新型コロナ対策にも通じる「SDGs」の理念
2015年に国連サミットで採択された「SDGs」をテーマにしたニッポン放送の特別番組『なるほどSDGs~10年後の未来へ~』が3月28日に放送された。社会活動に興味を持っているという女優、剛力彩芽さんが、日本における「SDGs」研究の第一人者「ミスターSDGs」こと慶応義塾大学大学院政策メディア研究科の蟹江憲史教授をゲストに迎え、「SDGs」を学ぶ同番組。「『SDGs』とは何なのか」という基本情報を学んだ前回を踏まえ、今回は感染が拡大する新型コロナウイルスの問題など具体的な事例から「SDGs」の理念に迫った。
「今、初めてその言葉を聞いた人も、既に取り組んでいる人も、大変な今だからこそ向かい合いたい地球のこと、今近くにいる家族や友達、その先につながるたくさんの人、そして未来の自分たちのために一緒に学び、考えていきましょう」
特別番組『なるほどSDGs~10年後の未来へ~』の冒頭で、剛力さんはリスナーにこう呼び掛けた。「SDGs」が掲げる「17のゴール」には「貧困」や「飢餓」「気候変動」「働きがい」など現代社会が抱えるさまざまな課題が並ぶが、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な今、なかなかそうした包括的な問題に取り組む心の余裕がないのも事実だ。ただ「SDGs」は新型コロナウイルスの問題とも決して無関係ではないと蟹江教授は強調する。
「新型コロナウイルスの問題などで毎日の暮らしのほうが大変という人もいると思います。ただ、『SDGs』には『今をより良くするヒント』というものもあります。コロナに対して、どう向き合っていくかを考えるきっかけにもなるのではないでしょうか」
「SDGs」は「17のゴール(目標)」と、そこから枝分かれした「169のターゲット(具体目標)」からなることは前回の説明の通り。蟹江教授の言葉を受け、剛力さんが注目したのは「17のゴール」の中の3番目「すべての人に健康と福祉を」の項目。
3.1 2030 年までに、世界の妊産婦の死亡率を出生 10 万人当たり 70 人未満に削減する。
3.2 すべての国が新生児死亡率を少なくとも出生 1,000 件中 12 件以下まで減らし、5 歳以 下死亡率を少なくとも出生 1,000 件中 25 件以下まで減らすことを目指し、2030 年までに、新生児及び 5 歳未満児の予防可能な死亡を根絶する。
3.3 2030 年までに、エイズ、結核、マラリア及び顧みられない熱帯病といった伝染病を根 絶するとともに肝炎、水系感染症及びその他の感染症に対処する。
3.4 2030 年までに、非感染性疾患による若年死亡率を、予防や治療を通じて 3 分の 1 減少 させ、精神保健及び福祉を促進する。
3.5 薬物乱用やアルコールの有害な摂取を含む、物質乱用の防止・治療を強化する。
3.6 2020 年までに、世界の道路交通事故による死傷者を半減させる。
3.7 2030 年までに、家族計画、情報・教育及び性と生殖に関する健康の国家戦略・計画へ の組み入れを含む、性と生殖に関する保健サービスをすべての人々が利用できるよう にする。
3.8 すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのア クセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを 含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する。
3.9 2030 年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾 病の件数を大幅に減少させる。
3.a すべての国々において、たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約の実施を適宜強化する。
3.b 主に開発途上国に影響を及ぼす感染性及び非感染性疾患のワクチン及び医薬品の研 究開発を支援する。また、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS 協定) 及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアク セスを提供する。同宣言は公衆衛生保護及び、特にすべての人々への医薬品のアクセ ス提供にかかわる「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS 協定)」の柔軟 性に関する規定を最大限に行使する開発途上国の権利を確約したものである。
3.c 開発途上国、特に後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において保健財政及び保健人 材の採用、能力開発・訓練及び定着を大幅に拡大させる。
3.d すべての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因 子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する。
外務省「持続可能な開発のための2030アジェンダ」仮訳より
蟹江教授が「この3番の中には感染症への対処だったり、ワクチンや医薬品の研究開発をやったりというターゲットがある」という通り、「3.3」や「3.b」のように、まさに新型コロナに直接関連してきそうな「ターゲット」が既に5年前に国連サミットで採択された「SDGs」には示されている。
「例えば、不要不急の外出を控えるとか、自分たちができることにもつながってくるのかもしれないですね」という剛力さんに、蟹江教授も「そうなんですよ。自分たちの行動に落とせるというのが『SDGs』の大事なところの一つです」と呼応。「コロナのような問題が出ても、持続可能な社会に近づいていれば、対応がより早くできるだろうということです。こういうことが、もしかしたら、また将来起こってしまうかもしれませんが、『SDGs』を推進していくことが、次に起こった時により早く対応できるということにつながるのではないかと思います」と続けた。
続いて、剛力さんは8番目の「ゴール」である「8.働きがいも経済成長も」を挙げ「確かに働きがいって何か……といわれると難しいですね」と注目。すると、蟹江教授は「いいところに目を付けますね」とし、これも新型コロナの問題につながっていく「ゴール」だと説明した。
「要は、会社まで満員電車に乗っていって仕事をするのは大変ですよね。自宅で仕事をするとか、いろいろな人がいろいろな自分なりの働き方があり得るわけです。まさにコロナの問題ではテレワークが推奨されていますが、そういったことも働きがいに含まれてくる要素です。自分なりの働き方を尊重することが経済成長にもつながるという考え方。検証は必要ですが、今のコロナの影響を見ても、『SDGs』的なことをやってきた会社や組織は割と早くテレワークなどに移行できたりしているように思います」
さらに、剛力さんは「10.人や国の不平等をなくそう」について「日本って割と平和だといわれていて、遠いもののような気がしますね」と素直な感想を口にした。しかし、蟹江教授は、これも決して日本と縁遠いものではないと指摘する。
「一見そうですが、例えば障がい者に対して社会がバリアフリーになっているかとか、そういうところを見ていくと日本は結構遅れています。ほかにもLBGTの人たちへの法整備だったり、実は貧困の問題も深刻で、相対的な貧困として定義されている平均所得の半分以下の人たちが6人に1人くらいいたりとか。格差とか不平等は案外、日本の中にある問題です」
この「SDGs」を巡っては、2017年の世界経済フォーラム「ダボス会議」で「SDGsを達成することで12兆ドル(約1320兆円)を超える経済価値が生まれ、3億8000万人の雇用が創出される」との試算が発表されて以降、多くの企業でも取り組みが活発化している。
蟹江教授は「分かりやすいところでは食品ロスの問題。レストランで余ってしまった食材を必要な人たちに安く買ってもらうとか、そうしたアプリのサービスも出てきています。オランダでは、スーパーマーケットで賞味期限ぎりぎりになったものを使って、一流シェフが料理をしてくれるという取り組みがあり、3店舗くらいに広がっているそうです」と一例を紹介した。さらに、具体例として挙げたのが、今年1月11日に東京ガールズコレクション(TGC)実行委員会が開催した静岡県のツインメッセしずおかでのファッションフェス「SDGs推進 TGC しずおか」。会場では古着回収などの活動が行われ、「SDGs」推進の重要性が若年層へ発信された。
この特別番組が放送されたニッポン放送も例外ではない。開局65周年を機に「May I Help You?」キャンペーンをスタート。家族や周囲の人たちに「どうかされましたか?」「お手伝いしましょうか?」と声を掛けることの大切さを伝えている。
そのキャンペーンのきっかけとなったのが、1975年に「音楽の力とラジオの力で何か社会に貢献できることをしたい」という想いからスタートした「ラジオ・チャリティ・ミュージックソン」だ。毎年クリスマスイブの12月24日正午から翌25日正午まで24時間の生放送を実施。目の不自由な人たちが安心して街を歩けるように「音の出る信号機」や、目の不自由な人の社会参加につながるアイテムを一つでも増やすための基金を募るキャンペーン活動を行っている。この番組で集まった募金をもとに、18年の第44回までに3183基の『音の出る信号機』 を設置。19年は最終募金金額として9057万5273円が集まった。
蟹江教授は「いろいろな人の公平性にも関連してくるし、教育にもつながる活動だと思います。日本の多くの大企業は『SDGs』という言葉を知っているところまで来ていますね」とうなずいた。
約1時間にわたって放送された『なるほどSDGs~10年後の未来へ~』。番組の最後に、出演した2人はリスナーに呼び掛けた。
蟹江教授「コロナの影響は、われわれの経済、生活に深刻な影響を与えていますが、そこから立ち上がっていく時、そこをいかに持続可能にしていくかということを考えないといけないと思います。『ゴール』の8番にあるように、経済成長もわれわれは生きていくために必要なもの。ショッキングな状況ではあるけれど、世の中を変えていく一つのきっかけにというポジティブな捉え方も必要になります。リセットして考え直すことも、われわれができることの一つです。楽しみながらできることもあるし、日々の生活からできることもある。ぜひ、そういったことを重ねていってもらいたいなと思います」
剛力さん「小さなきっかけが2030年につながっていくということですね。『私がやっても意味がない』ではなく、『私にも何かできるかも』ということを感じました。少しずつやって、それが大きなものになっていけばいいなと思います。難しく考える必要はないんだなと感じました」
「SDGs」が提示する「17のゴール」と「169のターゲット」。まずは、明確に示された目標と具体例を知ることが「持続可能な社会」を実現する大きなステップになるのかもしれない。そして、それは剛力さんが言うように、決して「難しく考える必要はない」ものでもある。