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私が体験した、エシカルなものづくりの難しさ

私が体験した、エシカルなものづくりの難しさ

#OPINION
  • つくる責任つかう責任

こんにちは。国産ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナーの寺本恭子です。前回のコラムでは「エシカルなものづくりの中で気づいた自分で知り・感じ・考える大切さ」についてお伝えさせていただきました。

前回記事はこちらからお読みいただけます。
エシカルなものづくりの中で気付いた、自分で知り・感じ・考える大切さ

第5回目の今回は「私が体験した、エシカルなものづくりの難しさ」についてお話します。

前回は「何がエシカル(倫理的)か」の答えは自分の中にある、というお話をしました。
今回はその「自分の中のエシカル」を具現化してみようと、新しいものづくりに挑戦したときに直面した、いくつかの困難(と、そこから見えてきた次のステップ)についてお話します。

周りの方々に理解されない“エシカル”という概念

一つ目の困難は、エシカルなものづくりに周囲の賛同が得られないことでした。
「自分が仕事をしたり、ファッションを謳歌すればするほど、地球のどこかで自然が壊され、誰かが痛みを感じるのって、なんか変だと思いませんか?」
ある日、お世話になっていたバイヤーさんに尋ねてみました。
「寺本さん、そんなこと考えてたら、仕事できなくなるよ。僕だって、家族のために一生懸命に働いているんだ。仕方ないよ」と、私は説得されました。
しばらく経って、今度はファッション業界のプレスの方に、「エコフレンドリーでありながら、ラグジュアリーなモノを作りたい」と構想を話してみました。
「だって、無駄を楽しむことが、ラグジュアリーでしょ?環境に気を配っていたら、それはファッションじゃないわよ!」と一蹴され、返す言葉が見つかりませんでした。
「やっぱり、絵に描いた餅なのかな。私の考えは、誰にも理解されないのかも知れない」と、虚無感でいっぱいになったのを覚えています。今からたった10年前の話です。

エシカルな素材が手に入らない

二つ目の困難は、エシカルなものづくりをするにあたって理想の素材が手に入らないことでした。
たとえ誰にも理解されなくても、まずは想いを形にしてみようと、自分のブランド「アミツムリ」の中で「ami-tsumuli white label」というエシカルラインを2013年に立ち上げることにしました。
需要が高い糸は、すでに染色された状態で売られており、そこから好きな色を選んで1キロずつ購入することができるのが普通です。しかし、エシカルという付加価値は今以上に業界に浸透しておらず、私が欲しいと思う糸はどれも需要が低いため、自分で原料を仕入れて染色工場さんに直接染色を依頼しなくてはいけませんでした。
新しいチャレンジのために小さなロットで染色をしようとすると、とても割高になってしまいます。でも無理に大きなロットで染めてしまったら、今度は糸を余らせていまうことでしょう。それこそ資源の無駄遣いになってしまいます。

ちなみに、糸の染色方法は大きく分けて二種類。糸の状態で染める方法と、綿(わた)の状態で染めてから糸にする方法です。
後者は、風合いもよく微妙に違う色の綿を混ぜ合わせることもできるので、色の奥行きも出ます。ところが、この方法で染めるには、一色につき最低でも150キロほど染めなくてはいけません。私にとってはあまりにも非現実的でした。
そんなわけで、なんとか実現可能な糸染めの方法を用い、編み方などで工夫し奥行き感を演出していますが、やはり出したくても出せない理想の風合いや色合いが今でもあリます。エシカルにこだわればこだわるほど、コストとロットのために表現が制限されてしまうのは確かです。

これからの時代のことを考える上で、糸メーカーさんに「オーガニックコットン糸や、オーガニックウール糸・エコフレンドリーなウール糸などを、染色してストックすることはできないか」と相談させていただいたことがあります。「オーガニック食品は、高くても美味しいという付加価値があるけど、オーガニック繊維の場合は、柔軟剤不使用などの理由で、逆に風合いが悪い場合が多い。高くて風合いが悪いものが売れるとは考えにくい」とのお返事でした。

エシカルなものづくりは、一人では実現できない

この様に、いくつかの困難に直面しながらも、なんとかできる範囲で「エシカルなものづくり」にチャレンジしてきました。
そこで一番実感したことは、エシカルなものづくりは、一人ではできないということです。
アパレルの商品は、原料の生産・加工・染色・商品企画・制作・バイヤーの買い付け・プレス活動・売り場の接客など様々な行程を通り、初めてお客様に届きます。
今までの商慣習と異なるものづくりをするためには、デザイナー一人が意気込んでも実現できません。携わる全ての方々の意識”が必要だったのです。

何も全員が、同じ考え・同じ主張を持つ必要はありません。
それでも、今までと違うことにチャレンジする柔軟な精神、一時的なコストの上昇や投資を恐れない金銭面での寛容さは、ある程度必要だと思いました。みんなで少しずつリスクを負えば、きっと大きな挑戦ができるはずです。
もしも全ての人が、一旦「お金儲け」を脇に置き、それぞれの立場で次のステップのために何ができるか考え、意見交換をし、夢を共有できたらどんなに素敵でしょう。その時、どんなファッションが生まれるのか…想像するだけでワクワクします。

大きなムーブメントも、誰かの小さなアクションから始まります。私の地道な活動の一つ一つが、もしも、そんなアクションへ繋がることができたら、本当に嬉しく思います。
次回は、そんな困難の中、私ができる限りチャレンジしてきたエシカルなものづくりを具体的にご紹介します。どうぞ、お楽しみに。


【この記事を書いた人】
ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナー
寺本恭子

東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、東京田中千代服飾専門学校デザイン専攻科へ。卒業後は、オートクチュール・ウエディングドレスデザイナー・松居エリ氏に師事した後、祖父が経営する老舗ニット帽子メーカー吉川帽子株式会社を受け継ぐ。2004年にニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」を立ち上げ、同年にパリの展示会でデビュー。2014年からカナダ・モントリオールへ居を移し、サステナブルな視点を生かしながら創作を続けている。
Instagram@kyoko_tf

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