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ローランズ代表取締役・福寿満希さんと考える障がい者雇用 前編 労働環境・待遇の改善を実現する新しい取り組みとは

ローランズ代表取締役・福寿満希さんと考える障がい者雇用 前編 労働環境・待遇の改善を実現する新しい取り組みとは

#RADIO
  • 働きがいも経済成長も
  • 人や国の不平等をなくそう
  • パートナーシップで目標を達成しよう

パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。12月3日の放送では、従業員のおよそ7割が心や体の障がいと向き合っているという株式会社ローランズの代表取締役、福寿満希代さんをゲストに招き、その取り組みについて聞いた。目標10「人や国の不平等をなくそう」、目標8「働きがいも 経済成長も」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」など、SDGsの多くの項目と深い関係のある障がい者雇用を考え、「働く」ということの意味にも迫る収録となった。

12月のニッポン放送といえば「ラジオ・チャリティー・ミュージックソン」。募金を通じて、たくさんの音の出る信号機の設置を実現し、SDGsの目標11「住み続けられる街づくりを」を実践してきた。「視覚に障がいがある方のさまざまなお話を聞く機会もありましたが、障がいがある人にとって、街づくりと同じくらい大事なのが雇用の話です」と新内さん。そこで、今回は障がい者雇用の現状や同社の取り組みを学ぶべく、ローランズの代表取締役を務める福寿さんをゲストに迎えた。

新内 「よろしくお願いします」

福寿 「よろしくお願いします」

新内 「本当に物腰が柔らかくて、声の澄んだ方だなという印象です」

福寿 「うれしいです。ありがとうございます。ぜひ、一度現場に来ていただければ・・・激しい姿で働いているので(笑)。でも、声だけでも、そんなふうに伝わるのは光栄です」

【プロフィール】
株式会社ローランズ代表取締役・福寿満希さん

1989年石川県生まれ。2013年、フローリスト=花屋さんとして独立し、障がいや難病と向き合うスタッフを多数雇用し、「排除なく、誰もが花咲く社会」を実現するべくローランズの運営を開始する。2019年にウィズダイバーシティLLP(組合)を設立。国家戦略特区と連携し、複数の中小企業が協業して障がい者雇用を生み出すプラットフォームを構築するなど新しい雇用方法を提案している。

障がいと向き合う人たちが活躍するローランズとは

新内 「福寿さんが代表取締役を務める株式会社ローランズ。JR原宿駅から徒歩5分ほどのところにあるローランズ原宿店は、お花屋さんとカフェスペースが併設されていて、スムージーやフルーツサンドが人気のお店です。(番組の)スタッフがこの収録の前日に訪れ、写真を見せていただいたのですが、本当におしゃれですし、ふらっと立ち寄りたくなるようなお店だなと思いました」

福寿 「ありがとうございます。オープンサンドがフードであるんですけど、いちごがのっているものがあったり、ピンクのお皿を使っていたり、食べられるお花エディブルフラワーで盛り付けをしてあったりするので、スムージーとセットでお写真を撮っていかれる女性の方は多いですね」

新内 「かわいいものって気分が上がりますよね。すてきなお店です」

ローランズは「排除なく、誰もが花咲く社会」をビジョンに掲げ、従業員80人のうちおよそ7割が障がいや難病と向き合いながら、しっかり活躍している企業として、社会的に大きな注目を集めている。

新内 「人と環境への優しさを包み、花や緑の空間装飾・贈答花のお届けを行う“社会的役割を軸とした花屋”さん、とのことですけども、こういったお花屋さんを開こうと思ったきっかけを教えていただけますか」

福寿 「学生時代に特別支援学校の教員免許を取得し、(その過程で)教育実習に行ったんです。その時に子供たちに会い、お花屋さん、ケーキ屋さん、パイロットになりたいというように、すごくみんな働くことに夢を持っているのだけれども、障がいだったり、難病があるということで、その夢のほとんどがかなわないという現状を知りました。当時の就職率は15%ほど。そこで夢がかなえられるような大人になりたいと思ったのが、最初のきっかけであり、今の会社をつくる原動力になっています」

新内 「さまざまな職業の中から、お花を選んだ理由はありますか」

福寿 「いつか子供たちの夢をかなえられる大人になるんだと思った時、全然その方法が分かっていなくて、行動に移せない状況が期間としてあったんです。大学を卒業した後は先生ではなく一般就職をして、どうやったら受け入れる場所をつくれるんだろうと考えながら社会人経験を積んでいました。その仕事をしている中で、自分自身が社会人になった後に、いろいろなうまくいかないことも多くて、心が欝々としてしまった時期があったんです。そんな時に、通勤途中にお花屋さんがたまたまあって、その前を通るたびに自分の心が何度もリセットされる経験をしたんです。お花をたくさんの人に届けることができれば、人の心の問題も解決できるんじゃないか。そう考え、お花の勉強を始めて、後に起業しました」

新内 「お花って、あるとないのとでは違いますよね。心が少し欝々としている時って、そこに時間をかけられなかったり、時間をかける元気がなかったりしますけど、そこにお花があったら本当に素敵な空間になる。元気をもらえたりします」

福寿 「そうなんです。私自身も学生の時までは、あまり花の良さを分からなくて・・・」

新内 「そういう時期、ありますよね」

福寿 「全然分からなくて、花が良いと言っている人のことが理解できない時期がありました。それが突然、変わったのが私の場合、自分が欝々としていた時。ふっとそれを忘れさせてくれる瞬間を持ってきたくれたのがお花だったので、そこからすごく好きになりました」

新内 「当事者のスタッフの中には視覚に障害のある方もいらっしゃると思うのですが、具体的にどういった業務をされているんですか」

福寿 「全体の8割が精神障害と向き合っているスタッフなのですが、視覚障害と向き合っている人もいて、見える色が限られるとか、視力が落ち続けていく症状と向き合っているスタッフの方もいます。(番組のスタッフに)来ていただいたカフェでも、視力が徐々に下がっていってしまうという症状と向き合っているスタッフがいるのですが、レジで使っているiPadの文字を読み取ることができない状態になってきていて、できないところだけを他の人がサポートする、それ以外のところは全く問題がないので、そこの困ったところをお互いにフォローし合うというような体制を取っています。あと、コロナでアクリルパネルがお店に置かれるようになりましたけど、視覚障害の人はそのアクリルパネルが見えなかったりするんですね。私たちは何となく角の感じとか、傷でパネルがあることが分かりますけど、それが見えない人もいるので、パネルの縁に色を付けて分かるようにしているんです。そういう工夫を入れるヒントをくれるのも当事者。『ここが見えない』とか『もっと見えるようにするために色を付けられますか』とか、提案をしてもらうところから工夫が始まっていくので、言うと申し訳ないというよりも、どんどん言ってもらって、お店に取り入れていっています」

新内 「スタッフさんたちの連携が取れて、言いやすい雰囲気があるからこそ、そういう意見を取り入れられるんだなと思います」

福寿 「スタッフ一人一人と向き合って、信頼関係がチームの中でできているなと感じるので、日々のコミュニケーションの積み重ねが大切だなと感じますね」

障がい者雇用の賃金体系の実態

障がい者雇用において、働く環境とともに重要なのが賃金などの待遇面。新内さんは「しっかりとしたお給料を支払っているということも重要なポイントだと思うんですけど、そちらもちゃんとされているということですよね」と質問した。

福寿 「そうですね。もちろん一人一人のお給料をもっと上げていくというのは、これからももっとやっていきたいのですけど、障がい者雇用の実状として当事者の方が就職する場合、一般企業に就職するパターンと、福祉作業所で就職するパターンがあるんです。後者は、あまり聞きなれないかなと思うんですけど、福祉作業所で働く場合、実は最低賃金が保証される場合とされない場合があります。雇用契約を結んでいるのか、結んでいないのかという違いなんですけど、結んでいない場合は工賃という、例えば何かお花で一つつくったらいくらとか、そういったモノづくりに対してお金が支払われるので、そのつくった量によって手取りが変わってきます」

障害のある人の働き方は、大きく分けて「一般就労」と「福祉的就労」があり、「一般就労」で仕事をすることに困難がある人は障害福祉サービスの中で就労の機会を得て働く「福祉的就労」を選択することになる。さらに雇用契約を結ぶか結ばないかで「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」の2種類に分かれ、基本的に最低賃金が保証されるA型に対し、事業所と雇用契約を結ばないB型では給料が「賃金」ではなく「工賃」として対価が支払われる形。ただ、月給は平均で1万5000円ほど、時給換算だと平均220~230円前後という厳しい現実がある。

福寿 「しっかり雇用契約を結んでやっていくというのは当たり前のことですけど、工賃で働く方の給料ももっと上がっていく仕組みをつくっていけるといいのかなと思います。今、ローランズでは『一般就労』の雇用パターンと『福祉作業所』としての雇用パターンの2つがあり、なので東京の最低賃金以上の支払いをさせていただいています。これは普通のことなんですけども、普通が届いていない人たちもいるということがどんどんと(世間に)知られていって、どんどん雇用契約を結べるように引き上げていける、そんな体制になっていくといいなと思っています」

新内 「賃金をちゃんとするからには、従業員の方に高い水準を求めたりもするのでしょうか」

福寿 「お金を稼ぐことって、とても大変なことだと、経営とかをしていてもしみじみ感じますけど、ビジネスなので、一人一人に戦力として動いてもらう、いいものを納めてまた次の仕事につなげていくことが大切だと思っています。配慮はするんですけども、それが優遇になってしまわないように、障がいがあるからといって『これはしなくていいよ』『あれもしなくていいよ』と言ってしまうと、仕事全体としても回らなくなってしまいますし、その人が成長するチャンスも奪ってしまう。一般企業だと、障がい者雇用率の達成を求められている中で、数だけクリアするためだけの障がい者雇用というのが発生してしまうんです。雇用だけして、仕事はそんなにしなくていいよというケースもあるんですけど、そうではなくて、きちんと会社の中で役割を持って、一緒に成長していく、同じ目的に向かって一緒にやっていく。時には仕事が大変に感じる場面もあるんですけど、仲間として厳しい場面も一緒に乗り越えていけるような、そんなチームにしていけたらなと思って日々やっています」

新内 「そんなこともあって、障がい者雇用枠の応募は20倍を超えるとか」

福寿 「はい、そうなんです。すごくありがたいなと思っています。そもそも、お花で働くという選択肢が障がい当事者の人たちからするとなかったところに、お花屋さんという就職の選択肢をつくったので、職種としても人気があるというのはあるんですけど、当事者同士で支え合うような環境も今、自然とできているので、そういうところにも心理的安全を感じていただいているのかなと思います」

新内 「すてきです」

今回の収録を通じて、障がい者雇用の実態を比較知った新内さんは、「配慮はしても優遇はしない」という向き合い方に、特に感銘を受けたという。「もちろん配慮というのは、すごく大切だと思うんですけども、優遇すると、その人のできることも、それぞれの成長の機会も奪ってしまう可能性があります。本当の意味で働く、配慮をしても優遇はしないというのはすごいことだなと思いました。ローランズの今後の目標として、花のビジネスで障がい者雇用100人を達成するというものもあると聞きました。既に今でも雇用の応募人数が20倍を超えている中で、これからも積極的に向き合いたいというところ、そのバイタリティはすごく見習いたいなと思いました」。そして次週、話題は「働くこと」自体の意味という大きなテーマへと移っていく。

後編につづく

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