800年以上の歴史を持つ伝統工芸品を守れ!日本3大古布「葛布」とは
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800年以上の歴史を持つ、静岡県掛川市に伝わる伝統工芸品「葛布」をご存知でしょうか?実は、葛布の原料の「葛」は身近な野草で葛餅や葛根湯としても有名です。
軽くて丈夫で光沢が美しい葛布は、日本3大古布の一つで掛川城の天守閣にある襖などにも使われています。しかしながら、掛川市で葛布を織る工房も今ではわずかに2軒。
環境にも優しいと言われている「葛布」の魅力を深掘りするために小崎葛布工芸(株)さんに伺いました。
葛布って何?行者が広めた歴史とは
東海道26番目の掛川は宿場町としてだけでなく、城下町としても発展していました。この東海道の要衝だった地に、鎌倉時代から伝わる織物が「葛布」です。呼び方もまちまちで、地元では「かっぷ」と呼び親しまれています。
葛布は丈夫で強いため、襖や座布団などにも使われている掛川の名産品です。葛は秋の七草の一つと捉えられ、日本全土の野山で蔓をなして自生する雑草のような植物です。そんな葛が掛川で織物になったのは、あるきっかけがあったと伝えられています。
その昔、掛川の山深いところで滝に打たれて修行する行者がいました。来る日も来る日も川に入り、滝に打たれる日々。ある時、川の流れに目をやると、水にさらされて白くなった葛の繊維をみつけました。行者はこの地の人に葛の繊維を取る方法を教え、それが東海道の往来が盛んになるとかみしもや袴の生地として全国に広まったのだと言われています。
時代と逆行している!?葛布ができるまでの工程とは
「葛布」は、職人たちの手作業によって生み出される唯一無二の逸品です。
まず、小指くらいに太くまっすぐに伸びた葛のつるを引き抜き、葉を丁寧に取り除きます。その後つるを釜で煮ることで、表皮、繊維、芯を分離させます。煮る時間は、つるの太さや季節、その日の天候によって変えているそうです。
煮上がったつるは、川に半日ほどつけて水をたっぷり吸わせてあげます。綺麗な水でなければ品質が落ちてしまうそうです。その後、青草の下で2日間ほど寝し、発酵させることで、表面が離れやすくなります。良い頃合いで発酵させたつるを川に持っていき、表皮を剥いて芯を取り出します。
さらに水では落ちない油かすを取り除くため、ぬかにつけて一晩。乾燥させてやっと繊維ができあがるのです。その繊維の光沢や強度によって日傘や、座布団、襖といった用途に分けていくのだといいます。
このような手作業での長い工程を経た葛の繊維は、絹や麻にはない渋みのある光沢を持ち合わせます。職人が、できあがった葛の繊維を一つ一つ手作業で裂いて、約2~5mm幅の糸を紡いでいきます。そうしてできた一本の糸を職人が手織りで織ることで、葛布となります。
葛はどこにでも生えているような草ですが、ここまで手間暇かけなければ繊維として使えないのです。
長い歴史をもつ葛布の取り組み・課題とは
実は、葛布の原料、葛は、繁殖力が強く、すぐに雑草化してしまうという課題を抱えています。そのため、葛布は、多様な生物が生きられる山地の生態系を確実に守るための目標、SDGs15「陸の豊かさを守ろう」につながる取り組みの一つであると考えられます。
しかしながら、「葛布」は手作業でしか生み出せないため、現在掛川市で葛布を作っている工房は、今回訪れた小崎葛布工芸さんを含めて2店舗しかありません。現在、小崎葛布工芸さんで葛布を織る職人は10人、最高齢は90歳の職人さんが活躍されています。
日本3大古布「科布」「葛布」「芭蕉布」のうち、葛布は唯一国が指定する伝統工芸品に指定されていません。その理由は、認定条件である「一定の地域において少なくない数の者がその製造を行い、又はその製造に従事しているもの」を満たしていないから指定できないとのことです。
800年以上の歴史を持つ葛布を守るためにも、まずは葛布を知ることが大切だと考えます。
現在では強い繁殖力を生かし、葛から紙を作り森林やそれら周辺の環境維持に努めつつそれを販売し出た利益を葛布の従事者増加・育成等に充て伝統をつなげていっているようです。
日用品からお城の襖まで、多種多様な葛布の用途
葛布の商品は、バックや、帽子、扇子など多岐に渡ります。特に人気なのは名刺入れなどの小物で、ほかには団扇、日傘なども人気だそうです。
軽くて丈夫なのが特徴で、使っていくことで、色味が変化していくのも葛布の楽しみのひとつとなっています。下記写真の一番右が新しい布になりますが、真ん中の茶色の布は200年ほど経った布だそうです。
職人たちによって生み出される「葛布」は、すべて一点もの。丈夫な葛布はヴィンテージデニムのように何年、年十年と使い込むことで光沢が増します。代々受け継ぐことができる葛布は、使い捨てではなく繰り返し使うことで、環境にも優しく、その美しさと価値は、使う人の手によって魅力を増していきます。
小崎葛布工芸(株) 小崎さまよりコメント
「掛川市に約1,000年続く伝統工芸「葛布」。現在では織元も2店となってしまい何とか次の代に継承していかなければと、日々努力をしております。そんな中、繁茂している葛を使用し「ペーパー」を作ることに成功しました。いろいろな企業に名刺の紙としてお使いいただき、そこから得た利益を従事者育成に充てていこうと考えております。掛川市でも小・中学生の卒業証書にも使用していただき、行政のご協力にも感謝しております。
全てが時代に逆行した作業の連続で製品となる葛布、グリーンモンスターともいわれる葛の蔓の中からは絹にも勝る光沢の有る繊維が取れます。毎日見ていても素晴らしい輝きです。年月を重ねると飴色に変化していき、味わいを増していきます。
私が子供のころには夏になるとあちこちで葛を刈り取り、釜で煮て、川で晒している光景をよく見ました。糸をつむぐ方々の声や機織りの音もどこからともなく聞こえてきておりました。そんな景色が掛川にまた戻ってくることを夢見て、今日も葛布を織り続けております。」
少しでも興味を持ったら、ぜひ掛川市に足を運んでみてください。実際に目にする葛布の輝きは必見です。