地域の資源で作る循環型社会|「森のめぐみ研究所」がつくるドライフルーツ
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NTT東日本・NTTアグリテクノロジーが新しく始めたプロジェクト、「森のめぐみ研究所」。
テーマは「森と循環」。
林野庁によると、日本は国土の約3分の2を森林が占める、世界でも有数の森林国です。また、その森林の約4割は人が木を植えて育てた人工林です。現在、戦後に造林された多くの人工林が本格的な利用期を迎え、資源量は年々増加しています。しかし、木材の利用は十分に進んでいないのが現状です。
本来、人工林を伐って使うとともに、新しい木を植えて育てることを進めていくことで、未来につながる森林の持続的なサイクルが保たれます。しかし現在は、これまでのように間伐材が使われなくなったため、森の手入れができず高齢化が進んでいます。
そこに着目した両社が生み出した、地域の資源でつくる循環型社会について取材してきました。
森を生まれ変わらせるサイクル
森は木の成長や光合成を促進するために定期的な手入れ(間伐)が必要です。
しかし、昨今の日本では薪や割り箸などの利用が減少したこともあり、間伐されない、もしくは切り倒された木がそのまま放置されている森がたくさんあります。
そこに注目してスタートしたのが、NTT東日本・NTTアグリテクノロジーの両社が着目した、地域に眠る未利用資源と同社が有するICTと組み合わせることで、地域経済の活性化や循環型社会の実現につなげるプロジェクト「森のめぐみ研究所」です。
「森のめぐみ研究所」では、廃校に木質バイオマス熱電併給の装置を設置し、その熱を利用して、しいたけやドライフルーツを生産することで、エネルギーの地産地消と、新たな特産品を生み出しています。
森林由来の熱エネルギーでつくるドライフルーツ
木質バイオマスを稼働させることで森林由来の熱エネルギーをつくり出し、その際に発生する熱を利用してしいたけの栽培やドライフルーツを作っています。
ドライフルーツに使われる果物は、地域の市場に流通しない規格外のものを使用。さらに、果物の加工工程で発生する食品残さ(果物のヘタなど)を有機肥料に変えることで、森がまた生まれ変わるのです。
これが森のめぐみが循環した、地域の資源でつくる「森薫るドライフルーツ」です。
旬のフルーツが楽しめるのも魅力
群馬県で収穫された旬の規格外フルーツを使用しています。
規格外フルーツを使っているとは思えないほど形も美しく、ギフトに買われる方も多いそうです。砂糖や防腐剤を使用していないため、お子さんや、わんちゃんと一緒に食べる方もいらっしゃるとか。
そのまま食べるのはもちろんのこと、紅茶やワイン、シリアルにいれるなど、いろんな食べ方が楽しめます。
今回のプロジェクトに携わっている小平さんのお話
今回お話をお伺いしたのは、NTT東日本のビジネス開発本部営業戦略推進部の小平翔さんです。
―なぜNTT東日本さんがこのような事業をされたのでしょうか。
小平さん(以下敬称略):NTT東日本はこれまで地域通信会社として各地域への通信インフラの提供を担ってきましたが、通信分野だけにとどまらず、地域が抱える様々な課題に対してアプローチしていきたいという想いから、地域が持続可能な循環型社会を実現できるような新規事業開発に取り組んでいるところです。
今回、地域の未利用資源を活用して新たな循環型インフラの構築ができないかと考えていたところ、群馬県渋川市で木質バイオマスを運用している会社さんと出会い、森林の荒廃が進んでいる現状や児童の声が聞こえなくなった廃校の寂しさ、農家さんがやむなく捨てている規格外の青果など、地域の現状がどんどん見えるようになってきたんです。
私たちNTT東日本グループは、長年地域の皆様と築いてきた大切な信頼関係と通信インフラを基盤としたネットワークとエンジニアリング力を有し、さらには熱い想いを具現化する仲間が全国1万人以上存在しています。こういった強みを活すことで、今後も地域の課題解決に貢献できるのではないかと考えています。
―構想期間はどのくらいでしょうか。これから全国で展開など考えていらっしゃるのでしょうか。
小平:「森のめぐみ研究所」の構想期間は2~3ヶ月程度です。やろう!と決めてから、木質バイオマスのエネルギーを活用するまでかなり短期間で進めてきたので、NTT東日本社内でも過去に類を見ないスピード感での実現だと自負しています。
現在のステータスとしては、まずは生産実証からスタートしています。今年の8月頃から生産規模を拡大して、現状の約10倍の生産量になる予定なので、生産品だけでなく商品のアイテム数も増やしたいと思っています。
「森のめぐみ研究所」では、森林関係事業者さんや生産品の販売事業者さんなど、徐々に現地へ見学にきていただいており、少しずつ注目をいただいていると感じており、私たち働くメンバーのモチベーションにもなっています。
今後は、渋川の「森のめぐみ研究所」を循環型社会の実現に向けた発信拠点として、全国にこの取り組みを広げていきたいと考えています。地域に密着した現場力とテクノロジーの力で夢や希望を感じられる持続可能な循環型の地域社会を共創していきたいですね。
何ひとつとしてムダなものがない
今回の取材を通じて、地域に眠っているさまざまな資源に着目して、それを経済価値に変えて持続的な社会の実現を目指すサスティナブルな取り組みが今まさに渋川の廃校を拠点として進行中であることを感じました。この取り組みが盛り上がれば盛り上がるほど、地域内の循環が高まり、森林環境も良くなり、林業も農業も活性化します。自然も、そして収益も循環させることができる。これから注目のプロジェクトですね。
2025年を目途に複数の地域でも取り組みを進めているとのことなので、これからが楽しみです。