スポーツができる環境を守らなければならない。スポーツメーカーの使命とは。
梅雨も明け、いよいよ夏本番。ここ数年は最高気温が35度を超える日も珍しくなく、地球温暖化の影響により世界の気温は年々上昇しています。この夏の猛暑、実はスポーツ界においても深刻な問題になっています。
2019年のドーハ世界陸上選手権では、暑さを避けるためにマラソンと競歩が深夜に開催されましたが、女子マラソンでは4割以上の選手が途中棄権しました。日中は40度を超え、夜でも30度以上の熱帯夜になるドーハ。選手達にとって命がけのレースとなったこの大会には、世界中から批判の声があがりました。東京オリンピックにおいても、暑さを理由にマラソンと競歩の会場が札幌に移されたことは記憶に新しく、この時は予想以上の暑さのために、女子マラソンの開始時間が急遽1時間繰り上げられることになりました。その他、猛暑の中開催される甲子園では、毎回熱中症で体調不良を訴える選手が出ており、その是非について毎年のように議論が巻き起こっています。単に開催地を変更するだけでは暑い中で練習する選手の状況は変わらず、秋に変更するにしても地方大会に向けて行われる練習は真夏になります。このまま気温が上昇し続けてしまうと、夏に外でスポーツをすることすら危険な行為になりかねません。
国体を主催し、スポーツ指導者の養成を行う日本スポーツ協会では、具体的なガイドラインとして、熱中症予防運動指針を発表しています。WBGTと呼ばれる、①湿度②日射などの周辺熱環境③気温の3つの指標が考慮された暑さ指数を元に、どのように運動をしたらよいのかの目安がレベル別に示されています。また協会ではこのガイドラインに加えて、スポーツ活動中の熱中症予防5ヶ条なども盛り込んだ「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」を配布しています。全国の暑さ指数(WBGT)は環境省のホームページからも確認することができるので、これからの季節に外で運動される方は是非確認してみてください。
スポーツ用品メーカー大手であるアシックスの代表取締役社長CEO兼COO 廣田康人氏も以下のようにコメントし、警鐘をならしています。
『スポーツの現場において気候変動は大きな影響を与えている。スポーツメーカーとして深刻に受け止めており、将来にわたって、安心してスポーツができる環境のため、具体的な対策が必要。』
アシックスの取り組み
「誰もが一生涯、運動・スポーツを通じて心も体も満たされるライフスタイルを創造する」ことを目指す姿として掲げているアシックス。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目標に、問題解決に向け積極的に取り組んでいます。製品開発や事業運営などバリューチェーン全体で脱炭素に向けた循環型ビジネスを推進し、その動きは世界からも称賛されています。事実、国際的な環境評価NPOの英CDPによる「サプライヤー・エンゲージメント評価」において、3年連続で最高評価を受けています(最高評価を受けたのは6200社のうちの上位8%)。
新商品の90%以上にリサイクル素材を使用
2021年から発表されたランニングシューズの新商品の90%以上にリサイクル素材が使用されています。これまでは石油由来の素材だったところを再生ポリエステル材に切り替えることで、循環型のモノづくりを加速しています。
全世界を対象に環境に配慮したシューズボックスの導入
アシックスの取り組みは製品作りだけでなく、包装資材にまで広がっています。2020年の夏に導入されたシューズボックスには100%再生紙と水性インクが採用され、全世界に展開されました。これにより紙の使用量が約10%、そしてインクの使用料が約50%削減され、年間約1,200トンのCO2削減に貢献しています。
事業活動での使用電力を100%再生可能エネルギー化
2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするため、事業運営も変わってきています。2020年9月には、事業活動での使用電力を100%再生可能エネルギー化する事を目指す企業による国際的な環境イニシアチブ「RE100」に加盟。これを受け、今年に入り国内の全ての自社所有事業所が再生可能エネルギーに切り替わりました。太陽光・風力・水力・バイオマス・地熱などを使う再生可能エネルギーは温室効果ガスを排出しません。2030年を目標に各国の事業所やグループ工場も含めた完全な切り替えが完了する予定で、脱炭素に向け着々と計画が進められています。
スポーツのチカラで温暖化を止めるために
心身の健康を保ってくれるだけでなく、沢山の人を魅了し、見る人に夢や希望、ワクワクを届けてくれるスポーツ。東京オリンピックでは、競い合う国の選手達がフィールド上でお互いを称え合う姿にも感動しました。そんな沢山のチカラをもつスポーツを、未来の子供たちも変わらずに楽しむことができるように、スポーツメーカーは環境問題に真剣に取り組んでいく必要があります。そして同時に私たちも企業の活動に賛同し、消費者として責任ある行動をとっていきたいものです。