世界の現場で培った知を、私たちの毎日に。 スポーツ医学の知を社会にひらく「Sports Doctors Network」の試み。
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スポーツ医学の最前線で培われた知見を、限られたエリートアスリートだけでなく、私たち一般市民の健康や福祉にも生かしていく。そんな志を掲げて誕生したのが、世界最高峰のチームドクターたちが集う「Sports Doctors Network(SDN)」です。2025年6月には、東京大学でアジア初となるカンファレンスが開催され、医療、食、睡眠、宇宙医療など多岐にわたる分野から「すべての人の健康」にアプローチする知見が共有されました。SDN独自の、専門領域を越えた連携の力が、私たちの健康や未来の社会課題にどう向き合っていけるのか──その可能性を、SDGsの視点から掘り下げていきます。
「治す」から「整える」へ、SDNが目指す新しい医療のかたち


「Sports Doctors Network(SDN)」は、世界屈指のスポーツチームで絶大な実績を持つ医師たちによって設立された、国際的な医療ネットワークです。CEOは、レアル・マドリードのメディカルアドバイザーとして知られるニコ・ミヒッチ氏。参加するドクターには、ロサンゼルス・レイカーズやニューヨーク・ヤンキースなど、世界のトップアスリートを支えるプロフェッショナルたちが名を連ねています。
SDNのはじまりは、アスリートのパフォーマンスをより良くしたいという想いからでした。世界中のスポーツ医療に携わる医師たちが、スポーツ種目や国境を越えて連携し、それぞれの現場で培った知見を持ち寄ることで、より包括的かつ最適なサポート体制を築こうとしたのです。この活動を通して見えてきたのが、“予防”の視点です。ただ「治療」するのではなく、パフォーマンスを最大限に引き出すために、どのように未然に不調を防ぎ、心身の状態を整えていくか。食事や睡眠、コーチング方法、さらには東洋医学と西洋医学を融合させた研究など、多様な専門知を掛け合わせ、個人の健康をトータルに支える新しい医療のかたちに価値を見出しました。


SDNのCOOでアジア代表を務める山田早輝子氏は、こうした取り組みは一部のエリートアスリートだけでなく、社会全体に還元できるのではないかと考えたのです。その試みとして、2025年6月には、東京大学で《Sports Doctors Network Conference 2025 in Tokyo》が開催されました。アジア初となるこのカンファレンスでは、SDNの中核メンバーとともに、トップアスリートや各分野の専門家が登壇し、先進的なスポーツ医学を基盤に据えた医療と健康のあり方が多角的に語られました。
登壇者には、オリンピック金メダリストの室伏広治氏、元サッカー日本代表の鈴木啓太氏、テニスプレイヤーの伊達公子氏、宇宙飛行士の山崎直子氏、フリーアナウンサーの滝川クリステル氏などが名を連ね、それぞれの視点から「健康」や「パフォーマンス」への考察が交わされました。


このカンファレンスでは、多岐にわたるテーマで様々な知見が共有されました。例えば、伊達公子氏は、現役時代の経験から睡眠や栄養などのバランスをコントロールすることの重要性を語りました。また、滝川クリステル氏は、睡眠は「未来の自分を作るための必要な投資」であり、学生への睡眠教育の必要性を訴えました。元サッカー日本代表の鈴木啓太氏は、マスターズ陸上選手の腸内環境を分析し、健康寿命の長い人々のデータを一般化に役立てていきたいと述べました。さらに、オイシックス・ラ・大地株式会社 創業者の高島宏平氏は「日本の食事の当たり前が世界のアスリートの食事の当たり前になる未来」に期待を寄せるなど、食と健康寿命の関連性についても熱く語られました。


このようにSDNが実践する“分野横断型の連携”は、SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」と強く結びついています。医療に限らず、異なる専門性が交差することで、新しい発想やアプローチが生まれる。そんな可能性を感じさせる時間となりました。
医療を自分のものにするために、SDGsができること


このような多角的な医療の視点を社会に届けるため、SDNは医師監修によるトータルヘルスブランド「GeNi(ジーニ)」も新たに展開しました。これは、「BEAUTY(美しさ)」「TASTE(味わい)」「HEALTH(健康)」の3つの観点から、日常生活に寄り添ったセルフケアアイテムを開発する試みです。 たとえば、美容液のような使用感とノンケミカル処方を両立させた日焼け止め「GeNi Sunscreen」や、予約の取れない名店「été」の庄司夏子シェフとコラボしたプラントベースのオーガニックサブレ「Sablé de Tokyo」、さらに腸内細菌データをもとに開発されたサプリメント「GUT CARE」など、いずれも世界のトップドクターの知見を活かした製品です。




こうした製品やサービスは、医療の中心が「治療」から「予防」へとシフトする中で、自分自身の身体に向き合うきっかけにもなります。まさにSDGsが掲げる「健康と福祉」の実現に向けた一歩として、SDNは専門知を日常レベルにまで翻訳し、私たち一人ひとりが無理なく取り入れられる形で提供しているのです。
専門性を持ち寄り、分野を越えてつながる。Sports Doctors Networkが実践するのは、そんな“ひらかれた医療”のかたちです。アスリートのために培われた知見が、今や私たちの日常にも応用されつつあります。治療だけでなく、予防や日々のケアへと視野を広げるその姿勢は、一人ひとりの「健康に向き合う力」を静かに後押ししてくれるはずです。
私たちの未来の暮らしをよりよいものにしていくために、SDNのように知を翻訳し、つないでいく存在は、社会全体の福祉や未来の課題に寄り添う、これからの医療のひとつのヒントになるのかもしれません。
執筆/フリーライター シナダユイ






