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新内眞衣と学ぶニッポン放送『SDGs MAGAZINE』廃棄物でアートをつくる美術家・長坂真護氏の取り組みとは #後編


新内眞衣と学ぶニッポン放送『SDGs MAGAZINE』廃棄物でアートをつくる美術家・長坂真護氏の取り組みとは #後編

ニッポン放送で毎週日曜日午後2時10分からオンエア中のラジオ番組『SDGs MAGAZINE』。パーソナリティを務める新内眞衣さんとともにSDGsを学ぶ同番組の4月16日放送では、前週に続き廃棄物からアートを生み出す美術家、長坂真護さんをゲストに招き、引き続きその活動に迫った。

「サステナブル・キャピタリズム」の概念

前回の放送では“電子機器の墓場”ともいわれるアフリカ・ガーナのスラム街、アグボグブロシーの電子機器廃棄物からアートを生み出す長坂さんの取り組みを掘り下げたが、今回はアートをアートで終わらせない、真のサステナブルな活動について話を聞いた。新内さんが「先週はたくさんお話をし過ぎて、どこを切るんだろうと思うくらい盛り上がりましたけど」と振り返りつつたずねたのが、長坂さんが提唱する経済・文化・環境(社会貢献)の3軸が好循環する新しい資本主義の仕組み「サステナブル・キャピタリズム(持続可能な資本主義)」という考え方だった。

新内 「長坂さんが美術家として旗印として掲げているのが『サステナブル・キャピタリズム』ということなのですが、これはどういった考え方なのでしょうか」

長坂 「この言葉が生まれたのは2019年初頭。僕が、ロサンゼルスで初めてガーナの個展をやっていた時です。ガーナの黒い国旗の星を輝かせるという意味で『Still A BLACK STAR』というタイトルで今も続けている個展なのですが、これにサブタイトルをつけようと思って、耳障りがクールでスパイシーなものはないかなと考えたときに、物をつくりまくって、絵を描きまくって、売りまくって、人を救ったり、地球をケアしたりする仕組みがあったら格好良くないかなと思ったんです。競争原理、資本主義、消費社会の中で地球を助ける方法を見出す方が今っぽくて、格好良いなと。サステナブル起業家もLAでは増えていたので、アメリカ人の友達に『Still A BLACK STAR -Sustainable Capitalism-』っていうのはどう?と話したら、めちゃ格好良いと言われたんです。資本主義って、ずぶずぶなんですよ。もう知らないうちに、みんなどっぷりと浸かっている。資本市議のことを説明してくださいっていっても分からないし、難しい。でも、実はお金の勘定とか、物を安く買えるとか、もう1万円ってどれくらいの価値があるかとか、誰もが分かっているじゃないですか。これぞ資本主義だと。生まれたときから、これにずぶずぶに染まって生きている。社会思想家とか、社会活動家とか、資本主義を無くしますという人たちはいっぱいいる。僕も実はそっちの方がいいと思っています。ただ、最初から真っ向勝負で、資本主義の大勢力に勝てるわけがない。だったら、寄り添いながら、じわじわとハッキングして、いつか変えるという意味で、持続可能な競争原理主義、勝負の世界をつくってみたい。そうやって『サステナブル・キャピタリズム』という概念が生まれました」

新内 「そもそもサステナブルとキャピタリズムって相反するものじゃないですか。融合していける可能性はあるんですか」

長坂 「ある。例えば、僕が履いている靴をつくっているAllbirds(オールバーズ)という会社。サステナブルな靴屋さんとして有名で、土に還るプラスチックでできていて、ソールはサトウキビからつくられた植物由来。この会社の謳い文句が『サステナブルな靴。30日間、返品交換何度でも無料』というものなんです。資本主義、消費社会と融合していますよね」

新内 「なるほど」

長坂 「これ、セレブリティから人気に火がついたんです。カリフォルニアから来た靴で、僕は毎日履いています。めちゃくちゃいいことやっています、だからいっぱい買ってください、返品交換無料です。それってアメリカの元来のやり方。そのDNAはあるんです」

新内 「なるほど。ということはサステナブルとキャピタリズムって融合していける可能性がある、と」

長坂 「僕はそう考えています」

「サステナブル・キャピタリズム」の本質

新内 「実際に『サステナブル・キャピタリズム』を実現するために、既に具体的なさまざまな取り組みも行っているとか」

長坂 「僕、年間で1000枚の絵を売っているんですよ。普通は年間100枚描けたら多作といわれます。世界で一番絵を描いたといわれるピカソで遺したのは原画1万3500点です」

新内 「えっ? 間もなく到達しませんか」

長坂 「まあ、頑張れば(笑)。だから、『お前は他の画家の10年分キャンバスを消費しているやん』って話じゃないですか。でも、ここに味噌がある。1000枚描いたキャンバスで、スラムのゴミが何トン減っていると思いますか。1000枚のキャンバスを消費したことよりも、さらに上のインパクトがある。去年、売り上げが7億円くらいだったんですよ。一昨年は8億円くらい。でも、僕のエキシビション(展示会)には10万人以上が来てくれた。そのエキシビションで200枚とかを展示して、こういった番組に出たりとか、みんながこれからの生活をサステナブルなものに変えたるきっかけになったりだとか、そのインパクト、費用対効果は1000枚の絵を描いた以上だよね、と。そこにサステナブルの本質があるんじゃないかと考えています」

そうして得た収入から、長坂さんは自身の報酬である5%と税金やランニングコストを除いた大半を環境改善事業やスラムでの教育などに投資。EV事業などを展開して、現地での雇用も創出している。

長坂 「1500万円の機械をガーナの工場に買ったり、苗を買ったり、土地を購入するのに使ったりしています。あとは、サステナブルの事業をやるために必要な彼らの収入ですね。これって、もうサステナブルじゃんと。例えばEV事業では、EVのキックスケーターとか、バイクとかの研究開発・デザインを現地でやっています。うまくやれば、ガーナ人がデザインしたスクーターを日本で発売できる。そういうところにもチャレンジ中です」

新内 「いつ寝ているんですかっていうくらい忙しくないですか」

長坂 「休みはないですね。土日も仕事をしていますし。ただ、大体いつも夕方6時までに仕事を全部終わらせます」

新内 「年間に1000枚の絵を描くとおっしゃられていましたが、あまり最近いい作品をつくれていないなあ・・・とかっていう時はないんですか」

長坂 「めっちゃ、ある(笑)」

新内 「そういう時はどうするんですか」

長坂 「大体プロは燃やして捨てろというよね。でも、僕はそういうのも出すんですよ。ファンの人に『お前、筆が振るえていないか』って言われて『この時、震えていたんですよ』と返すと、『この耐えていた時のお前の姿勢が良い』と。それもありか、という感じになりますよね(笑)」

新内 「何より、真護さんの姿勢が好きという方がたくさんいらっしゃる」

長坂 「まあ、そうですね、僕の絵というよりは僕の絵を見てやる気を出す、モチベーションを上げるために買う人が多いですよね」

新内 「作品ってパワーが宿っているもの。それが、たくさんあるというのは、すごいなと思います」

長坂 「EV事業では、テスラモーターズ(イーロン・マスクCEOが経営する世界的な電気自動車メーカー、再生可能エネルギー関連会社)みたいなことがやりたくて、MAGOモーターズという企業をガーナにつくりました」

新内 「おー、すごい」

長坂 「“アフリカのテスラモーターズ”といわれるくらいのことをやりたいよねっていうことで、アップルもガレージから始まったじゃないですか。僕らもガレージから始まって、ワクワクすることをやりたいなって」

EV、そして農業にも進出

さらに、長坂さんが積極的に取り組んでいるのが農業の分野だ。栄養価の高く“スーパーフード”として注目を集め始めているモリンガの苗550本をはじめ、コーヒーの苗500本、プランテーン500本、二酸化炭素を吸収するオリーブの苗10本をガーナの首都アクラ近郊に農園を取得し、育てているという。

長坂 「モリンガは、アフリカでめちゃ取れるし、普通の植物の30倍、CO2を吸収するっていわれています。しかも、オイルにもなるしティーにもなる。あとは僕、コーヒー好きなのでコーヒーを植えたりとか、プランテーンとかオリーブを植えたりとか。3エーカー(1エーカー=約4047平方メートル)の土地を3つ取得して、そこで1560本くらい育てています。そうすることで、雇用も生まれる。スラムで農家さんをやりたい人を募集して学校に通わせるんですよ。学校も全部僕がお金を払って、技術を習得したらうちの農園で働いてもらう」

新内 「すごい」

長坂 「実がとれなくても給料は全部保証します」

新内 「最初から実をとるのはって難しいっていいますよね」

長坂 「コーヒーも5年後からですね、実がとれるのは。それまで給料がゼロだったら、みんな餓死してしまうので、僕らは先進国でアートを売ることによって、その給料を保証する。そういう座組ができています」

新内 「なるほど」

取り組みの先にあるのはノーベル賞と美術家としての“死”

他にも有害ごみを安全に処理するリサイクル工場の建設やアートギャラリー「MAGO GALLERY」の開設、ビーチの清掃事業も展開。2018年にはスラム街初の学校「MAGO ART AND STUDY」を設立し、平日の夕方から未就学の子どもたちに英語・算数・社会・アートのレッスンを無料で行っている。

長坂 「リサイクル工場ではプラスチックチップを使った建材、タイルをつくっていて、それも先進国で売っています。僕がアートでやっていた仕事をもっと大衆的な仕事に振り替える作業です」

新内 「ただ、最終的に廃棄物がなくなると作品がつくれなくなり、長坂さんの問題解決のためのアートが終わってしまうんじゃないですか」

長坂 「終わりたいですね。僕の絵を買ってくれる人って、『お前、ピカソを超える感じがする』って言ってくれるんですよ。めっちゃ面白いって言ってくれる。多作だし、やっていることも時代の先にピントが合っている、と。ただ、今30万円くらいで売っている絵があるとすると、ピカソより有名だったら1億円はするはずです、間違いなく。アートの価値が一番出るのはいつかというと、作家が死んだ後。といっても、僕は2030年に自殺します・・・ということではなくて、もしリサイクル工場とか雇用創出がうまくいったら街全体にゴミが無くなって、相対的に僕は絵が描けなくなるんですよ。そしたら、仮想的な死を与えられますよね。1万人の雇用が出来て、ゴミが減ったら、多分ノーベル平和賞とノーベル経済学賞をダブル受賞するんじゃないかと思っていて」

新内 「確かに、それくらいのことですよね」

長坂 「それくらいのことですよ。初めて人類でスラムを無くした男になるわけですから。それ、すごいじゃん。もう、価値でいったら、評判でいったらピカソ以上じゃないですか。かつ僕がノーベル平和賞を取る頃には、僕はもう電子機器でアートをつくれなくなっているので、市場がざわつくんですよ(笑)。ピカソ以上の男、もう死んでいるに等しい、と。僕、貧乏だった時に路上で絵を300ドルで売っていたんです。今は路上ではもう書かないので、(価格が)200倍になったんです。600万円くらいで売られている。そういうことが起こるわけですよね」

新内 「確かに!」

長坂 「それは恩返しなんです。それを転売して生活してくださいではなくて、俺が見込んだ男が3万円で当時売っていたアートが1億円になったぞ、と。それだけで十分。これって“ザ・資本主義”だけど地球のためになる」

新内 「すごい! 理想と現実をうまく融合して突き進んでいるから、本当に言葉が出なくなります」

そして、新内さんが番組の最後に投げ掛けたのは恒例の「今私たちにできること=未来への提言」について。SDGsの目標年でもある2030年までにガーナ人1万人の雇用を創出することを目標に掲げる長坂さんは、この“世界最悪の電子機器墓場”といわれるアグボグブロシーの街を公害ゼロの「サステナブルタウン」へと変えていくという壮大な未来を描いてみせた。

長坂 「美術家としては、やっぱりアートで世界を平和にすること。1万人の雇用を実現してSDGsな、サステナブルなタウンをつくりたい。そこに、その1万人が住んでくれたら、その大きな土地が僕のキャンバスになる。そこにみんなが平和に暮らしていることが、平和という作品になり、そこに最後に線を書いて誰かに売ってやろうと思っています。それは、僕の本当の最終目標。世界が美しくなければ、人はやっぱり美しく人生を歩めない。美術って美しいと書くじゃないですか、そのために美術は存在しているんじゃないかって思うんです。われわれが平和って何か説明してくださいと言われると、結構できないですよね。これをアートなら、いとも簡単にできる。僕のアートが、見た瞬間に『平和ってこれだよね』っていう理念、提言になるまでに達したいです」

2週にわたって話を聞いた新内さんは、長坂さんを「未来をいっている人」と形容。「それこそ、真っ向勝負で反対反対と言われると、自分の意見を言った時に反対と言われると、『何で?』ってなっちゃうじゃないですか。そうではなくて、少しずつ誘導して、最終的に変えるのが目標とおっしゃられていて、そうだよなあと思いました。伝え方には本当にいろいろな角度がある。そう改めて思った回でした」と続け、また新たな角度でSDGsを伝えていくことへの思いを口にした。