理系分野での女性活躍を推進するために──中高生向けのオフィスツアーの内容を拡充
この記事に該当する目標


Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)……これら4つの英単語の頭文字を組み合わせた用語である「STEM(ステム)」。OECD,Education at a Glance 2023によると、日本はこのSTEM分野の⼤学卒業⽣における⼥性⽐率が17.5%なのだそう。OECD加盟38か国の中で見ても、この数値は最下位を示しています。しかしながら、15歳時点の女子の科学・数学の能力(PISA)は、世界トップ水準を誇っているのだとか。このデータから、STEM分野に女性が少ない理由は、単純に学力の問題ではないことがわかります。
“性別で教科の得意・不得意がある”という思い込みの存在
東京都生活文化スポーツ局が行った「令和5年度性別による無意識の思い込み実態調査」では、高校生の約4割が「性別で教科の得意・不得意があると思う」と回答。中でも女子生徒のほうが、教科に対する「性別による思い込み」を持つことが多いという結果になりました。その背景には、ロールモデルの不足が一因として挙げられます。進路選択に迷っている女子高生をはじめ、これからの世代が、理工系学部における女性の卒業者比率17.5%という数字を見たとき、STEM分野で活躍する未来の姿がイメージできないのは大きな課題と言えるのではないでしょうか。この悪循環に終止符を打つべく、東京都が取り組んでいる施策が「女子中高生向けオフィスツアー」です。


2022年度からスタートしているこの「女子中高生向けオフィスツアー」のターゲットは、文理選択前の女子中高生。技術体験や社員と交流する中で、STEM分野の仕事や学びに触れる機会を増やしています。事後アンケートでは、将来を考える参考になったという声も多く、その満足度は驚異の96%以上。実際に見たり・聞いたり、五感を使った体験モデルは、進路選択に大きな影響を与えると言えるでしょう。なお、令和7年度はこの施策の規模を⼤幅に拡⼤することを、東京都は掲げています。この取り組みをさらに加速させるにあたり、公益財団法⼈ ⼭⽥進太郎D&I財団との連携を発表しました。


東京都とタッグを組むこの公益財団法⼈ ⼭⽥進太郎D&I財団も、これまでも女子中高生の理系選択を後押しする活動を幅広く展開してきました。その一例が「Girls Meet STEM」です。
令和6年度は26大学・31企業でSTEM分野の仕事や学問を体験するプログラムを合計123回開催しています。企業のオフィスツアーはもちろんのこと、大学の研究室ツアーなど、リアルな学びの場を提供してきました。
今回の連携協定の締結により、夏季期間のオフィスツアーは大きくパワーアップ。東京都と公益財団法⼈ ⼭⽥進太郎D&I財団の趣旨に賛同した企業が例年以上に参画し、50社を超える体験の場が設けられました。より多くの女子中高生が参加できるようになったことで、今まで定員超過で参加できなかった女子中高生にも新たな学びの機会が生まれています。
今年度第1弾のオフィスツアーで小池都知事が送ったエール
東京都と公益財団法⼈ ⼭⽥進太郎D&I財団の連携によってパワーアップした取り組みの名は、「Girls Meet STEM in TOKYO」。今年度の第1弾として、6月11日には一般財団法人GovTech東京でオフィスツアーが開催されました。


参加したのは、品川女子学院の高校生23名です。職員によるパネルディスカッションに真剣なまなざしで話を聞く姿が印象的でした。時折笑いも交えながら、生徒と職員がやりとりする様子は、STEM分野への“とっつきにくさ”のようなものが軽減されていたようにも思います。身近な日常とのつながりを意識しながら、理系領域を捉えるきっかけになったのではないでしょうか。


また、パネルディスカッションの最後には、小池百合子都知事も登壇されました。自身の経験を踏まえながら、生徒たちの質問に答え、未来を切り拓くためのヒントやエールを送りました。特に「文系、理系とはっきり決めてしまうのが、日本の空気だと思うが、実際の生活においては、どちらも響きあって答えを出すことが多い」という発言には、多くの生徒が励まされたのではないでしょうか。選択しなかったほうの領域をバッサリと切り捨てるのではなく、どちらも大切にするという姿勢は、将来の選択肢を無限に押し広げるでしょう。
進路や職業……様々な未来を考えるきっかけに
「Girls Meet STEM in TOKYO」は、“STEM分野における将来的なジェンダーギャップの拡大を防ぐ” 目的のもとに実施されていますが、それにとどまらず、「より納得して将来を選ぶための機会をつくる」という意味でも、極めて重要な取り組みです。
オフィスツアーに参加してSTEM分野に進むのはもちろん、参加した上でやっぱり文系領域に進むというのもまた大切な選択ではないでしょうか。女子中高生一人一人が自分の可能性に向き合い、実感を持って将来を選択していく。この過程こそが、真のジェンダー平等につながっていくのではないでしょうか。
執筆/フリーライター・黒川すい






