2050年、コーヒーが飲めなくなる? UCCの「水素焙煎コーヒー」から考える持続可能な1杯
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※画像はイメージです。
2025年10月にセブン-イレブンのセブンカフェに登場して話題となっている「水素焙煎コーヒー」をもうみなさんは飲んだでしょうか。SNSではコーヒー好きの間で、「コンビニカフェの域を超えたおいしさ」「すっきり爽やかな味わいで食後に合う」「プラス20円でエコな選択ができるのが嬉しい」といった声が多くみられます。
気候変動や森林減少など、地球規模の課題が身近な話題となるなか、私たちの日常に寄り添う“コーヒー”から、サステナブルな未来を考える動きが広がっています。その背景にあるのがUCC上島珈琲が長年積み重ねてきた挑戦です。
CO₂削減のカギは“焙煎”。UCCが水素という選択にたどり着くまで


UCCが着目したのが、製造工程におけるCO₂排出でした。排出量のおよそ7割は工場由来で、そのうち約半分を占めるのが焙煎工程で使用するガスだといいます。電力は再生可能エネルギーへの転換が進めやすい一方で、焙煎に欠かせない高温・熱風を安定して生み出すガスの代替は容易ではありませんでした。
サステナビリティ経営推進本部長の里見さんは、「ガス焙煎は約140年続いてきた技術です。それを変えなければ、排出量を減らすことはできません。熱量や火力の調整幅の点で電化は難しく、水素に可能性を見いだしました」と語ります。
水素焙煎という発想が生まれたのは2021年前後。社内技術者の提案をきっかけに、経済産業省関連プロジェクトや山梨県、エネルギー関連企業と連携し、実証実験が始まりました。
環境のために味を妥協しない。「おいしくなること」を絶対条件にした理由


水素焙煎は、環境配慮だけを目的とした技術ではありません。UCCの経営陣が量産化の条件として掲げたのは、「今よりもおいしいコーヒーになること」でした。
「環境に優しいだけではなく、“味が良くなる”ことが絶対条件でした」と里見さんは言います。水素は弱火から強火まで細かく制御でき、従来のガス焙煎では描けなかった焙煎プロファイルを実現できます。
その結果、フルーティーな酸味を際立たせたり、コクやボディ感を高めたりと、豆本来の個性をより引き出すことが可能になりました。専門家によるブラインドテストや成分分析でも違いが確認され、「良いコーヒーを、さらに良くする技術」として手応えを得ました。


焙煎では、香りや味わいを引き出すための繊細な火力調整が欠かせません。一方で、水素は非常に軽く拡散しやすく、取り扱いが難しいエネルギーでもあります。
UCCは長年培ってきた焙煎技術を生かし、水素混焼バーナーを用いた焙煎装置を協力企業とともに独自に開発しました。(株)ヒートエナジーテックと共同で特許(第7618185号)を取得し、安定的な製造を可能にしています。生産部門と研究開発部門である連携し、焙煎と試飲、分析を重ねることで、水素ならではの焙煎プロファイルと味覚を確立していきました。
世界初の量産化の舞台裏。水素焙煎コーヒーが“実験”を超えた瞬間


試験機による検証を経て、UCCは2023年秋に量産化を決断しました。部門横断で30名以上のメンバーが水素焙煎プロジェクトを兼任で関わり、量産を決断するまでは異例のスピード感で進められました。
そして、構想から3年半の歳月を経て、UCCが開発した大型水素焙煎機「ハイドロマスター」にて、2025年4月から水素焙煎コーヒーの量産を世界で初めて開始しました※。使用する水素は山梨県から調達したグリーン水素です。
現在は業務用を中心に導入が進み、ホテルやカフェ、オフィス、そしてセブン-イレブンのセブンカフェへと広がっています。「まずは“気軽に飲める”体験が大事です。水素や焙煎の説明は難しく感じられがちですが、1杯のコーヒーとして体験してもらうことが理解への近道だと考えています」と里見さんは言います。
※UCC調べ。水素熱源に対応するかたちで焙煎機そのものを独自に設計・開発し、継続的に水素焙煎コーヒーを生産・販売。年間キャパシティ3,000トン以上を大型焙煎機と定義
1日2杯が森を育てる。飲むことで参加できるコーヒーの未来づくり


水素焙煎コーヒーは、売り上げの一部を通じてコーヒー産地の植樹や森林保全を支援する仕組みも取り入れています。朝の1杯、午後の1杯を水素焙煎コーヒーに替えることで、年間で植樹1本分に相当する支援につながるといいます。
また、水素は燃焼時にCO₂を排出しないため、焙煎工程における直接的なCO₂排出は実質ゼロとなります。こうしたCO₂削減は、気候変動の緩和を通じてコーヒー栽培適地の減少リスクを抑え、長期的な産地保全への貢献が期待されています。
ブルーマウンテンから続く40年以上の答え。UCCが守り続けてきた「産地とともにある」姿勢


1981年、世界最高級コーヒーのひとつ、ブルーマウンテンの安定供給を目指し、日本のコーヒー業界で初めてジャマイカに直営農園「UCCブルーマウンテンコーヒー・クレイトンエステート」を開設しました。
事業開始当初は、山火事や旱魃、ハリケーン、猛暑といった厳しい自然環境に加え、手作業中心の農園運営や労働環境整備など、多くの困難に直面しました。それでもUCCは、労働条件の改善や現地との信頼関係づくりを重ね、社員と労働者が一体となって農園を育てる体制を築いてきました。
こうした経験の根底にあるのは、「コーヒー産業は気候変動の影響を非常に受けやすい」という危機感です。里見さんは、「2050年には、主要なコーヒーの栽培適地が半分近くまで減少するという予測もあります。だからこそ私たちは、水素焙煎コーヒーが当たり前になるよう挑戦し続けます」と語ります。
【まとめ】水素焙煎コーヒーが日常になる未来へ


UCCが目指しているのは、水素焙煎を特別な技術ではなく、“当たり前”にすること。
「水素焙煎が新しいスタンダードになれば、選択肢は自然と広がります。気負わず、結果的に環境にいい選択ができる社会をつくりたい」と里見さんは言います。
セブンカフェでプラス20円から体験できる水素焙煎コーヒーは、そんな未来への入り口。今日の1杯が、10年後、50年後もコーヒーを楽しめる世界につながっていると考えると、この1杯は、いつもより少し特別に感じられるかもしれません。
また、水素焙煎コーヒーは、UCCのサステナブルな挑戦の“最新形”にすぎません。UCCのサステナブルな取り組みは、水素焙煎だけにとどまりません。20年以上前から続けている「品質コンテスト」は、生産者の技術と意欲を高める仕組みのひとつ。近年では、希少なベトナム産高品質アラビカが評価され、受賞ロットが数量限定で商品化されるなど、生産者の努力が正当に報われる循環を生んでいます。
さらにUCCは、官民連携による小規模生産者支援にも積極的です。農林水産省の拠出金で、国際農業開発基金(IFAD)が主導する「ELPSイニシアティブ」では、初号案件であるタンザニアにおけるコーヒーバリューチェーンの持続可能性を高める共同投資事業に、民間企業として丸紅株式会社とともにパートナー企業として参画。2040年を見据えたネイチャーポジティブな農業モデルの構築に挑んでいます。
こうした取り組みは、森林保全プロジェクトや商品を通じた支援にも広がっています。ルワンダなどの産地で進められる森林再生や生態系保全は、農事支援によって品質が向上、収穫量の改善など、持続可能なコーヒー栽培につながることが大きな役割です。加えて、カフェメルカードでの販売などを通じて日本で消費者に紹介することで、消費者はコーヒーを飲むというアクションで生産者や自然を豊かにする仕組みに参画できるのです。
執筆/脇谷美佳子





