フリーアナウンサー・赤平大さんに聞く「発達障害とSDGs」 ~後編~
この記事に該当する目標
パーソナリティの新内眞衣さんとともにSDGsを楽しく分かりやすく学べるニッポン放送のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。6月30日の放送では、前回に続いてフリーアナウンサーの赤平大さんを招き、「発達障害とSDGs」について考えた。「発達障害とは」という基本を学んだ前週から今回は、さらに一歩踏み込んで「どう理解を深めていくか」をテーマに「発達障害」への理解をさらに深めるべく、話を聞いた。
「ニューロダイバーシティ」とは
2週にわたって考える「発達障害とSDGs」。息子が発達障害と診断されたのをきっかけに、さまざまな勉強をしている赤平さんは、社会に向けた発信にも積極的に取り組んでいる。
新内 「まず知っておきたい言葉として、『ニューロダイバーシティ(Neurodiversity)』があると聞いたのですが、どういった意味なのでしょうか」
赤平 「ここ数年で一気に有名になってきたワードなんですけれども、一番シンプルに言うと、『脳や神経由来の多様性』です。人間の多様性を受け入れて、みんなが活躍できる社会をつくっていこうよという社会運動です」
新内 「社会運動…」
赤平 「『ニューロダイバーシティ』というのは社会運動の言葉だと思ってもらえればいいですね。『ニューロダイバーシティ=発達障害』って誤解されがちなのですが、ちょっと違っていて、『発達障害も含まれますけども』っていうふうに思っていただけると、一番分かりやすいかなと思っています」
「発達障害とSDGs」を考える上で、避けては通れないのがニューロダイバーシティというワード。「脳や神経に由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、社会の中で生かしていこう」という考え方で、発達障害のある人だけでなく、全ての人を包括するものといえる。
新内 「個性を大事にするみたいな感じなんでしょうか」
赤平 「ざっくり言ったら、そっちの方が近いと思います。『ニューロ』というのは、そもそも『神経』を表す言葉で、『ダイバーシティ』は多様性。和訳すると『神経、脳神経の多様性』となりますが、『いろんな人のいろんな個性があっていいよね』『みんながみんな同じじゃないよね』っていうことです。ともすると、特に日本では紋切り調に捉えがちで、たとえば海外に留学した方とか海外在住の方はよく分かるんですけど、やっぱり『個を大切にする』という文化は日本より海外の方が強い」
新内 「はい」
赤平 「なので、『個性を大事にしましょう』っていうぐらいのざっくり感で僕はいいと思います」
新内 「なるほど。近年その『個性を大事にしよう』という動きが世の中的にも広まっていますけど、実感みたいなものはあったりしますか」
赤平 「こと今回のテーマである発達障害に関しては、昔よりは変わってきているという肌感はあります。まあ、僕は10年ぐらい(発達障害について)勉強をしているんですけど、この10年間でも肌感としてはだいぶ良くなってきました」
新内 「ほぉ」
赤平 「でも、全然『素晴らしい!』『万歳!』みたいな感じではないですよ。“まあ、マシになってきた”レベルです」
新内 「うーん」
赤平 「これがまた、今東京に住んでいるからマシであって、地方に行くと全然進んでいないんです。都市部と地方の格差がめちゃくちゃ大きいというのは、ものすごく感じています」
新内 「それは、何か原因はあるんですか」
赤平 「これはシンプルに人材不足。あとは文化と文化的な問題。この2点だと思っています。人材不足っていうのは、発達障害を知っている人材がいなければ発達障害支援は起こらないじゃないですか。じゃあ、発達障害を知っている人材って誰かっていったら、一丁目一番地にくるのは学校の先生です」
新内 「はい」
赤平 「学校の先生、保育園の先生方が、まだ都市部、特に東京の中でも全然進んでいない。2005年に発達障害者支援法っていう法律ができて以降、『学校の先生方は勉強しましょう』って言われてきたんですけど、それが進まなかったんです、残念ながら。進んでも浸透しなかった。結果、地方に行けば行くほど、人材がどんどん少なくなっていくので、うまくいかないというのが一個。もう一個は文化的な問題。僕は岩手県盛岡市出身で、両親が青森なんですけど、あえて厳しい言い方をさせてもらうと、やっぱり田舎の方が閉鎖性が強い」
新内 「あ〜」
赤平 「これ、良くも悪くもなんです。文化を守るっていう意味では、閉鎖はすごく重要なんです。入り乱れると、多様性が生まれる。それはそれでいいんですけど…」
発達障害者支援法と障害者差別解消法
そんな意識の部分だけでなく、法律的にも発達障害の人たちを支援する動きが着実に出てきている。
赤平 「先ほど申し上げた発達障害者支援法っていうのは、日本における“発達障害の夜明け”といわれていて、それが2005年に施行された。そこから20年経って、いろんな法律ができたんです。今回ちょうどタイムリーに2024年4月に施行されたのが、障害者差別解消法の改正案。もともと、障害者差別解消法というのがあったんですよ。これを2021年に改正しましょうってなって改正され、今年の4月から施行されたんですけど、これが今直近で一番タイムリーな話題になっています」
新内 「本当に直近ですもんね」
赤平 「具体的に一つ事例を挙げるなら、一番有名なところで『合理的配慮』。また難しい言葉になっちゃうんですけど(笑)」
新内 「はい。ちょっと難しかったです(笑)」
赤平 「『合理性』の『合理』に、『的配慮』しましょう」
新内 「うんうん」
赤平 「これ、何かっていうと、可能な範囲で、無理のない範囲でサポート、支援をしましょうっていう動きのことです」
新内 「はい」
赤平 「で、この『合理的配慮』にはルールがあって、たとえば学校だったら学校側に『私はこうこうこういう障害を持っているので、こうこうこういうことができません。だからこういう配慮をお願いします』という申請が必要なんです。これを学校側がOKしたら、『合理的配慮』が成立したことになり、『合理的配慮』を守らなければならなくなる」
新内 「はい」
赤平 「でも、学校側が『ちょっとそれは負担が大きすぎるので難しい。こういう感じではどうですか』みたいな折衝、交渉をするんです。これが『合理的配慮』の仕組みです。そして、改正されたのは何かというと、今までは学校、正確に言うと国公立の学校、公的機関なり役所では、『目が見えない人がいたらスロープ付けましょう』とか『点字をつけましょう』みたいな『合理的配慮』が“義務”で、企業、または私立学校は“努力義務”だったんです。ところが、この4月から全てが義務化された。なので、今新内さんが持っているペンを売る企業も、ニッポン放送さんも、コンビニも、私立大学も、全てにとって“義務”になったんです」
新内 「うんうん」
赤平 「それによって、目が見えない方々は学校とか、このニッポン放送にお願いができるようになったんです。そして、ニッポン放送もそれを無碍にできなくなった」
新内 「はい」
赤平 「無碍にしたら訴えられてしまうので、ある程度は聞かなきゃならないという現状があります」
新内 「それって、どこに申し込むといいますか…」
赤平 「公立学校の場合は学校長など大体ルートがあるんです。担任経由、校長、教育委員会みたいなルートがある。でも、教育委員会まではあまり上がらないですね。学校長判断で決まるので。私立学校だと、今ちょうどうちの息子が私立中学に通っているので、1年生の時から『合理的配慮』の申請をしたのですが、当時はもう交渉でした。担任が来てくれて、副担任が来てくれて、話し合いをしてっていう感じだったんです。でも、今年からそういう法律が施行されたので、書面をつくらなきゃならないなと思って、他の学校の例を探したんですよ。そうしたら、名前は伏せますけれども、動きが速い私立大学で、何校かはちゃんとフォーマットをつくっていました」
赤平さんは、そのフォーマットを自身の息子の中学校に合った形に書き換え、提出するなど具体的に動いたという。
新内 「でも、制度が改正されて、企業側、学校側も前例がないと、どうしていいか分からなかったりする」
赤平 「新内さん、さすが鋭いです。そこ、すごく重要なポイントです」
新内 「そうですよね」
赤平 「やばいのは、今この瞬間にも、分かっていない企業さんがいるっていうことなんです。特に、発達障害は目に見えないから。もっと言うと、僕も去年1年間でも50回以上、企業研修とかをしているんですけど、やっぱり関心の高い企業は『教えてください』とくるのですが、経営者が分かっているだけでは意味がない。なぜならば、面と向かうのは末端の社員なんですよね」
新内 「はい」
赤平 「しかも、社員と同じ部署の人なのか、社員とお客様なのか。だから、経営者が知っていても、この社員が知らない限りは、『合理的配慮の義務化』が行えないっていう問題が起こっちゃうんです。もっと全社的に知らなきゃならないっていう現状があります」
赤平さんが取り組む「インクルボックス」の活動
新内 「本当に今からどんどん、そういう研修とかが増えていくとは思うんですけども、結構ばらつきがありませんか? 社員側としても、それを義務化したからには、ちゃんと制度化されている研修とかがあったら、より良くなるんじゃないかなとは思うんです。その辺はいかがですか」
赤平 「多分、今日ここが一番核の話になってくるかもしれなくて、僕の心を読んでいるかのように、新内さんが先回りしてくれました(笑)」
そうして、赤平さんが切り出したのが、自身が運営している「インクルボックス」という事業。発達障害に特化した動画サイトで、「なぜこれをやったかっていうところが、実は今、新内さんが言ったところに全て集約されています。僕も、この社会も、発達障害を知らない人だらけで、しかも『知りたい』っていう人もいれば、『いや、そんなの昔からいたじゃん』とか『そんな、いちいち気にしていたら仕事にならないよ』っていう人もやっぱりいるわけですよ」と説明した。
赤平 「温度がばらばらで、これはまずいなと思ったので、もっと学校の先生向け、または企業向けに研修制度を充実させた方がいいんじゃないかと考えました。そこで、調べました。論文を500本くらい読み漁っていたところ、2005年に発達障害者支援法が始まった。その時に、『学校の先生は発達障害の勉強をしましょう』っていう話になったんです。ところが、2010年代に『学校の先生方は発達障害の知識が全然高まっていません』っていう論文がぶわ〜っと出てきたんです」
新内 「あら…」
赤平 「(法律の施行から)10年経っているのになんでって思って、論文をまた調べたんです。そうしたら、学校の先生方が、まず忙しすぎる問題がある」
新内 「部活とか、いろいろやっていますもんね」
赤平 「そういうことです。ずーっと問題になっているじゃないですか、これ」
新内 「はい」
赤平 「僕は麹町中学校というところでずっとお仕事をしたり、私立の学校でも仕事をしたりしているので、目の前で先生方の忙しさを知っているのですが、とてもじゃないけど『勉強しろ』とは言えないくらい、しんどい」
新内 「はい」
赤平 「あとは、発達障害って、ここまでお話しした中で新内さんもお気付きだと思うんですけど、ある程度勉強すれば終わりっていう分野じゃないんです」
新内 「そうですよね」
赤平 「発達障害は10人いたら10人ばらばらなので対策、対応、支援法もばらばらなんです。つまり、年に1回や2回の研修では網羅できない。これは専門家も言っています。そこに気付いた時に、研修制度を国や自治体がお金を用意してやらせているけど、意味がないって分かってしまった。それを資料にまとめて、文部科学省に陳情に行ったんですよ」
新内 「えっ!? すごい」
赤平 「そうしたら担当者が出てきてくれて、回答が『赤平さんのおっしゃる通りです。発達障害に関して研修はうまくいっていません』というものでした」
新内 「うーん」
赤平 「『だから今、文科省と厚労省は違うプロジェクトを頑張っています』と2021年に言われて、その時に思ったのが『いずれ良くなるかもしれないけど、うちの子供は間に合わない』っていうことでし
新内 「卒業しちゃいますね」
赤平 「じゃあ、やれることをやろうと思って、とにかく簡易的に、研修なんて仰々しくて、重苦しくて、お金がかかることをやらずに、誰でも、いつでも見られるものとして『スマホで分かればいいじゃん』って思ったんです。文字を検索して読むって作業も大変なんです。情報が多すぎるので」
新内 「はい」
赤平 「厳選して良いものだけを動画にして流せばいい。ながら聞き、ながら見で、ラジオ感覚で、料理している最中でも聞けるようにしちゃえばいいじゃんって。動画をつくって、大量に流し続ければ、気になる人は見るだろうし、興味がない人は流すだろうし。そういう仕組みとしてつくったのが『インクルボックス』です」
新内 「すごい! ぜひ、皆さんも1回検索して見ていただきたいですね」
赤平 「ありがとうございます」
そして番組最後の恒例の質問。新内さんは赤平さんに「今、私たちにできること=未来への提言」を聞いた。
赤平 「発達障害というのは、線引きのない世界なんです。あなたの身近にも必ずたくさんいます。そして、あなた自身にも個性、特性がある。それを絶対に蔑ろにしたり、できないと自分を責めたりしないでください。それはそれで素晴らしい。みんな違って、みんないいんです」
新内 「ありがとうございます。これで勇気をもらった人もたくさんいると思います」
赤平 「(笑)だといいんですけど」
新内 「今日は本当にたくさんお話を聞けて、私もすごく勉強になりました。ありがとうございました」
赤平 「ありがとうございました」
赤平さんに「発達障害とSDGs」について2週連続で話を聞いた新内さんは「法改正をされて初めて動く、義務化することによって滞っていたものが動き出すというのは、すごく良いこと」と、現状の動きを前向きに捉えた一方で、「やっぱりそれに対応していかなきゃいけない心だったりとか、行動だったりとかがあると思うので、その辺も含めて、動いていかなきゃいけないんだなって思いますし、こうやってお話を聞けた分、今日から少しずつでも行動を変えていきたいなと思います」と、そうした現状からの一歩を自ら踏み出すことの重要性を強く訴えた。