱われ、著作権が失効した2015年に学術的な注釈付きで再出版されました。
今、アメリカでは公立学校や図書館の教育現場から次々と本が消えていく現象が広がっています。米図書協会によると、2021年に学校や図書館の蔵書に対して出された異議申し立ては過去最高の729件にのぼり、1597点が排除・規制の対象になりました。(出典:https://current.ndl.go.jp/ca2029)
アメリカの禁書は、成長過程において悪影響を及ぼす可能性があるという教育上の観点で公共の学校や図書館から排除されており、発売禁止ではないため、本屋に行けば購入すれば読むことができます。実際に、筆者も2022年にオレゴン州に行った際に本屋にて、「Banded Book」というコーナーを目撃しました。日本でもよく読まれている、イギリスの作家ジョージ・オーウェルの『動物農場』も教育現場においてBanded Bookとなっています。
どんな本が対象?禁書になりやすいテーマの傾向
文学と表現の自由の推進団体「ペン・アメリカ」によると、Banded Bookのうち、41%の本の主要登場人物が有色人種であり、33%がLGBTQをテーマとし、22%が人種・人種差別を扱っているとレポートがありました。また、保守的な保護者などが禁書の異議申し立てが行われる本には下記のような共通のテーマがあります。
•LGBTQの話題やキャラクターが登場する
•性、中絶、10代の妊娠や思春期に関係する
•人種差別的要素が含まれている
•黒人の歴史に関するテーマ
なかには、禁書にすること自体が差別を助長しているように見える本ばかりです。なぜ上記のようなテーマが教育に悪いのでしょうか?それは、アメリカならではの政治的背景が要因のようです。禁書運動が活発になった理由の一つには、近年、同性婚が認められるなどLGBTQへの理解が進み、多様な人種・文化を認める動きによって学校の本棚にも多様性を扱う本が増えていることがあげられます。特に、政治的な観点で伝統を重んじるキリスト教徒が多い保守派は多様性を受けいれていく大きな流れに、不満を募らせており、保守派が多くいるフロリダ州などでは申し出が多い傾向が見られます。
2022 年に禁書として申し立てられた書籍3つ
『ジェンダー・クィアある回想録』 マイア・コバベ 著
LGBTQがテーマの書籍で露骨な性的描写が問題視されて、151件の申し立てがありました。
『オール・ボーイズ・アレント・ブルー』ジョージ・M・ジョンソン 著
ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーにも輝いた、著名なジャーナリストでLGBTQIA+の活動家である筆者の幼少期、思春期、大学時代をエッセイで描いているLGBTQがテーマの書籍。性的描写の観点から86件の申し立てがありました。
『ザ ブルー アイズ』トニ・モリソン 著
11歳の黒人の少女が主人公の人種、階級、そしてジェンダーについて問いかけている全米ベストセラー。性的虐待の観点から73件の申し立てがありました。著者のトニ・モリスンはノーベル文学賞の受賞者です。
Banded Book Week(禁書週間)
言論の自由と同じく、読書にも自由があるべきだと訴えている人も多くいます。1982年よりスタートし、毎年開催される「Banded Book week」という啓発キャンペーンでは、「読みたい本が読める自由」を得られることをメッセージに活動を行っています。2023年は2023年10月1日から7日まで開催が決定されています。
画像出典:https://bannedbooksweek.org/
日本では聞き馴染みのない「禁書」ですが、過去の歴史や現代の課題を書籍を通して学ぶことも多いのではないでしょうか。まだまだ落ち着かないアメリカの書籍にまつわる論争に注目です。