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“ミスターSDGs”蟹江教授と振り返る2023年のSDGs 後編 「変革は必要であり、可能である」 報告書に込めた思い


“ミスターSDGs”蟹江教授と振り返る2023年のSDGs 後編 「変革は必要であり、可能である」 報告書に込めた思い

パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。1月14日の放送では、前週に続き“ミスターSDGs”こと日本のSDGs研究の第一人者である慶応義塾大学大学院教授の蟹江憲史氏をゲストに迎え、6年後に期限が迫ったSDGs達成へ必要な知識や行動などについて聞いた。蟹江教授は、国連事務総長の任命を受け、2023年9月に世界の独立科学者15人のうちの1人として「持続可能な開発に関するグローバルレポート(Global Sustainable Development Report 2023、GSDR 2023)」を発表。そこに込められた強い思いとは・・・。

新内さんがパーソナリティに就いた2022年春の初回放送に出演し、SDGsの基本についてレクチャーした蟹江教授。“SDGsの師匠”ともいえるSDGs研究の第一人者に、新内さんはSDGsの目標達成に向けた現状をたずねた。

新内 「先週は2023年のSDGsについてうかがってきたのですが、今週は現状の目標として掲げられている2030年まで6年となった2024年に、どのようなことを知り、どのような行動をしていくべきか、などをうかがっていければと思います。先週出た話題として、先生が去年の9月に国連に出したSDGsのレポートでは『ほぼ全ての目標で、2030年までの達成は極めて厳しい』というコメントを出されたとのことですが、具体的にはどの分野が一番難しそうなのでしょうか」

蟹江 「まずは貧困です。貧困がコロナの影響でかなり増えました。貧困人口って、ずっと減る傾向にあったんですけど、それが逆転してしまった。逆転するって、すごく大きな話です。貧困をなくすためには仕事をつくっていかなきゃいけない、雇用をしっかりしなきゃいけない。でも、目先の雇用を増やそうとなると、例えばCO2をいっぱい出すような産業で雇用するということになりがちなので、いろいろな変化を出していくことが大事になります。例えば、再生可能エネルギーの産業を興すことによって、そこで雇用を増やしていこうとか、そういう大きな変革、産業構造を変えるような話が必要になってくる。それに関連して、気候変動とかも非常に重要な領域になってくると思います」

新内 「その中で、これから必要になってくるのはどういったことなのでしょうか。全部つながっているというのは分かりますが、その中で何を選択していけばいいのかなというのが率直な疑問としてあります」

蟹江 「まずは、自分ができることから進めていくというのが大事だと思います。それが大きな社会の変革にもつながっていく。例えば、マイボトルを持って歩くとか、レジ袋をやめてマイバックを使っていくとか。非常に小さいことのように思うかもしれないですけど、それをみんながやったら、すごく大きな動きになるんです。パンデミックの時も、みんながマスクをして、手洗いをするということが一番の対策になると実感したじゃないですか、われわれは。それと同じことだと思うんです。一人一人は小さいかもしれないけれども、それが大きくなっていく。それをやっていくことによって、もっと大きな動きがないと動かないということが見えてくる。一生懸命マイボトルを持っていっても、結局それがなくなった夏の暑い日に自販機でペットボトルを買って、マイボトルに継ぎ足しているのでは、あまり効果がないんですよね」

新内 「確かに」

蟹江 「マイボトルでいえば、みんなマイボトルを家にたくさん置くようになっている中、実は最近、ボトルをつくる会社がやっているのはボトルのリサイクル、リユースを促進するということ。例えば、タイガー魔法瓶さんは、ステンレス製のマイボトルを集めて、それをリサイクルする取り組みをやっています」

新内 「なるほど。リサイクルというと、私はお洋服系を見るのがすごく好きなので、お洋服を手放すときに選択肢がいっぱいあるなあと最近、思っています」

蟹江 「でも、実は洋服のリサイクルって一つの会社がいろいろなところでやっているんですよ」

新内 「そうなんですね」

蟹江 「ポリエステル100%のものは再生できる。でも、それ以外のものは結構燃やされてしまっていることもある。でも、最初の一歩としてまずやっているということが大事なんです。まず、やることによってできないことが見えてくるので、次をやっていこうとなる。会社の側もそうやって、もっと知らせていくことが大事になっていくと思っています」

新内 「お洋服を手放すときって、どうすればいいか知らない人が多いですよね。マンションのごみとかを見ていても、分別に疎い人もいるし、ちゃんとやっている人もいて、個人差がある。もうちょっと知ってもらえる方法ってないのかなと思います」

蟹江 「ファッションってロスがたくさんあるんですよね。一番とか二番とか、それくらいロスが多い産業なんです。でも、身近じゃないですか。衣食住というくらいで、みんな服を着るし、毎日触れるもの。でも、意外と何がサステナブルかっていうことは伝わっていない。僕らは今、ある会社と協力しながら、それが分かるようになる表示の仕組みを考えようというプロジェクトをやっています。そうすると、これはどれくらいサステナブルなのかが分かって、選べるようになる。多分今年必要になってくるのは、そういった見て分かるようなものを増やしていくっていうことだと思うんです。いろいろな認証マークがあって、それもまた一つですけど、案外分かりにくい。そういったものを分かりやすくしていく。まず、その情報をあけっぴろげに、開示する。分かりやすくしていくと選べるようになるので、持続可能なものがだんだん選ばれるようになっていく。そうすることで、大きな動きに変わっていく可能性があるんじゃないかなと思います」

新内 「実際に変革できた、変えられたみたいな事例ってあるんですか」

蟹江 「分かりやすいところで言うと、北欧のノルウェーで電気自動車の割合がここ5年くらいでガソリン車と大逆転したというものがあります」

新内 「えっ! なんで、そんなことができたんですか」

蟹江 「いろいろと策を練ったんですけど、ノルウェーって車を輸入するので関税でコントロールしたりとか、駐車料金や高速料金をEV車だったら安くしたりだとか。あとは専用レーン。EV車だったらバス専用レーンを通っていいですよとか、いろいろな政策を打って、5年前はガソリン車が80%だったのが、今や電気自動車が80%になったんです」

新内 「えー、大逆転も大逆転ですね」

蟹江 「見事にクロスしている。だから、(変革は)できるんですよ」

新内 「こういうのって、最初ちょっと話題になるだけで、風向きが一気に変わるみたいなことってあるじゃないですか。電気自動車の事例は“まさに”って感じですね」

蟹江 「そう。どうやったらそうした変革が起きるのか見ていったら、大体最初に面白そうだなとか、やってみようかなと始める人が15%くらいいる。その人たちだけだと面白いねだけで終わってしまうんだけど、その次に来る人たちが大体35%くらいいて、そこが動くとガラッと変わっていく」

新内 「じゃあ、その35%を変えるっていうのが結構難しいっていうことなんですか」

蟹江 「難しいです」

新内 「興味はあるけど、一歩を踏み出すまではいかないみたいな感じで」

蟹江 「そうそう」

新内 「そのせめぎ合い」

蟹江 「次の物珍しいからやっちゃえみたいな人に続く人たち。そこが動けばガラッと変わるんですよね」

新内 「そういうものなんですね。その35%は、どのような人たちなんでしょうか」

蟹江 「日本の場合は10代の人ですね」

新内 「10代の子たちかあ」

蟹江 「10代の子たちはSDGsの行動をしたいという人が大体半分くらいいるんですよ、いろいろな調査結果を見ると」

新内 「結構高いですね」

蟹江 「だから、そこの人たちをいかに巻き込むか」

新内 「それを聞いて、私もこれから本気で発信していかないとなって思います」

蟹江 「そうですね。でも、1年以上前ですよね、前回お会いしたの。その時と比べてすごく意識が変わっていらっしゃるなと感じます。私が言うのもなんですけど・・・」

新内 「いや、全然・・・というのもアレですけど(笑)」

蟹江 「やはりメディアに露出の高い方とか、みんなの注目を浴びている方とかが行動を変えていくと、インフルエンス(影響)がいろいろなところに広がっていくことになるので、ぜひ本当にそういうふうにしてもらいたいなと思います。この前、僕が国連総会に行ったときには、ナタリー・ポートマンとか、マット・デイモンとか、その辺で『サステナビリティは大事だ』と自分の言葉で演説や話をしているんですよ。やっぱり、そういう影響力を持つ方に発信していっていただきたいなと思います」

新内 「この番組をやっていますが、消費に消極的になりたいわけではないんです。今あるものを大事に使っていこうねっていうことじゃないですか。自然とか、生活とか、社会との兼ね合いを大事にしながら守っていこうねっていうスタンスでいたいので、そういう考え方が伝わればいいなと思っています」

蟹江 「そうですね。伝わればいいなだし、ぜひ発信をしていっていただきたいなと思います」

新内 「頑張ります。逆にこちらで盛り上げて、国を動かせるくらいになっていったら素敵ですよね」

蟹江 「そうですね。そういうことが実際に、例えばスウェーデンとかでグレタさんとか、そういう10代の頃から大きく強く発信している人たちが変えていっているので、可能なんですよ」

先述したGSDRでは、SDGsの達成率が世界全体で15%に過ぎないとの衝撃的な報告がなされている。2015年の国連での採択から達成目標の2030年まで、既に“ハーフタイム”を終え、あと6年に期限が迫っているにも関わらず、だ。

蟹江 「僕らが提出したGSDRの一番のメッセージは、実は『変革は可能である。変革は可能であるし、必要だ』というものなんです。それが、われわれの一番のメッセージなんですよ。今SDGsの達成度って15%なので、実際、本当に変革というか、大きく変えないと、地球はもたない。人類も既にいがみ合っている人たちがいっぱい出てきているじゃないですか。ますます、ギスギスした世の中になってしまうし、格差もできてしまう」

新内 「それは良くない」

蟹江 「良くないんですよ。良くないで済めばいいんだけど、それが本当に戦争とか実害のある形で出てきているので、もう変革しないといけないという危機感を持って対処しなきゃいけないんじゃないかなと思います」

新内 「変革は可能であるし、実現できるというのも知りましたし、変革を恐れずに皆さん行動していっていただきたいなと思います」

そして、最後に新内さんは番組恒例の質問、「今私たちができること=未来への提言」を蟹江教授に聞いた。

蟹江 「やっぱり、一歩一歩進んでいくということが大事だと思います。あともう一つは、一歩一歩なんだけども、大きな目指すところをちゃんと考えていくということが大事だと思うんです。なかなか日々の生活に追われてしまって、ビジョンを持つことって忘れがちなので。SDGsって大きなビジョンを並べているものですけど、そういうものがあれば引っ張ってくれる。ビジョンを持って一歩一歩進んでいくということが大事だと思います」

新内 「一歩一歩も大事だし、未来のビジョンも大事だということですね。先週、今週のゲスト、蟹江憲史先生でした。ありがとうございました!」
蟹江 「ありがとうございました」

2週にわたって伺った蟹江教授の話に、新内さんは「やはり長年かけて、報告書を書かれて、提出して、紆余曲折と言いますか、いろいろ揉まれて、見てきた人の意見って心の響くものがあります」と感銘を受けていた。「本気で変えたいと思っているのが分かっているからこそ、私も本気で伝えなきゃなというのがすごくありますし、皆さんにもできるところから変えていきたいって思っていただけたら嬉しいなと思います。目的を持って一歩一歩変えるというのが重要とおっしゃっていましたが、確かにと思いました。私も一歩を踏み出すことがすごく大事って言ってきましたけど、『目的』って言っていないかもしれないと思いました。本当に気づかされることが多過ぎました」と、改めてビジョンを持って発信していくことの重要性を感じた様子だった。