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“ミスターSDGs”蟹江教授と振り返る2023年のSDGs 前編 目標達成へ待ったなし 「達成率15%」という厳しい現実を打破するには

“ミスターSDGs”蟹江教授と振り返る2023年のSDGs 前編 目標達成へ待ったなし 「達成率15%」という厳しい現実を打破するには

#RADIO

パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。1月7日の放送回では、“ミスターSDGs”こと日本のSDGs研究の第一人者である慶応義塾大学大学院教授の蟹江憲史氏をゲストに迎え、「2023年のSDGs」を振り返った。目標達成の目安となる2030年まで6年。久々の出演となった蟹江教授が明かした、その待ったなしの現状とは・・・。

2024年初回の放送となった今回。新内さんは最近気になるSDGsの話題として、フードロス削減BOX「fuubo」を挙げた。

新内 「知っていますか? 利用登録をすると期限間近の食料などが置いてある鍵付きの冷蔵庫から、商品を買えるというものなんです。これを私はSNSで見かけて、こんなのがあるんだと。全国的に設置されているので、ぜひ皆さん探してみてもらいたいなと思います」

長くパーソナリティを務める新内さんは、SDGsにつながる社会・企業の取り組みへの関心も広げており、この番組などを通じて情報を積極的に発信している。その一つのきっかけとなったのが今回のゲスト、蟹江教授の存在。パーソナリティに就任した2022年春の初回放送に出演し、「17の目標」と、それぞれの目標に付随した具体的な「169のターゲット」からなるという国際社会共通の目標「SDGs」の基本についてレクチャーを受けた経緯がある。

新内 「2024年に入り、SDGsの目標達成の目安となる2030年まで6年となりました。今回は年の初めということで、私のSDGsの先生でもある“ミスターSDGs”蟹江憲史先生をお迎えして、2024年に知っておくべきSDGs的な動きや去年のSDGsの振り返りを2週にわたってお届けできればと思います。蟹江先生、よろしくお願いします」

蟹江 「よろしくお願いします」

新内 「2022年の10月以来のご出演ということで」

蟹江 「ご無沙汰しています。あまり、そんな感じはしないですけど・・・」

新内 「でも、前回はリモートでしたよね。今回、対面は初めてです」

蟹江憲史氏プロフィール
慶應義塾大学大学院、政策・メディア研究科教授。専門は国際関係論、地球システム・ガバナンス。SDGs関連では、慶應義塾大学SFC研究所xSDGラボの代表を務め、日本政府SDGs推進円卓会議など多方面で活躍している。日本のSDGs研究の第一人者として“ミスターSDGs”とも呼ばれている。

新内 「蟹江先生にとって、2023年はいかがでしたか」

蟹江 「国連のSDGサミットという首脳級の会議が9月にあり、そこに向けて大体3年ちょっと、みんなで執筆してきた報告書を、そのSDGサミットで提出するというところだったので、そこまで非常にバタバタしていましたね。その後、日本政府もSDGサミットを受けて年末までにSDGsの実施指針を改定するということになっていたので、その改定に向けて円卓会議という政府の仕組みのメンバーで提言を2年近く議論してきました。今年は、そういう意味ではSDGsの次のステージに向けて非常に大きな1年でしたね」

新内 「どういった改定があったんですか」

蟹江 「われわれとしては、例えば法律をつくるとか、日本でSDGsのターゲットを具体的に設定するとか、そこまでやってもらいたくて、3月に岸田総理に提言書を出しに行ったんです。ただ、残念ながら力不足で、そういったところはほとんど盛り込まれませんでした。戦争の影響とかがあり、政治的な関心がそっちの方にいっているというのもあると思うんですけど、そういう課題を含めてSDGsの中に含まれるものなので、もう少しいろいろな課題のつながりというのを意識してもらいたかったところですが、残念ながらそういうところまではいきませんでした。具体的には、実は毎年SDGsのアクションプランというのを今まで出していたのですが、そのアクションプランも来年からは出さなくなってしまう。取り組みの具体化という意味では、残念な状況になっています」

SDGsアクションプランとは、SDGs 実施指針に基づき、2030 年までに目標を達成するために政府が行う具体的な施策やその予算額を整理し、各事業の SDGs への貢献を「見える化」することを目的として策定するもの。2015年に国連で採択され、着実に進んでいるかと思われたSDGsの政府による取り組みだが、実際には「後退」ともいえる状況にあるのだという。

新内 「2030年まで6年。後退している感じになってしまっているということですよね」

蟹江 「そうですね。一応、これから絶え間なく仕組みを見直していくという文言は入れてくれたり、今後国際的にも取り組みを積極的に進めるという話は入ったりしてはいるんですけど、具体的な姿が見えないので、今の段階で私自身はちょっと後退してしまっているなという印象は持っています」

新内 「提言を提出するのって何年に一回とか決まっているんですか」

蟹江 「提言は何年に一回と決めているわけではないですけど、基本的にこの実施指針の改定が4年に1度なんですね」

新内 「まずいぞ・・・」

蟹江 「まずいんです。次は2027年」

新内 「2030年まで、ギリギリですよね」

蟹江 「もうそこだと、次の枠組をどうするとか、そういう話になってしまうので、今回はラストチャンスだと思って、いろいろと動いてはいたんです。でも、残念ながらそうならなかった。ただ、一つの希望の糸としては今年9月に国連で開かれるサミット・オブ・ザ・フューチャー(国連未来サミット)があります。(政府間での協議などを行う)未来サミットの5つくらいある柱の一つがSDGsなんですよ。なので、もう一回ここでチャンスがある。よく例えるんですけど、2023年は、(2015年の採択から達成目標の2030年まで)ほぼ半分ですよね。サッカーでいうとハーフタイム。日本のワールドカップでも、ハーフタイムに選手が入れ替わって、後半に攻めて大逆転してドイツに勝ったじゃないですか。そういう三苫薫選手みたいな人が出てきて、ガラッとゲームを変えていく。実際ゲームチェンジャーという言葉を使ったりするんですけども、そうしたゲームチェンジャーが出てきて変えていく最後のチャンスが2024年かなという気がします」

蟹江教授は国連事務総長の任命を受け、2023年9月に世界の独立科学者15人のうちの1人として「持続可能な開発に関するグローバルレポート(Global Sustainable Development Report 2023、GSDR 2023)」を発表した。国内外で、さまざまな取り組みを進めてきた第一人者だからこそ、現状について思うところがあるのではないか。「消化不良というか、もっとできるのになと感じたりはしないですか」と新内さんは率直に問いかけた。

蟹江 「この報告書、レポートでは大きく3つくらいのことをやっていて、1つは今のSDGsの状況がどうかということのレビュー(評価)。もう一つは、じゃあこれからどうしなければいけないのかということ。今の状況が正直、めちゃくちゃ悪いんです。大体達成率が世界全体で15%くらい。ハーフタイムだけど15%。ということは、ガラッと変えなきゃいけないですよね。次のステップとして、ガラッと変えるトランスフォーメーション(変革)をどう起こしていくのか。今までどういう変革が起こってきたかというのを見ていって、そのために何が必要なのか、何がテコになって動いていくのか、そういうことを検討してきました。検討するだけではいけないので、最後にそういった科学的な知識というのを政策にどうつなげるのか。科学と政策をどうやって近づけていくのか、今の時代はもはやそれだけでは駄目だというのがわれわれの結論で、科学と政策ともう一つ、社会。サイエンス、ポリシー、ソサエティーの3つのインターフェースが大事だという結論を出しました」

新内 「そのグローバルレポートの中では『ほぼ全ての目標で、2030年までの達成は極めて厳しい』というコメントを出したんですよね」

蟹江 「いろいろなシナリオがあるんです。でも、残念ながらどれだけ明るいシナリオを見ても2030年までに全てのSDGsの目標が達成できるものはありませんでした。一番いいもので、2050年になんとか・・・。それでも、169のターゲット全てはちょっと難しい。でも、なんとか達成できそうだというのが一番ポジティブなシナリオです」

新内 「それはすごくポジティブに考えたら、ということですよね」

蟹江 「そうです。例えば、全世界で炭素税を義務化しましょうとか、EV車以外をつくらないようにしましょうとか、そういうことをやって、ようやくその状態。本当はパンデミックがあって、いろいろなものが止まってしまって、そこから復活するときというのがすごく大事な時だと思うんですよね。いろいろなものを変えていく千載一遇のチャンス。まだ、その窓は開かれているので、やっぱり今年来年くらいで大きく変えていく最後のチャンスがあるんじゃないかなと思っています。シナリオって今の構造をベースにしているので、大きな変革が起こってくるとシナリオを超えるようなことも起こり得る。逆を言うと、例えば戦争があると、もうシナリオどころじゃなく、いろいろ壊れてしまう。良いことに関しても、すごい大発見があったりとか、みんなの意識がガラッと変わったりすれば、まだまだ大きく変わる可能性というのは残されています」

新内 「その可能性に懸けたいですね」

蟹江 「それができないと、2030年以降ますます夏は暑くなると思います。産業革命前と比べて1.5度以内、あるいは2度以内に気温上昇を抑えようと言っていて、今1度上がっているんですよね。ということは、このままどんなに頑張ってもあと0.5度、あと1度は世界全体で気温が上がっていく。正確には上がったり下がったりするところはありますけど、例えば日本だと1度、2度、3度というくらい平均気温が上がってしまう可能性もある」

新内 「2023年の夏は相当しんどかったですからね。地球沸騰化みたいなワードも聞いていたので、本当に他人事じゃない。それは、この番組をやっているから思うことでもあるんですけど、社会に向けて発信することの難しさも実感しますし、でもどうにかしなきゃいけない。発信は、やめてはいけないものだなとは思っているんです」

蟹江 「そうですね。やっぱり、そうやって発信していくことで、少しずつ意識が変わってくるところもあると思います。メディアの役割ってすごく大きいので、ぜひ今後ともいろいろと発信してもらいたいと思うし、あと何かこう真面目過ぎない形で当たり前のように情報を出していくということも、すごく大事じゃないかなというふうに思いますね」

新内 「そうですね。あまり堅苦しすぎるとSDGsっていう言葉は浸透しているのに、何かとっつきづらいという感じになってしまって、もったいないですもんね」

蟹江 「そうですね。一部の“意識高い系”だけがやっているみたいなるといけないので、ぜひそこのギャップを埋めていただきたいなと思います」

2023年のSDGsを振り返った今回の放送。新内さんは「世界全体で15%しかまだ達成できていない」という事実に衝撃を受けたようで「あと6年だと結構厳しいものがある」と現実を見つめながら「でも、ここで諦めちゃいけない。SDGsの番組をやっているのに、蟹江先生からするとまだまだ感度が低いなと改めて思ったので、またさらに気を引き締めてSDGsに向き合いたいなと思います。2024年へ、蟹江先生に活を入れてもらった気がするので、本気の2024年、頑張っていきましょう」と言葉に力を込めた。

(次回に続く)

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