“SDGs”と“企業”をもっと近づける!SDGs MAGAGINE

暑さで亡くなる人は災害で亡くなる人の5倍!?気候変動はわたしたちの“健康”に直結。日本で初イベント「ランセット・カウントダウン」プレゼンテーション

暑さで亡くなる人は災害で亡くなる人の5倍!?気候変動はわたしたちの“健康”に直結。日本で初イベント「ランセット・カウントダウン」プレゼンテーション

#SHOW CASE
  • 気候変動に具体的な対策を

今年、世界は過去10万年で最も高い気温を観測し、日本でも各地で最高気温30°C以上の真夏日が過去最⻑を記録、 35°C以上の猛暑日も過去最多を更新しました。
12月になっても冬とは思えないほどの暖かい日が続き、なんとなく地球が変わってきていると感じる方も多いかと思いますが、実はこのままだと私たちや、未来の子どもたちにも健康被害が及ぶかもしれないということをご存知でしょうか。

世界的医学誌『ランセット(The Lancet)』が主宰する気候変動と健康に関する国際共同研究事業、「ランセット・カウン トダウン*(Lancet Countdown)」は、気候の変化に伴って健康上のあらゆる側面が悪化し、気候変動対策がこれ以上遅れれば、健康への脅威がより深刻なものになる可能性があると結論づけ、この状況に警鐘を鳴らしています。

そこで今回11月30日開催の国連気候変動枠組条約の第28回締約国会議(COP28)に先駆けて同月15 日に発表された、「ランセット・カウントダウン 健康と気候変動に関する 2023 年報告書」に付随する、ランセット・カウントダウンとして初めての日本イベントが開催されたため参加してきました。

気候変動による健康被害や医療現場の状況について、第一線で活躍する専門家が大集合!

今回のイベントにはシドニー大学から「暑熱と健康」について研究を続けている教授 オリー・ジェイ先生や、日本で気候変動と健康について研究する第一人者、東京大学大学院 医学系研究科 国際保健政策学 教授 橋爪 真弘先生を筆頭に、6人の気候変動や健康問題に関する専門家が集結。

第一部では、「ランセット・カウントダウン 健康と気候変動に関する 2023 年報告書」が示す気候変動が健康に与える影響の最新知見を概説し、特に日本で顕著な影響について掘り下げる基調講演を、第二部では、子どもの健康問題としての気候変動について専門家によるパネルディスカッションを行いました。

今回は特に第一部の基調講演の様子をリポートします。

赤ちゃんにも影響の可能性!多くの人の健康を脅かす熱ストレスとは?

まず初めに講演はランセットグローバルリポートチームを代表して今回の講演に参加していたシドニー大学教授 オリー・ジェイ先生から2023年度の報告書について紹介。異常に続く猛暑について、子どもから高齢者まで全ての人の健康に影響をもたらすことや、熱ストレスの悪化、さらには将来的には気候変動が労働時間の損失までに影響があることを示しました。

「1986年から2005年に比べて年間平均で熱波の数は108%増加。特に2022年、都市部では1986-2005 年と比べて、人間は世界平均の 3 倍となる夏の平均気温の上昇にさらされました。さらに熱に関連する死亡率は過去5年間で人々は健康を脅かす高温を年間平均86日間経験しています。」

では実際に、危険な暑さを経験することで体に何が起きるのか。オリー教授は熱中症だけでなく高齢者、さらに妊娠中の方にとってはお腹の赤ちゃんにも深刻な影響があると話します。

「オーバーヒートすると体に何が起きるのか。熱中症以外だけでなく、心臓血管の疾病がある人は、よりそのリスクが高くなります。
例えば心臓血管の疾病がある人は体が皮膚の表面まで心臓が血液を回さなければいけないのに能力が低くなってしまう。それによって心臓血管の疾病のリスクが非常に高くなる。
脱水そして腎疾患の基礎疾患がある人はさらにより多くのリスクを抱え、慢性腎不全等の腎臓の疾患が悪化する可能性があります。
さらに女性が妊娠中に猛暑を経験することで、死産や早産などといったリスクが高まることが分かっています。
また、生物学的に体が熱くなった時には発汗するということが必要になりますが、高齢者の場合は発汗力が弱っているための他の基礎疾患が組み合わさると、熱によるストレスが悪化します。」

暑さは健康だけでなく「労働力」にも影響

また、オリー先生の解説によると、この暑さは健康だけでなく労働力にも大きな影響があるのだとか。

「人の健康やウェルビーイングに気候変動が影響を及ぼすというだけではなく、経済にも影響を及ぼすということが分かっています。例えば、労働力の喪失。熱によって人の動きが緩慢になる、あるいは、仕事をやめてしまうということによって、潜在的にその労働時間の損失があります。特に農業は日射の元での仕事、綺麗な飲み水へのアクセス制限などという点で労働力に大きな影響があります。」

オリー先生は、「重要なのは、健康中心に据えた気候変動対策を行なっていくこと。どこに住んでいようと、どのような環境に置かれている人であろうと、全ての人に豊かな未来をもたらせるからです。
例えば化石燃料の段階的廃止の加速や、エネルギー部門と食料システムの対策を優先すること、そして健康と気候変動に関する知識を拡大し続けるために、リソースや支援を増やさなければなりません。」と解説し、今回発表されたランセット・カウントダウンの報告書をもとに警鐘を鳴らしました。

熱中症や熱波は災害

次に東京大学大学院 医学系研究家国際保険政策学教授 橋爪真弘先生が、オリー先生から発表にあったランセットカウントダウンに基づいて、日本での気候変動と健康と題して発表がありました。

「気候変動は様々なルートで健康への影響を及ぼす、ということであります。」

「例えば媒介生物の生態の変化を通して、こうした蚊あるいはマダニといったようなそういった節足動物を媒介して伝染していく感染症のマラリア、デング熱などの感染症の流行範囲やシーズンが変わってくる可能性。安全な飲料水にアクセスできないような人々に関しては、コレラといったような水系感染症の疾患のリスクが高まってくるという可能性もあります。」

「3年前に環境省が重大性・緊急性・確信度という3つの指標を使った気候変動影響評価報告書を発行しました。
ここで非常に高いあるいは重大であると評価されたのが暑熱です。普段から少し心臓が弱い、血圧が高い、神経血管系や循環器系あるいは呼吸器系の機能が低下しているような方が、暑さを経験することで、疾患が悪化し亡くなるといったことがあります。
もう1つが感染症、特に節足動物媒介感染症。こちらは重大性緊急性とも高いと評価されていますが、端的に言ってしまえばデング熱です。ヤブ蚊が媒介をするウイルスの感染症の重大性緊急性が高いと報告されています。」

自然災害よりも熱中症によって亡くなっている人が5倍も多い

「熱中症による死亡者数を見てみると、端的に増加傾向が見て取れます。1000人を超える年もありますし直近では年間平均約1300人が熱中症で亡くなっています。そのうち8割を高齢者が占めているという事実があります。
この熱中症による死亡者数を自然災害による死亡者数と比較すると、5倍以上が熱中症によって亡くなっているということが分かりました。熱中症あるいは熱波というのは災害として捉えるという認識が大切になってきます。」

暑さはこころの健康にも影響

「決して無視できないのが、気候変動のメンタルヘルスへの影響です。例えば極端気象、洪水山火事熱波等などの自然災害が増えることによって直接的な影響の他にも災害後のPTSDトラウマ、あるいは不安と抑うつといったような影響があります。
気温が上がると自殺のリスクも上がってくるということが疫学研究で分かっています。将来予測ですが、気温が4℃ほど上昇するシナリオを辿ってしまうと、現状ではこの気温によって発生している自殺者数は全体の4.1%ぐらいなのですが、それが今世紀末には6.5%程度に上昇してしまうだろう、といった最近のスタディーも報告されています。」

「最後に、オリー先生同様、気候問題は健康の危機であるといったそういった危機感を持って臨むことが大事であると、健康を中心にしたこの気候変動の対策といったものを考えていかなくてはいけないと思っています。」

気候変動は健康被害に関わる

今回のイベントはただなんとなく暑い日が多くなっていると感じている人が多い中、その暑さが私たちの健康を脅かす存在であるということを強く感じることができました。
すぐそこまで危機が迫っている中、私たちには何ができるでしょうか。
エコバックを使ったり、ちょっと環境に配慮した商品を選ぶなど小さなことは行なっていても私たちのできることには限界があるかもしれません。
そこで気候変動による私たちの健康被害を最小限にし、未来のいのちを守るために、例えば、「脱炭素に関する活動に熱心な政治家に投票する」、「脱炭素に関する署名運動に参加する」といった行動により、日本を大きく動かすためにできることを考えてみてはいかがでしょうか。

アバター画像

WRITTEN BYSDGs MAGAZINE

カテゴリーの新着記事

新着記事

Page Top