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トウモロコシから作られるサステナブルな燃料「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」の最新動向をアメリカの有識者が解説!(前編)


この記事に該当する目標
7 エネルギーをみんなにそしてクリーンに 9 産業と技術革新の基盤をつくろう 13 気候変動に具体的な対策を
トウモロコシから作られるサステナブルな燃料「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」の最新動向をアメリカの有識者が解説!(前編)

米国農務省(USDA)とアメリカ穀物協会日本事務所は、植物から作られるバイオ燃料「バイオエタノール」に関するプレスセミナーを開催しました。
植物は成長過程において光合成を行うため、二酸化炭素を吸収します。そのため、植物由来のバイオエタノールは、燃焼時に化学燃料と同様に二酸化炭素を排出しますが、その排出量はプラスマイナスゼロとなる、「カーボンニュートラル」であると考えられています。

セミナーでは、飛行機の燃料として使われる、「Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)」(以下、SAF)の主要な原料としてのバイオエタノールの役割と、航空業界における脱炭素化への取り組みなどについて、4名の専門家から語られました。

前編となるこの記事では、バイオ燃料業界団体の代表と、飼料穀物農家のための非営利団体であるアメリカ穀物協会会長のコメントをお伝えしていきます。

44のエアラインがバイオエタノールへのシフトを表明

Growth EnergyのCEO、エミリー・スコー氏からは、世界の運輸業界がどのように気候変動に対応しているかについての解説がありました。

Growth Energyは米国のバイオ燃料業界団体で、米国のバイオリファイナリー(バイオマスを原料にバイオ燃料を製造する技術)の97%が加盟しています。米国で生産されるバイオエタノールでは6割のシェアで、年間で100億ガロンに達する規模になっています。

現在、世界におけるジェット燃料の規模が1150億ガロン(約4353億リットル)ですが、サステナブルな航空燃料の生産量は1億6000万ガロン(約6億リットル)に留まっています。今後、航空燃料の需要が高まっていく中で、脱炭素化に向けた取り組みは非常に重要です。すでに44社のエアラインが今後、サステナブルな燃料を使っていくと発表しています。

そんな中でバイオエタノールの特徴に注目してみると、まずバイオエタノールは作物由来のバイオ燃料として唯一、作物の供給量が十分に確保できていることが挙げられます。そして、炭素の排出量をガソリンと比較して5割程度に抑えることができます。そして新たな研究が進められており、2050年までにネットゼロまで持っていこうとしています。また、経済性にも優れており、米国国内の農産物を原料に使うことによってバイオ燃料を新たに供給することができるようになり、世界的な経済にも大きな貢献ができると考えています。今後は米国だけでなく日本を含め世界のさまざまな地域で、バイオエタノールが重要なものになっていくと思われます。

今後バイオエタノールに関する取り組みをしていくにあたり、炭素の排出に関するモデルはいくつかありますが、そのモデリングについて、一貫性があり、正確なものにしていく必要があります。そのためには政府の支援が欠かすことができません。

また、排出量の削減に必要なテクノロジーには投資が必要であり、日本政府は支援や税の控除などの策を投じると発表しています。政府、民間、公機関、国内外と、世界全体でのコラボレーションが必要な取り組みです。ぜひ、世界で力を合わせて協力していきましょう。

バイオエタノールは手ごろな価格で、現在のインフラをそのまま活用可能

アメリカ穀物協会の理事長兼CEO、ライアン・ルグラン氏は、バイオエタノールを世界で推進していくための取り組みと、持続可能な市場の構築について話しました。

アメリカ穀物協会は非営利団体で、アメリカのトウモロコシをはじめとする飼料穀物農家のみなさんのために活動をしています。また、エタノールの生産者とともに活動しており、世界で市場の開発も行っています。日本では1960年にアメリカ穀物協会の初めての国際的な拠点として東京オフィスを設立しました。現在は、世界28カ国に常駐し、世界60カ国でさまざまなプログラムや活動を実施しています。

バイオエタノールについてまず優れている点を挙げるならば、すでに十分な量がアメリカにあるということです。世界で生産されている中でも、アメリカが最も大きなバイオエタノールの生産国です。米国内に187のプラントがあり、年間で660億リットルを生産しています。

バイオエタノールは非常にサステナブルなもので、バイオエタノールを生産することで世界の食料安全保障をさらに高めているとも言えます。バイオエタノールの生産にはトウモロコシのスターチ(でんぷん)が使われていますが、世界においてトウモロコシは過供給の状態です。過剰に供給されているスターチからバイオエタノールを作り、残りの成分となるタンパク質や食物繊維は残しておくことができます。世界においてタンパク質は不足しています。つまり、過供給のトウモロコシのスターチを使ってバイオエタノールを作り、残りの供給が不足しているタンパク質や食物繊維などを動物の飼料などに使うことができます。

またバイオエタノールは非常に手ごろな価格で供給されています。エンジンのノッキングを防ぐためにガソリンに添加されるオクタン価向上成分はガソリンの価格を押し上げる原因の一つです。バイオエタノールもガソリンのオクタン価を向上させます。したがってバイオエタノールでオクタン価向上を、より安価に済ませることができるのです。またオクタン価向上成分には発がん性が疑われる成分もありますが、バイオエタノールにはそれはありません。

加えて、バイオエタノールには現在のガソリン成分との互換性があり、ガソリン供給や利用のインフラなどに変更を加えることなく利用することができることも大きなメリットです。例えば、電気自動車は対応する設備への変更が必要ですが、バイオエタノールは現在行動を走っているガソリン車にガソリンスタンドで給油して使うことができます。バイオエタノールは未来の燃料ではなく、今すぐに使うことができる燃料です。

現在、アメリカから世界へのバイオエタノールの今年の輸出量は17億5000万ガロン(約660億リットル)で、記録を更新しました。60の国々でエタノールに関する政策が立ち上げられ、推し進められています。世界のさまざまな国が、バイオエタノールのメリットに気付き始めているということではないでしょうか。

(後編に続く:2024年11月21日公開予定)