6月は「食育月間」!バランスのいい食事で気付かず陥っている“低栄養“状態から抜け出そう
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近年、経済の発展や食の⻄洋化により日本人の食生活は大きく変化しています。コンビニやデリバリーなど、食べものが気軽に手に入る時代になり、特に若い世代やフルタイム勤務の会社員など、調理に時間の取れない忙しい人にとって便利な加工食品や外食の利用が増加しています。
便利になった一方で、栄養が不足しても過剰に摂取しすぎても体に負担がかかります。偏った生活を続けてしまうと生活習慣病に陥ってしまう場合もあるため、食文化が多様化したことで、食べ過ぎや、好き嫌いなど栄養バランスの偏りによる食習慣の乱れなど、健康への悪影響が懸念されています。
毎年6月、厚生労働省が心身の健康を支えるための食生活を促進する「食育月間」を設けるなど、健全な食生活の実現に向けた取り組みを国をあげて行っています。
今回は、静岡県立総合病院リサーチサポートセンター臨床研究部⻑の田中清先生に、栄養の偏りによって起こる症状や対処方法、普段の食事でどのようなことに気を付けるべきなのか教えていただきました。
食育月間を目前にした今、健康な体を維持するために必要な栄養素や、日本人に不足しがちな栄養素を知り、「食べ物を賢く選択する力」を身につけましょう。
実はあなたも当てはまる?知らずに陥っているかもしれない“低栄養”状態
皆さんは「低栄養」という言葉を知っていますか。これは、体内のたんぱく質などが不足し、身体機能の維持に必要な筋肉や骨を作るための栄養が足りない状態を言います。人間の体は健康的に生きるために必要な栄養素として、たんぱく質のほかにも脂質や炭水化物、ビタミンといった様々な栄養が欠かせません。1日に消費する栄養に対し、摂取する栄養が足りないことで起こるのが低栄養です。
この主な原因としてあげられるのが、「食事量の低下」。特に高齢者は全身の筋力が低下し、噛む力が衰え食事を摂取しにくくなり、食事量が低下しやすくなるため、低栄養状態に陥りやすいと言われています。
また、若者の間で低栄養が増えている原因として挙げられるのが、ダイエットや美容の為の食事制限や、偏った食生活。ファストフードやインスタント食品の摂りすぎは、脂質・糖質は多めである一方、ミネラルやビタミンが極端に不足し低栄養状態の原因となります。それには気をつけている!という方も多いかもしれませんが、実はパスタのみの昼食や、パンとコーヒーのみの朝食など、炭水化物が多めの食事も低栄養状態になってしまう代表的な例。これには「もしかして自分のことかも」、と不安になった方もいるのではないでしょうか。
低栄養状態で陥りがちな“3つの力”の低下
低栄養状態で陥る症状には、大きく分けて3つあります。
まず代表的な症状は、集中力・思考力の低下です。「頭がボンヤリする」「仕事中や活動時間帯に眠気を催す」 といった症状を発症します。大きな原因は炭水化物不足です。糖質制限によって極端に炭水化物を控えると、ブドウ糖不足が起こるため、頭がボンヤリしやすくなります。
また、炭水化物をブドウ糖に変換する栄養素、ビタミン B 群の不足も脳の働きを低下させる原因です。つまり炭水化物ばかりを食べていても、脳のエネルギーにはなりません。炭水化物と一緒にビタミン B 群を摂ることで、脳のエネルギーを効率よく補給できます。
2つ目の症状は、体力の低下です。食事量が減ったり、食事内容が偏ると、必要な栄養素が摂取できないため体力がどんどん低下し、活動的な状態を維持 できなくなります。体を動かすことがしんどくなり、運動や外出が億劫になることも多いでしょう。毎日を楽しめないのはもちろん、体型の崩れや肥満といった悪影響が出てくる可能性もあります。普段の生活で疲れやすくなっていたら要注意です。
3つ目は、免疫力の低下です。人間の体に備わっている防御能力で、細菌やウイルス、カビといった体に悪影響を及ぼす病原体の体内侵入を防ぐ「免疫力」。これを損なわないためには、運動や睡眠などのさまざまな要素が必要ですが、なかでも重要なのが食事です。たんぱく質不足やビタミン不足は、免疫力の低下を促します。特にたんぱく質は、内臓・筋肉の生成に関わるほか、細胞の免疫物質の原料となる栄養素です。 例えば、たんぱく質不足によって筋肉量や内臓の働きが低下すると、体が冷えやすくなります。免疫機能が低下するため、 さまざまな不調があらわれやすくなります。
低栄養、栄養不足は他にも、「不眠」「体が疲れやすくなる」「肌荒れ」など様々な症状を起こす場合もあります。栄養不足を防ぐ一番の方法は、バランスの良い食事です。いろいろな食品を満遍なく摂ることで栄養の偏りによる栄養不足を防ぐことが出来ます。
だるさや疲れを感じたら栄養不足のサイン、近年海外でも注目される栄養素「ビタミンB1」
バランスの良い食生活をすることが低栄養に陥らないための一番の方法ですが、昨年国内において「ビタミンD欠乏」が注目されたように、食文化の違いや時代の流れにより、どうしても摂りにくい栄養素もあります。
昨今世界でも摂取不足が注目されている栄養素は、“疲労回復ビタミン”とも呼ばれ、生活するうえで重要な栄養素である「ビタミンB1」です。
「ビタミンB1」はチアミンとも呼ばれる水溶性のビタミンで、解糖系やクエン酸回路のエネルギー代謝の一部で補酵素とし て働き、特に糖質を代謝するために欠かせません。また、糖質を燃やしてエネルギーに変えるときに必要なビタミンのため、糖質やアルコールを多く摂取する人にぜひ摂り入れてほしい栄養素です。 また、運動によってエネルギー消費が多い人はより多くの「ビタミンB1」が必要になります。なかなか痩せない、疲労回復が遅いと感じる人は、摂取量にも着目してみましょう。 また、不足すると、ブドウ糖から十分にエネルギーを産生できなくなり、食欲不振、疲労、だるさなどの症状が現れます。脳はブドウ糖をエネルギー源としているため、「ビタミンB1」が不足するとエネルギーが不足し、脳や神経に障害を起こします。重症な場合は脚気(足の浮腫、しびれ、動悸・息切れ)やウェルニッケ・コルサコフ症候群(中枢神経が侵される障害)になり、重篤な場合は死亡することもあります。
「ビタミンB1」は主に食事から摂取され、肉類、魚類、豆類、穀類、種実類などに多く含まれます。米や小⻨にも多く含まれますが、精製されると少なくなるため、主に発展途上国など、白米や白い小⻨粉の割合が高い食事では欠乏症になることがあります。
欠乏のもう1つの大きな原因としてあげられるのが、アルコールの多量摂取です。アルコールを摂取すると、代謝酵素によりアセトアルデヒドに分解され、アセトアルデヒドはさらに体内で分解されて、酢酸に変化します。最終的にエネルギーを作り出すときに「ビタミンB1」が消費されますが、多量にお酒を飲んだ場合は、代謝酵素のみでは分解が追い付かず「ビタミンB1」が必要となります。
「ビタミンB1」は玄米、胚芽米、全粒粉パンなど胚芽の部分に多く含まれているため、精製されていない食材を選ぶのがポイントです。水に溶けやすいので、汁ごと食べられる調理法もおすすめです。また、ニンニクや玉ねぎに含まれる『アリシン』と一緒に摂ることで吸収率がアップします。
今回、不足しがちな「ビタミンB1」のおすすめの摂り方をご紹介しましたが、特定の栄養素ばかりを過剰に摂取することも体に悪影響を及ぼす可能性があります。大切なのは、植物性食品、動物性食品ともに”バランスよく摂取する”こと。これが健康への近道です。
とはいえ、栄養素の種類は複数ありますので、それぞれの栄養素が豊富な食品を意識して全て食べるというのも現実的には困難です。「偏った食事をしない、同じものばかり食べない、できるだけ多様性を持たせていろんな種類の食品を食べるというのが最善の予防策」と監修者である田中氏は言います。
食生活を見直しつつも、推奨量を摂取しにくい栄養素に関しては、サプリメントで補うなどもバランスよく栄養を摂る方法の一つです。
『食育月間』となる6月。この機会に、自分に合ったバランスのいい食生活はどんなものか考えてみてはいかがでしょうか。
<監修者プロフィール>
静岡県立総合病院リサーチサポートセンター 臨床研究部⻑ 田中清(たなか きよし)氏
所属:静岡県立総合病院 リサーチサポートセンター 臨床研究部⻑
所属学会: 日本病態栄養学会(学術評議員) /日本ビタミン学会(理事) /脂溶性ビタミン研究委員会(委員) /ビタミンB 研究委員会(参与) /日本栄養改善学会(評議員) /日本骨粗鬆症学会(評議員)
執筆/フリーライター Yuki Katagiri