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素材と向き合い、エシカルなニット帽子をつくる

素材と向き合い、エシカルなニット帽子をつくる

#OPINION
  • つくる責任つかう責任

こんにちは。国産ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナーの寺本恭子です。前回のコラムでは「初のエシカルコレクション~カタチにした私の想い~」についてお伝えさせていただきました。

前回記事はこちらからお読みいただけます。
初のエシカルコレクション~カタチにした私の想い~

よりエシカルなモノづくりをしていく上で、私にとって一番のハードルは、いつも”素材選び”です。なぜなら、職人さんをリスペクトして正当な対価を払うとか、消費者の目線で丁寧に検品するとか、そんなことはエシカルというより、アミツムリでは当たり前にやってきたことだからです。
エシカルな素材を意識した時、一番取っ付き易いのがコットンや麻です。でも、冬の防寒具として活躍するニット帽子は、コットンや麻ばかりに頼るわけにはいきません。

あたたかいウールの裏にある、物言えぬ動物たちの犠牲

冬の素材といえば動物繊維ですが、調べていくと色々なことがわかってきました。
まずは、毛の刈り方。商業的な農場は、外注の毛刈り業者が刈る様ですが、彼らは労働時間ではなく刈った毛の量で報酬を得るので、どうしても短時間でたくさんの毛を刈ろうとするために乱暴になってしまうのです。エシカルファッションデザイナーとして知られるステラマッカートニーさんも、信頼していた農場の悲惨な実態を知り、一時ウールの取り扱いを止めていましたね。私が見たウールやモヘヤヤギの毛がりの映像も、かなり衝撃的でした。
動物によっては、刈るのではなく「むしる」ものもあります。アンゴラウサギや水鳥などです。

育てられてる環境も、様々です。利益追及のために頭数を増やしすぎると、餌となる牧草とのバランスを崩します。そのため化学肥料をまいたり、動物がストレスや衛生面で病気にならない様に、抗生物質の投与を行います。
また、ヤギ科の動物は、牧草の葉だけでは足りずに根ごと食べてしまうので、カシミアを過剰に増やしたことによる砂漠化も話題になりました。

今まで私の耳に入ってきた動物繊維の背景のストーリーは、まだまだ他にもありますが、簡単にまとめると、「商業的になればなるほど、物言えぬ動物たちは、私たちのファッション・防寒のために犠牲になっていて、それは私たちの想像を超えている」ということです。

化学繊維という選択肢もありますが、通常は生分解性がなく、製造過程での環境負荷も懸念されます。そして何より、どんなに最先端の技術を駆使しても、動物繊維の機能の素晴らしさに到達するのは容易ではありません。

エシカルであり、防寒力の強い素材の模索

では、どんな素材を使おうかと考え、2013年の初めてのエシカル秋冬コレクションに私が使ったのは、オーガニックウールです。現地のオーストラリアに見学に行くことは叶いませんでしたが、素材を買い付けた方の事務所にお邪魔し、その飼育状況を伺いました。
牧草の成長サイクルに合わせて羊の飼育場所を移動させるという、広大な土地があるオーストラリアならではの手法でした。もちろん、牧草地への化学肥料や羊へ抗生物質投与はしません。ただ、毛刈りの様子については不明なままでした。

その数年後に出会ったのが、起毛オーガニックコットンです。
コットン糸を毛羽立たせることで、空気を含ませ、暖かな素材になるのです。肌触りもよく、これだ!と思いました。
2017年に、この素材でヴィーガンコレクションとして東京で発表した時は、まだヴィーガンという概念が浸透していなかったこともあり、あまりバイヤーさんの共感は得られませんでした。ですが、その後モントリオールのヴィーガンフェスティバルに出展した時は、とても評価していただきました。ただし、冬場はマイナス20度を下回るモントリオールです。いくら起毛してもコットンでは防寒力が弱く、やはり動物繊維にお世話になる必要性を痛感しました。

そこで、今まで使ってきた動物繊維を改めて見直し、行き着いたのがアルパカです。
アルパカはアンデスの高原地帯で放牧され、環境とバランスを保ち、草原を傷つけることもなく、非常にサステナブルな家畜動物だと考えられています。光沢感のある毛は美しく、防寒力も抜群。さらに凄いことに、黒、白、グレー系、ベージュ系などの毛色のバリエーションがあるので、染色しなくても様々な色が楽しめるのです。
アルパカの主な生息地であるペルーへの訪問は未だ叶いませんが、実は私が住むカナダケベック州にもアルパカ牧場がいくつかあり、昨年そちらを訪問して、オーナーの方から詳しくお話を伺いました。毛刈りの様子はコロナ禍で見学できませんでしたが、「丁寧に傷つけることなく毛刈りをしています」と自信を持って答えてくださいました。アルパカ一頭一頭に名前をつけて可愛がっていることからも、その様子が伺えました。
ちなみに現在アミツムリでは、アルパカと起毛オーガニックコットンを使ったシリーズを作っていて、今年1月15日(土)午前10時放送予定の通販番組「ショップチャンネル」でも販売予定です。

エシカルはあくまでも主観的。大切なのは自ら考え行動し、改善していくこと。

全ての物事には善悪はなく、「エシカル」はあくまでも主観的なものだと思っているのは、今までも述べてきた通りです。
「人間が生きるために、動物の犠牲は仕方がない」という意見もあるでしょう。逆に、「全く動物繊維を使うべきではない」という考え方もあるでしょう。それで良いのだと思います。

私は、ヴィーガンコレクションに、生分解性のないフェイクファーの素材でポンポンを作り、帽子につけました。あまりにフェイクファーを作る技術が素晴らしく、その情熱と動物を守ろうとする愛に個人的に共感したからです。
ヴィーガンフェスティバルで発表した際、絶賛される一方で、一部のヴィーガンの方からは、あまりにも本物そっくりなので、リアルファーの使用を逆に誘発してしまうと非難されました。色々な考え方があるものです。皆さんは、どう考えますか?

人間の衣食住と動物の関わり合いについて、10年以上考察してきましたが、本当に絶対的な正解はなく、正義の押し付け合いはナンセンスだと実感しています。かといって、何も考えずに選択し消費していくのも、建設的ではありません。
一人一人が自分で考え、その時の自分の正解を見つけ、行動し、それによりお互いが自ら刺激し合い、また一人一人が考えて内発的に改善し…その結果として、社会全体のより良い流れができたら良いなと思っています。

アミツムリのデザイナーとして、一人の消費者として、動物・自然環境・私たち、みんながハッピーになる選択肢を これからも探究していきたいと思っています。


【この記事を書いた人】
ニット帽子ブランド「アミツムリ」デザイナー
寺本恭子

東京生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、東京田中千代服飾専門学校デザイン専攻科へ。卒業後は、オートクチュール・ウエディングドレスデザイナー・松居エリ氏に師事した後、祖父が経営する老舗ニット帽子メーカー吉川帽子株式会社を受け継ぐ。2004年にニット帽子ブランド「ami-tsumuli(アミツムリ)」を立ち上げ、同年にパリの展示会でデビュー。2014年からカナダ・モントリオールへ居を移し、サステナブルな視点を生かしながら創作を続けている。
Instagram@kyoko_tf

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