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“読めない”本を”読みたい”人のために。芥川賞「ハンチバック」から考える「読書バリアフリー」

“読めない”本を”読みたい”人のために。芥川賞「ハンチバック」から考える「読書バリアフリー」

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7月19日、第169回芥川賞の受賞作が発表されました。著者は、人工呼吸器と電動車椅子を常用する市川沙央さん(43)。自身と同じ難病を患う主人公を描いた小説「ハンチバック」の受賞によって、作品の内容だけでなく、当日の記者会見場での市川さんの発言にも大きな関心が集まることになりました。市川さんが一番訴えたいことは、すべての人が自由に本が読める環境を整備する「読書バリアフリー」。小説内の主人公も同じく障害により思うように読書ができないことに苦しむ様子が描かれています。加齢による衰えなどから、障害者の方だけではなく誰もが直面する可能性のある「読書」についての大きなハードル。
今回はこの「読書バリアフリー」について深掘りします。

第169回芥川賞受賞作「ハンチバック」

ハンチバックとは背中が曲がった猫背状態のこと。親が残したグループホームで暮らす重度障害者の主人公・釈華(しゃか)は、背骨がS字に曲がる疾患を患いながらも、ライターとしての仕事やSNS、小説サイト投稿などを通して、自らの言葉で発信活動をしています。そんなある時、「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」という固定ツイートに対して、とある男性ヘルパーが興味を示し、思わぬ行動に出るというところから展開していくストーリーです。登場人物の際立った個性や今まで知らなかった世界に触れることのできる小説。そして、現代社会の抱える課題である障害を持つ人との接し方、またバリアフリーについても深く考えることのできる作品となっています。
市川さんは、他国と比べた際の、日本の読書バリアフリー化の遅れについて指摘をしています。その中で今回、執筆活動も行う重度障害者の主人公を設定し、自分自身を投影させながら書くことで、電子化の遅れなど、障害者の読書がなかなか想定をされていない現状に問題提起を行いました。

「読書バリアフリー」とは?

読書バリアフリーを知っていますか。視覚障害者や読字に困難がある発達障害者、寝たきりや上肢に障害があるなどの理由により、書籍を持つことやページをめくることが難しい、あるいは眼球使用が困難な身体障害者が自分に合った方法で読書できる社会の実現を進めることをいいます。この実現を目指すにあたり、2019年6月21日、衆議院本会議において「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法)が可決・成立。同28日に公布・施行されました。さまざまな障害のある方はもちろん、障害の有無に関わらず、すべての人が読書による文字・活字文化の恩恵を受けられるような社会を目指しています。 

様々な書籍の形

実際に、読書バリアフリーを実現すると言われる書籍にはどのようなものがあるのでしょうか。一部を見ていきましょう。

・大活字本
目の見えにくい方にも読みやすいよう、大きな文字で書かれている本。

・LLブック
やさしい言葉で分かりやすく書かれた本。ピクトグラム(絵文字)や写真・図を使って理解を助けている。

・布の絵本・さわる絵本
布・革・毛糸などを用いて作られた絵本で、触って絵の形が分かるようになっています。ボタンをとめたり、ひもを通す仕掛けがあり、楽しみながら読むことができる仕組みです。

・マルチメディアDAISY
文字や画像をハイライトしながら、その部分の音声と一緒に読むことができます。パソコンやタブレットなどを使って再生し、文字の大きさや背景の色も変えることが可能です。

・電子書籍
目の見えにくい方などに配慮し電子化した書籍。パソコン・スマートフォン・専用機器を使って、目次から読みたいページに移動したり、文字の大きさ・色・フォント・背景の色を変えることができます。内容を音声で聴くことができるオーディオブックも増えてきています。

遅れている日本の「読書バリアフリー」化

多様な書籍が広がっているにも関わらず、日本における「読書バリアフリー」の認知度の低さや取り組みが遅れているという問題点は市川さんを始め、多方面から指摘する声が多く上がっているのが現状です。読書バリアフリー法の施行から4年が経ちましたが、まだまだ紙版のみでの刊行となっている専門書などは数多く、書店自体も狭い通路、段差、高い位置に置かれている本など、バリアフリー化の面では問題が山積みです。こういった状況から「読書バリアフリー法」が目指す、”すべての人が自由に本が読める環境”に到達するのには、まだまだ時間がかかるといえます。
また、 学校図書館等における読書バリアフリーコンソーシアムによる学校図書館における体制や図書・データの共有について実態を調査したアンケートによると、特に特別支援学校における学校司書がゼロのところも多く、図書購入費の予算も通常の学校の半分以下。バリフリー図書の蔵書状況もとても少ないという状況が分かりました。

読書好きの中には、「老眼が進んでしまったので本が読めない」、「仕事や育児で本を読む時間が取れない」といった理由で読書を諦めてしまっている方も多いのではないでしょうか。「読書バリアフリー」は障害を持つ方のケースだけではなく誰しもの生活に関わってくる問題と言えます。今回の「ハンチバック」の芥川賞受賞により、読書バリアフリーの認知が広まり、この現状が打開されるきっかけになることを願っています。

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