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地球が抱える“現代病”に効く! 阿蘇の草原に学ぶ地球と生きる術

地球が抱える“現代病”に効く! 阿蘇の草原に学ぶ地球と生きる術

#SHOW CASE
  • 気候変動に具体的な対策を
  • 陸の豊かさも守ろう

温暖化や異常気象、水不足など、地球が抱える深刻な“現代病”は待ったなし。世界各地で頻発する自然災害は、私たちの暮らしが転換期に差し掛かっていることを示しています。次の世代へ、住みよい地球を継ぐためにはどうすれば良いのでしょうか。ひとりで抱えるには少々大きすぎる疑問に、ひとつの答えを与えてくれる阿蘇の“草原”。そこで約1万年続く人と草原の営みを通じて、持続可能な地球と生きるヒントを探ってみたいと思います。

阿蘇の草原をはぐくんできた「野焼き」

九州随一の観光地・阿蘇。春は野焼きの黒、夏は新緑の緑、秋は実りの金、冬は雪原の白‥4つの色を持つと謳われる阿蘇の風景に「草原」はなくてはならない存在です。なかでも毎年草原を維持するために行われる「野焼き」では、一帯の草原を焼き払うために、全国から延べ1000人のボランティアが集います。枯れ草が揺れる大地を勢いよく火が駆け巡る「野焼き」は、草原をはぐくむために欠かせない活動です。

人の手が入らなければ、日本から草原は消えてしまう

およそ1万年前、縄文時代から続く阿蘇の草原の歴史は、野焼きの歴史でもあります。「なぜわざわざ火を放つの?」と驚かれる方もいるかもしれませんが、日本のように高温多湿の気候条件で野焼きをしなければ、草原はあっという間に薮(やぶ)から雑木林へと姿を変えてしまいます。先人たちが守り継いできた草原も、そこで培われてきた草原独自の生態系も崩れてしまいます。

では、なぜ1万年もの間、草原を維持することができたのでしょうか。それは人間にとって草は、住まいや肥料、家畜のエサなど、多用途に使える暮らしの糧だったからです。野焼きを欠かさず行っていれば、毎年“草”という資源を享受できる。このことは、人類にとって大きな発見だったに違いありません。一方で草原の植物にとっても野焼きをすることで発芽が促進されることで、植物や生物の新たないのちをはぐくむ役割を担ってきました。「野焼き」は草原と人、両者のいのちをつなぐためになくてはならない営みです。

約600種の草原生植物が息づく、生物多様性のシンボル

阿蘇の草原には、貴重な絶滅危惧種も多数観測されています。「ハナシノブ」や「オグラセンソウ」をはじめ、約600種の希少な植物や昆虫が自生する草原は、まさに“植物の宝庫”。自然豊かな草原には、100種以上のチョウが観測されており“チョウの楽園”とも謳われています。さらに、阿蘇の草原の土壌に棲む微生物の働きは、まだまだ解明されていないことばかりだとか。全国の多くの場所で草原が姿を消している今、阿蘇の草原は生物多様性の側面から見ても貴重な存在です。

そもそも「野焼き」ってどんなことをするの?

そもそも「野焼き」の作業とは、どのように行われるのでしょうか。草原に火を放ついわゆる「野焼き」の作業自体は、3月〜4月にかけて行われますが、単純に枯れ草に火を入れるだけでは瞬く間に山火事になってしまいます。安全に野焼きを実施するためには、前年度の夏から秋にかけて草原と隣接する森林の間の草を幅6〜10メートルほど刈ります。その後、刈った草を燃やし、防火帯を作ります。

防火帯を作る現場の多くは、機械が入ることさえ難しい斜面や山の奥地です。そのため、作業のほとんどが地域住民や野焼き支援ボランティアによる手作業で、防火帯の長さは阿蘇地域全体でおよそ530キロメートルにも及びます。暑さの残る時期、足場の悪い中で行う作業はかなりの重労働です。それでも防火帯づくりに取り組むボランティアさんたちは「普段出会えない阿蘇の景色を見ることができる」「毎回、手作業で行う作業を通じて人の力の偉大さを実感します」とポジティブです。

ニーズは変わっても、変わらない草原の価値

草原の草を農業や放牧、住まいのあらゆる場面で活用していた草原文化の全盛期は、昭和30年代頃までのこと。高度経済成長期に差し掛かると、化学肥料の台頭やトラクターの普及、人々のライフスタイルなどの変化に伴い、草の需要は急速に減ってしまいました。さらに現在では、少子高齢化によって受け継がれてきた野焼きの技術を継承する地域の担い手不足が大きな課題となっています。

明治時代には国土の10%を覆っていた草原は、今や1%に満たない面積まで激減しています。それは、日本一の面積を誇る阿蘇の草原も例外ではありません。歴史を顧みれば、人と草原の関わりが少しずつ変化するのはごく自然なことですが、草のニーズが減ったとしても草原に宿る本質的な価値は変わりません。

野焼きする草原は、二酸化炭素を吸収している

阿蘇の草原は、温暖化という地球規模の課題にも一役買っています。温暖化を食い止めるには、二酸化炭素の排出抑制と同様に、炭素を地中に溜める「炭素固定」の両面からアプローチしていく必要があります。
草原に生える植物の根や燃やした後の炭が溜まることで、炭素が固定されると言われており、毎年野焼きをおこなっている草原の1年間のCO2吸収量は6.9t /CO2/haと言われており、阿蘇の全世帯が排出するCO2の1.7倍に相当する量です。阿蘇地域は草原を維持することで、地球温暖化の抑制に貢献している地域だといえます。

500万人の暮らしを支える阿蘇は“九州の水がめ”

年間降水量3000ミリ。阿蘇は全国有数の降水量の多い地域です。地中に吸収された雨水は、ゆっくりと土壌で濾過され地下水となり、およそ30年かけて私たちの飲み水になります。草原と森は、同じくらいの保水力があると言われており、阿蘇の草原を維持することは、伏流水を享受する流域人口500万人の暮らしを支えていることになります。熊本地震が発生した際にも復旧が早かったのは、阿蘇地域に数十ヵ所ある湧水の存在が大きいと言われているように、阿蘇の草原には地下水をはぐくむ自然のシステムは災害時のレジリエンスも担保しているのです。

自然災害の被害を最小限に留める草原

阿蘇の大部分のエリアは、火山灰が堆積した土壌のため、土砂災害が発生しやすい地域でもあります。地元の人たちは昔から、土砂災害のことを「ヤマシオ」や「ヤマツナミ」と呼んできたそうです。それほど土砂災害が頻繁に起こる地域だったといえます。しかし、草原では森林のように樹木が生えていないため、流れ出る土砂や木が少なく、被害が大きくなりにくいと言われています。草原を維持することは、居住の歴史の長い阿蘇で先人たちが見出した生きる術だったのかもしれません。

毎年「野焼き」によって維持される阿蘇の草原。地域の特性を活かして生きることの大切さを教えてくれる存在です。一方で刻々と姿を消している日本の草原のために、私たちができること。それは、身近な“草原”に目を向けることです。河原の土手に広がる草原も、小さな空き地の雑草も、スキー場やサッカー場の芝生も立派な草原の仲間。
阿蘇の草原の場合は、あか牛や野草堆肥を使った野菜を食べること。草原を訪れ、アクティビティに参加すること。野焼き支援ボランティアの講座を受けたり、支援すること。そのどれもが草原の保全活動につながっています。地球と生きるすこやかな未来に紡ぐのは、あなたが起こす一つひとつのアクションです。

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