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140年続く「岡山のぶどう」を次の世代へ──“旬を届ける”取り組みから考える、持続可能な農業


この記事に該当する目標
8 働きがいも経済成長も 11 住み続けられるまちづくりを
140年続く「岡山のぶどう」を次の世代へ──“旬を届ける”取り組みから考える、持続可能な農業

「くだもの王国おかやま」として知られる岡山県。ここでは、温暖な気候や卓越した栽培技術によって、高品質なぶどうが数多く生産されています。なかでも、“果物の女王”とも呼ばれる「マスカット・オブ・アレキサンドリア」は、岡山県で栽培が始まって140周年。この節目の年を記念し、首都圏の百貨店や果物専門店などでは、岡山県産ぶどうの魅力を伝えるフェアが開催されました。
こうした取り組みをSDGsの視点から見つめると、そこには「おいしい果物を届ける」ということだけではない、地域の農業や技術、食文化を次の世代へつないでいくための様々な営みが見えてきます。

140年の歴史を支える、進化し続ける栽培技術

140年の歴史と伝統の結晶であるマスカット・オブ・アレキサンドリアは、やはり岡山のぶどうを語るうえで欠かせない存在と言えるでしょう。その栽培には、長い年月をかけて積み重ねられてきた技術があります。
9月4日、アンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」にて行われた「おかやまぶどう王国 メディア試食会」では、140周年の歴史を誇る岡山県産ぶどうの歩みが語られました。

特に興味深かったのが、林ぶどう研究所の林慎悟氏が明かした、最高峰の品質管理についてです。雨に弱いマスカット・オブ・アレキサンドリアを克服するためにガラス温室が生まれたこと、さらに、粒の大きさや房の形を追求するため、全国的にも稀な「短梢栽培」などを取り入れたことを説明。他県とは一線を画す、岡山独自の栽培への理解が深まるひと時となりました。
「マスカット・オブ・アレキサンドリアで培われた一房一房への手仕事。この思想が継承されているからこそ、岡山のぶどうは現代も最高品質を保ち続けている」と林氏は解説します。

ここで注目したいのは、伝統を守ることが、必ずしも昔ながらの方法をそのまま残すことではないという点です。受け継いできた技術を守るだけでなく、環境や品種の特性に合わせて進化させていく。そうした積み重ねこそが、地域の農業を長く続けていくための土台になるのではないでしょうか。

生産地と消費地をつなぐ、首都圏での「旬」の発信

岡山のぶどうに限らず、食の豊かさを次の世代へつないでいくために大切なこと──それは、生産だけにとどまりません。その魅力を知ってもらい、食べてもらうことも欠かせないでしょう。
そこで、特選ぶどうの最盛期到来に合わせて、東京都内の百貨店や果物専門店で開催されたのが、岡山県産ぶどうを楽しめるフェア。東京ミッドタウン店にあるサン・フルーツを皮切りに、京王百貨店新宿店や新宿高野などで、多彩な企画が実施されました。

特に、10月3日・4日にJR新宿駅ミライナタワー改札外で行われた「晴れの国おかやま×ルミネアグリマルシェ」には、全19ブースが並び、旬のぶどうをはじめ、岡山の農産物や加工品、お菓子、調味料などがクローズアップされたといいます。
なお、この企画を通して、生産地から遠く離れた都市に暮らす人が、旬の農産物や生産者と直接触れ合う機会も用意されていたとのこと。こうした体験は、普段何気なく口にしている食品が、どこで、誰によって、どのように作られているのかを知るきっかけにもなり得るでしょう。

「農産物」から「食文化」へ──受け継がれるもう一つの価値

さて、前述の「おかやまぶどう王国 メディア試食会」では、農業の技術はもちろん、果実の魅力を最大限に活かした、和菓子づくりのこだわりについても語られました。

マスカット・オブ・アレキサンドリアを生のまま丸ごと使用し、熟練した職人が一粒ずつ求肥で包み上げた宗家 源 吉兆庵の「陸乃宝珠」は、約50年にわたって愛されてきた逸品。執行役員を務める岡野晋至氏は、この和菓子への熱い思いを発表します。

「陸乃宝珠の美味しさは、果実そのものの香りや味わいを生かしているところにある」と岡野氏。そのためには、素材となるぶどうの品質が重要になってきますが、近年では、マスカット・オブ・アレキサンドリアの生産量が減少傾向にあるといいます。それを受けて、和菓子に適したぶどうを育てるための自社農園での栽培にも挑戦しているとのこと。
これは、農業と食品産業がつながりながら、地域の食文化を守っていく一つの形とも言えそうです。

「おいしい」の先にある、持続可能な未来

地域で培われてきた産業や技術、そして食文化を未来へつないでいくこと。これらは、持続可能な社会を考えるうえで重要なテーマです。140年続く岡山のぶどう栽培の背景には、自然環境に合わせて技術を進化させてきた生産者の知恵、一房一房に向き合う手仕事、そしてその価値を商品や食文化として届けてきた人々の営みが感じられました。
今回、首都圏で開催されるフェアの数々は、岡山のぶどうを「買う」「食べる」だけではなく、その背景にある歴史や技術、地域の魅力に触れる機会にもなったのではないでしょうか。

140周年という節目は、長い歴史の到達点であると同時に、これから先の未来へ何を残していくのかを考えるタイミングでもあります。一房のぶどうを味わうことから、その一粒が育った土地や、そこに関わる人々、受け継がれてきた技術に思いを馳せてみる──「おいしい」の先にある物語を知ることが、地域の農業や食文化を未来につなぐ、小さな一歩になるのかもしれません。



執筆/フリーライター・黒川すい